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2.準備
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帰宅したバレンシアは、スーツケースを取り出し、片っ端から家出の準備のため、荷物を放り込んでいく。
それを見た侍女長は、慌てて止めに入るも、バレンシアの怒りは収まらない。
「あの泥棒猫に王太子との婚約を奪われてしまったわ」
「ああ。あのニセモノでございますか?」
もし、本当に亡き父の忘れ形見だったとしても、今の当主はまぎれもなくバレンシアなので、追い出すことは簡単にできるのだが……。
「ご主人様、それではダメでございます。お嬢さ、……いえご主人様は、れっきとしたセレナーデ公爵様なのでございます。ですから、お嬢……、いえご主人様が家を出ていく必要などございませんでしょう?」
「う……ん。それもそうだけど、でも、あの女、そう簡単に追い出そうとしても出て行かないわよ?」
「だったら、あの女が寝ている間に、みんなでこの屋敷を引き払うというのは、どうでしょうか?」
「えっ!?」
「幸いにも、バレンシア様は聖女様であらせられるのですから、聖魔法でちょこちょこっとすれば簡単でございましょう?」
「それもそうだけど、聖魔法をこんなことに使ってもいいものかしら?」
「いいに決まっております。なんといってもバレンシア様は神託の聖女様なのですから、これはきっと神の御意志です」
そう。5歳の頃、アーノルドの一目惚れに始まって、無理やり婚約させられてしまったのだ。その日から、雨の日も風の日も雪の日も、毎日王城へ通い、厳しいお妃教育を受け続けてきた。
そして13歳の時、神殿からの神託を受ける日が来る。この神託は、その子供の職業を、適性を見定め決めるというもので、このノルマンディ王国にとり、重要な儀式のひとつである。
その神託の儀式で、バレンシアは聖女様認定されてしまったのだが、このことは王家とセレナーデ家だけの秘密として、隠されたのだ。
一応、アーノルドも知っているはずなのだけど……、普通は、聖女様と結婚したがるものなのに、それほどまでにマリアンローゼのことを気に入ってしまったのだろうか。
今のところ、バレンシアの方が、分があり過ぎる。聖女様で公爵閣下なのだから。引く手あまたのように縁談が殺到することは間違いがない。
コトは隠密裏に進められた。マリアンローゼが寝ている間に使用人もろとも家出をする。これって、家出というのか?
いっそのこと、家ごと持って行こうかとも思う。
でもそれでは、国王が黙っていないはず。だから、屋敷は金目のもの、両親の遺品、家具、調度品、食料すべてを隠密裏に運び出し、行方をくらます予定にしている。
王家から違約金の支払いを待ち、支払われたのち、すぐさま行動に移せるようにすればよい。
もし、王家から何らかの問い合わせがあれば、傷心で領地に戻ったと言えば済むだろう。
その日の夜は、とうとうマリアンローゼは帰ってこず、引っ越し作業は思いのほか、捗った。
翌日になり、王家から慰謝料プラスアルファの違約金が支払われ、晴れて自由の身となったバレンシアは上機嫌で荷造りを進める。
屋敷の使用人も、マリアンローゼの前では平然と何食わぬ顔をしている。
マリアンローゼは、今日も街にお出かけの予定で、家令から金貨1枚のお小遣いを受け取り馬車で出かけてゆく。
その間に主だった家具・調度品をバレンシアの異空間の中にしまい込んでいく。転移魔法を使って、領地との間を何往復したことか。
さすがに聖女様の異空間だけあって、広々としている。家の一軒ぐらいは入るのではないかと思われるが、まだそこまでは試したことがない。
今夜あたりが勝負の為所と読み、今夜と明日非番の者は、先に領地へと送る。
最初に領地へ送ったものの中には、両親の遺品がある。埋葬するとき、あらかたの物は入れたが、全部ではない。
