国境を越えた愛、ロイヤルロマンス

青の雀

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前世の記憶

カメリア王女の場合

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 わたくしの名前は、カメリア・フォン・デラエア、デラエア王朝の最後の女王です。
 わたくしには、最愛の夫がいます。この国の公爵でアームストロングといいます。

 アームストロング公爵との結婚は、父からの命令でした。
 幼いころからの婚約者候補の一人では、あったけれど、年齢もわたくしより7歳年上でお話しても、ちっとも楽しくありませんでした。
 でも、いつの間にか婚約者候補がアームストロング様ただ一人になってしまいました。

 厳密にいうと、好きに選んでいいということでしたが、当時、わたくしは王立学院を首席で卒業したばかりの世間知らずの娘で、恋愛に疎く興味ある男性がいなかったので、父が勧める公爵と結婚しました。

 旦那様は、お優しくわたくしを甘やかせてくださいました。
 わたくしは、旦那様を愛するということより、旦那様との閨事に夢中になりました。

 それから3年後のこと。
 王宮の一室で、いつものように読書に耽っていたところ、廊下を慌ただしく走る気配を感じた。

「王女殿下、国王陛下が危篤になられました。」

 「なんですと!」

 わたくしは、驚き父上の部屋に行き、荒い息をしている父上に縋り付き

 「父上様、わたくしを一人にしないで。置いていかないで。」

 「カメリア、お前には、アームストロングという婿がおるではないか、二人でこの国を盛り立てておくれ。儂は、天国からいつも見ているよ。」

 「父上様!」

 父王は、息を引き取った。

 父王の葬儀は、派手で盛大に行われた。
 もし、父上が天国で見ていられたら、さぞかし苦笑されていることだろう。

 それから、わたくしの女王戴冠式が行われた。
 全世界から来賓、お祝いのメッセージや贈り物が寄せられた。

 父上がなくなられてから、わたくし付きの侍女や騎士が次々辞めさせられていきました。
 愚かにも、わたくしは、そのことに何の疑問も感じなかったのです。愛し、信頼する旦那様がおっしゃることに間違いはないと、思っていました。
 そして、わたくしは、王宮内で孤立しました。

 わたくしは、先王の期待に沿うように治世に務めましたが、夫との間は冷え込む一方だった。父王が崩御されてから、一度も閨を共にしたことがありませんでした。
 夫は、わたくしを蔑ろにし、愛人を次々作り、孕ませ婚外子がたくさんできました。
 そのことに文句を言うと、

 「そんなに俺に抱かれたいのか?ああ?この淫乱女!お前なんか、全然ヨクナイ。俺が満足できないんだよ。さっさと俺に王位を渡せってんだ。クソ女。」

 そして、ついに夫に水の入った花瓶で後頭部を殴られ、意識が遠のいていく中、夫のにやけた顔が近づいてきて、ツバを吐きかけられて

 「あの先王も儂が死んだら、次の王はお前だ。とかウソつきやがって。
  王女のお前が、女王になるなんて、聞いてなかったよ。
  父娘ともどもさんざん俺を利用しやがって。
  さっさと、くたばりやがれ!」

 足の裏がわたくしの顔に近づいてきて、踏まれて窒息死しました。




~◆◇~◆◇~◆◇~◆◇~◆◇~◆◇~◆◇~◆◇~◆◇~◆◇~◆◇~

 「姫様!気が付かれましたか?」

 「え?ここは、どこ?」

 そこは、見慣れた王宮のわたくしの部屋の天蓋ベッドの上でした。

 「姫様、落馬されてから、ずっと眠り続けていらっしゃったのですよ。」

 えっと。確か落馬したのは、王立学院を卒業した日の翌日で、父王から公爵との結婚を勧められた日の前日だった。

 カメリアは、落馬のショックで、前世の記憶を思い出してしまったのだ。
 あまりに生々しく渦渦しい記憶に吐き気を及ぼした。

 それから侍女に、他に誰か見舞いに来たか?などと質問した。
 前世の記憶が正しければ、この時の婚約者候補はアームストロング様ただ一人だったわけで、この方が見舞いに来たかどうかを知りたかった。
 最初は、言い淀んでいた侍女だが、わたくしがアームストロング様との婚約を解消したいと思っていることを告げると

 「そうなんでございますよ。いくら政略結婚とはいえ、姫様の具合が悪いのにほったらかしで、いろいろな貴族令嬢と浮名を流していらっしゃいます。それに、姫様の体調が悪いのは、自分の気を引くための仮病と言っているそうです。」

 しばらく、ボーっとベッドに横たわり考え事をしていたら、父王が見舞いに来て

 「気が付いたか、カメリア。大事ないか?」

 「はい、父上様。」慌てて起き上がろうとしたら

 「いや、そのままで構わない。そなたも学院を卒業したのだから、そろそろ婿を、と思ってな。そなたに好きな男がいるのかな?いたら紹介してくれ、もし、いないのであれば、婚約者候補のアームストロング公爵はどうだ?」

 アームストロング公爵の名前を出されて、先ほど見た夢?ではない前世の記憶?を思い出し、即座に

 「アームストロング様だけは、絶対にイヤでございます。」と口走ってしまった。

 「はて?アームストロングからの報告では、カメリアと良好な関係を築いていると言っておったが。」

 「嘘でございます。アームストロング様は、わたくしを蔑ろにして数多の貴族令嬢と浮名を流しております。それにわたくしが、落馬をして寝込んでいる最中、わたくしがアームストロング様の気を引くための仮病だと、言いふらされているそうではありませんか?」

 「なんと!まことか?それでは、アームストロングとの婚約は解消しよう。」

 「ありがとう存じます。つきましては、わたくし2年間ほど、隣国の大学へ留学いたしとう存じます。」

 「ほほう。王立学院を首席で卒業したカメリアが、まだ勉強足りないと申すか?」

 「はい。隣国で身分を偽り平民として、わたくしを真に愛してくださる殿方を見つけとうございます。」

 「はっはっは。それはなかなか面白い趣向だな。よかろう許可を致す。イイ男を捕まえてこい!」




~◆◇~◆◇~◆◇~◆◇~◆◇~◆◇~◆◇~◆◇~◆◇~◆◇~◆◇~

 今日は、隣国の大学の入学式である。
 この大学は、他国の王族もたくさん、留学している名門大学である。

 カナリアは、身分を平民と偽り、聴講生として入学した。

 他国から来た留学生は、全寮制であったが、身分を偽って入学しているカメリアの寮の部屋はおそまつな作りになっている。
 それでもカメリアにとっては、はじめての一人暮らしで、心躍る学生生活だった。

 アイスクリームをかじりながら、ウインドウショッピングをしたり、カフェでお茶したり、一人で夕焼けを見に行ったりと、はじめてアルバイトも経験した。
 たまたま訪れたカフェで、ウエイトレスが休みだったため、店主一人がてんてこ舞いしていたのを手伝った。注文を取り、店主に伝え、出来上がった料理を客のところへ運び、客が帰るとき代金をもらう。そして、テーブルを綺麗に片づけて、という仕事だったが、楽しくて気が付けば、寮の門限ぎりぎりだったので、慌てて帰った。生まれて初めての給金は、金貨1枚だった。多いのか少ないのか見当がつかなかった。

 それから、暇があるときは、カフェで働くようになった時、常連客のアダムスと出会った。
 聞けば、同じ大学の留学生だそうだ。

 「今度は、学内で見かけたら声をかけるよ。」と言って帰っていった。

 一週間ほどして、図書館へ向かっているときに、本当にアダムスに声をかけられた。

 「やぁ!カメリアも本当に学生だったんだね。ちっとも会わないから、天ぷらかと思ってたよ。」

 天ぷら学生とは、格好だけで中身は違う見せかけの学生のこと。

 「大学の寮で暮らしているのよ。天ぷらなわけないでしょ。」

 「そうか、寮暮らしか、今度遊びに行っていいかい?」

 「ダメよ。男子禁制よ。」

 「じゃあ、デートに誘ってもいいかい?」

 「うーん、そうね。気が向いたらね。」

 「なかなか手厳しいや。来週、この時間でこの場所で会おう。」

 それだけ言い残して、アダムスはどこかへ行ってしまった。

 カメリアは、悩んだけど店の常連客でもあるから、次の週、その場所へ行った。

 約束通り、アダムスが待っていてくれた。

 「本当に来てくれたんだ。嬉しいよ。カメリア」

 「だって、来なかったらずっと待っていそうだし、それにお店で嫌がらせされたら困るからね。」

 「イヤガラセなんてしないよ。」

 それから、毎週、同じ場所、同じ時間で会い続けた。雨の日も、雪の日も、風の日も。
 1年が過ぎた頃、私たちは恋人同然になっていた。

 その日もいつもの場所、いつもの時間に行った。
 アダムスはいなかった。
 結局、夜まで待ってもアダムスは来なかった。

 カメリアは、いいようのない不安に襲われた。そういえば、アダムスのことは、名前と年齢を知っているだけで、どこに住んでいるのか(留学生だから、多分寮だと思う)どこの国の人なのか、親御さんは何をしている人なのか、さっぱりわからなかった。

 前世の記憶の中で、アームストロングが言った「お前なんて、全然ヨクナイ。俺が満足できない」という言葉を思い出した。やっぱり、わたくしは、ただ遊ばれていただけの女だったんだ。悲しかった。わたくしのカラダは、王女でなければ抱く価値もないのかもしれない。