置き去りにされたことに気づいたマリアンローゼがやけくそになって、公爵邸に火をかけるかもしれないので、それだけは先に持ち出したのだ。
それを見た侍女長は、慌てて止めに入るも、バレンシアの怒りは収まらない。
「あの泥棒猫に王太子との婚約を奪われてしまったわ」
「ああ。あのニセモノでございますか?」
もし、本当に亡き父の忘れ形見だったとしても、今の当主はまぎれもなくバレンシアなので、追い出すことは簡単にできるのだが……。
「ご主人様、それではダメでございます。お嬢さ、……いえご主人様は、れっきとしたセレナーデ公爵様なのでございます。ですから、お嬢……、いえご主人様が家を出ていく必要などございませんでしょう?」
「う……ん。それもそうだけど、でも、あの女、そう簡単に追い出そうとしても出て行かないわよ?」
「だったら、あの女が寝ている間に、みんなでこの屋敷を引き払うというのは、どうでしょうか?」
「えっ!?」
「幸いにも、バレンシア様は聖女様であらせられるのですから、聖魔法でちょこちょこっとすれば簡単でございましょう?」
「それもそうだけど、聖魔法をこんなことに使ってもいいものかしら?」
「いいに決まっております。なんといってもバレンシア様は神託の聖女様なのですから、これはきっと神の御意志です」
そう。5歳の頃、アーノルドの一目惚れに始まって、無理やり婚約させられてしまったのだ。その日から、雨の日も風の日も雪の日も、毎日王城へ通い、厳しいお妃教育を受け続けてきた。
そして13歳の時、神殿からの神託を受ける日が来る。この神託は、その子供の職業を、適性を見定め決めるというもので、このノルマンディ王国にとり、重要な儀式のひとつである。
その神託の儀式で、バレンシアは聖女様認定されてしまったのだが、このことは王家とセレナーデ家だけの秘密として、隠されたのだ。
一応、アーノルドも知っているはずなのだけど……、普通は、聖女様と結婚したがるものなのに、それほどまでにマリアンローゼのことを気に入ってしまったのだろうか。
今のところ、バレンシアの方が、分があり過ぎる。聖女様で公爵閣下なのだから。引く手あまたのように縁談が殺到することは間違いがない。
コトは隠密裏に進められた。マリアンローゼが寝ている間に使用人もろとも家出をする。これって、家出というのか?
いっそのこと、家ごと持って行こうかとも思う。
でもそれでは、国王が黙っていないはず。だから、屋敷は金目のもの、両親の遺品、家具、調度品、食料すべてを隠密裏に運び出し、行方をくらます予定にしている。
王家から違約金の支払いを待ち、支払われたのち、すぐさま行動に移せるようにすればよい。
もし、王家から何らかの問い合わせがあれば、傷心で領地に戻ったと言えば済むだろう。
その日の夜は、とうとうマリアンローゼは帰ってこず、引っ越し作業は思いのほか、捗った。
翌日になり、王家から慰謝料プラスアルファの違約金が支払われ、晴れて自由の身となったバレンシアは上機嫌で荷造りを進める。
屋敷の使用人も、マリアンローゼの前では平然と何食わぬ顔をしている。
マリアンローゼは、今日も街にお出かけの予定で、家令から金貨1枚のお小遣いを受け取り馬車で出かけてゆく。
その間に主だった家具・調度品をバレンシアの異空間の中にしまい込んでいく。転移魔法を使って、領地との間を何往復したことか。
さすがに聖女様の異空間だけあって、広々としている。家の一軒ぐらいは入るのではないかと思われるが、まだそこまでは試したことがない。
今夜あたりが勝負の為所と読み、今夜と明日非番の者は、先に領地へと送る。
最初に領地へ送ったものの中には、両親の遺品がある。埋葬するとき、あらかたの物は入れたが、全部ではない。
置き去りにされたことに気づいたマリアンローゼがやけくそになって、公爵邸に火をかけるかもしれないので、それだけは先に持ち出したのだ。
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