 悲しみの中で、次の日、バイトに行った。

 カフェでは、アダムスがバラの花束を抱えていた。
 「え?」

 「昨日行けなくて、ごめんね。怒った?本当にごめん。」花束を差し出して言う。

 「ばか。もうアダムスと会いたくない。さようなら。」走って店を出た。

 すぐに追いつかれて、

 「だから、ごめんって、5日ほど前、親父が死んだんだ。それで、いったん帰国して葬儀やなんだかんだあって、昨日行けなくて本当に済まない。」

 「え?お父様が?…わたくしのほうこそ、怒ってしまってごめんなさい。お母様は大丈夫ですか?」

 「ああ、それで君のことを話したら、一度家へ連れてこいって話になってさ。家督のことは、弟に譲り渡すつもりでいるのだが、君と、カメリアと結婚したい。だから、ウチの母や家族に君を会わせたいのだ。来てくれるかい?」

 「わたくしと結婚?」

 アダムスは、貴族のようにわたくしの前に跪いて
「カメリア嬢、愛しています。あなたとともに未来を生きたい。ぜひ、私の妻になってもらえませんでしょうか?」

「わたくしで本当によろしいのでしょうか?」

 「もちろんだ。カメリアの身分のことは関係ない。カメリアが好きだ。カメリアが大事だ。カメリアのすべてを自分のモノにしたい。」

 「ありがとうございます。謹んで、結婚の申し出を受け致します。」

 「やったー!ありがとうカメリア。一生、あなたを大切にします。」

 善は急げだからと、アダムスと共にアダムスの住む国へ行った。




~◆◇~◆◇~◆◇~◆◇~◆◇~◆◇~◆◇~◆◇~◆◇~◆◇~◆◇~

 アダムスは、パラドニア帝国の皇太子殿下だった。
 立派な王城に案内され、上から下まで値踏みされるような視線は痛かった。

 アダムスのお母様である皇后陛下にお会いした。

 「カメリア嬢とやら、面を上げよ。
  ふむ。美しい。アダムスが惚れるのも無理はないな。
  それに人品卑しからず、気品も備えもっておるようじゃ。
  カメリア嬢、そなたは、平民の出というがまことか?
  アダムスがカメリア嬢をぜひ、妃にしたいと申し出たが平民を妃にできぬから、
  弟に家督を譲りたいと申しておる。
  それほどまでにアダムスが惚れたおなごを一目見たいと思うてな、呼んだのじゃ。」

 「いいえ、実はわたくし学園では身分を偽っておりました。
  わたくしの本当の名前は、カメリア・フォン・デラエア
  デラエア王朝の王女でございます。
  今までのご無礼、お許しくださいませ。」

 「なんと!
  これは、アダムス皇太子とよき縁ではござらぬか?」

 「恐れながら、わたくしは、跡継ぎ娘で婿を取らねばなりません。
  政略結婚で幼き頃よりの婚約者候補も不実で、留学をする際、
  婚約を解消してまいりました。
  わたくしを身分関係なく、愛して慈しんでくださる殿方を探すため
  留学いたし、アダムス様とご縁がありましたが、アダムス様が皇太子殿下で
  あらせられるとは、露ほどにも思っておりませんでした。
  此度のご縁は、なかったものと諦める所存でございますれば、どうか…」

 「よい。よい。それ以上申すな。
  カメリア嬢、いやカメリア・フォン・デラエア王女殿下とアダムスとの結婚を認めようぞ。パラドニア帝国とデラエア王朝のさらなる発展と友好の証に、二人の門出を祝おう。」

 アダムス様は、弟君に家督を譲り、デラエア王朝に婿入りすることを承諾いただきました。

 パラドニア帝国では、祝宴を開いてくださることになりました。
 デラエア王朝にすぐさま、連絡が行き、父も婚約式に来てくれました。
 そして、デラエア王朝で結婚式を行うため、父とアダムス様と共に、帰国しました。




~◆◇~◆◇~◆◇~◆◇~◆◇~◆◇~◆◇~◆◇~◆◇~◆◇~◆◇~

 帰国後、すぐに結婚式が行われました。

 それから3年後のこと。
 王宮の一室で、いつものように読書に耽っていたところ、廊下を慌ただしく走る気配を感じた。

「王女殿下、国王陛下が危篤になられました。」

 「なんですと!」

 わたくしは、驚き父上の部屋に行き、荒い息をしている父上に縋り付き

 「父上様、わたくしは、女王にはなりませぬ。王の座は、夫アダムスに継がせたく存じます。お許しいただけますでしょうか?」

 「カメリアが望むなら、アダムスを王とする。二人でこの国を盛り立てておくれ。儂は、天国からいつも見ているよ。」

 「父上様!」

 父王は、息を引き取った。

 父王の葬儀は、派手で盛大に行われた。
 もし、父上が天国で見ていられたら、さぞかし苦笑されていることだろう。

 アダムスの国王戴冠式が行われた。

 「カメリア、君が女王にならなくていいのか?」

 「はい、父王の遺言でございます。この国を宜しくお願いいたします。」

 アダムスが国王となった時、アームストロング公爵が泣いて悔しがったそうだ。
 「あの小娘め!俺と婚約破棄しやがって、本来なら俺が王座に就けるはずだったものを!」

 そうして、カメリアは、デラエア王朝の王妃となって、幸せに暮らしました。
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