プリマヴェーラ・ストラトス―転生したらヒロイン全員病んでいて修羅場な件―

浜風ざくろ

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第一章 壊れた花たち

第十二話 疲れているだけですよ

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「……そうか」
 
 気持ちはわかります。

 リンドウのその言葉は意外だった。

 戦闘時の彼女は戦い慣れているように見えたし、冷静そうだったから。素人の俺から見ても、彼女が場数を踏んでいることはわかった。

 そんな彼女からすると、怯えてばかりで何もできなかった文字通り腰抜けの俺は、侮蔑の対象になりはしても、共感できる対象にはならないように思える。

 事実、あのときの彼女は呆れた眼差しで俺を見ていた気がした。それは気の所為とでもいうのだろうか?

 俺の表情を見て、リンドウは小さく笑う。

「……感情を表に出さないように努めているだけです。本当は、ボクもすごく怖いんですよ。いかにボクたちが戦闘のために創られたとはいえ、感情とは無縁ではいられませんから」

「……」

 それは、そうだよな。

 彼女たちはたしかに人間ではないが、人間の形とこころを与えられた存在であることは間違いない。だから常人と同じように訓練や経験をとおして慣れることはあっても、戦場という異常な環境が与えるストレスに完全に適応するのは難しいはずだ。慣れるというのは、感情がなくなることとイコールではないから。

「たまに思うんです。もう戦いたくないなって。花に水をやって、雑草を抜いて、好きな本を読んでゆっくりしたい。そう願ってしまいます」

 こんなこと口にしたらいけませんよね。そう言って、リンドウは自嘲した笑みを浮かべる。

「普通だったら、処罰されかねないかもな」

「でしょうね。もし罰が必要なら、いかようにでもしてください」

 投げやりな言い方が気になった。

「いや、別に構わない」

「……そうなんですね? メンターとしては、戦いの道具がこんなことを言うのは許し難いのではないですか?」

「道具じゃないよ」

 俺は言葉を切って、続けた。

「俺は君たちをそんな目では見ていない。君自身が言っていたじゃないか、感情とは無縁ではいられないと。感情や思いを持って生きているものを道具として扱うのは無理がある」

「でも、多くのメンターはそうしてますよ」

 リンドウは淡々と言った。

「ボクたちを道具みたいに扱う方ばかりです。ボクたちを兵器として見なす教育を受けているのでしょうし、そう割り切らないとやっていけないから人として見ないようにしているのかもしれませんが。そこに無理があるんでしょうか? 無理があるから――みんなおかしくなってしまったんですかね?」

「……なんの話だ?」

「ここにいるみんなのことです」

「椿たちのことか……」

「はい。ご存知でしょうけど、みんな他の拠点で色々あってここに流されていますから。メンターはまだ把握しきれていないかもしれませんが、薄々気づいているでしょう?」

 俺は頷いた。

「たしかに、みんな何かが壊れているなとは感じるよ。スノードロップほどわかりやすいわけじゃないけど」

「……」

「リンドウも――」

 言いかけて言葉を飲み込んだが、言外の意味は風に流れてリンドウに伝わった。

「……さあ? ボクは、ただ疲れているだけですよ」

「疲れている、か」

「ええ、疲れています。だから花の世話だけしていたいなって思うんです」

 リンドウの紫色の瞳には、優しい光が浮かぶ。

「……もう、意志のある花を看取るのはごめんですから」

 意志のある花。

 あえて濁されたその言葉の意味を読み取れないほど、俺は鈍感ではない。

 彼女に何があったのかは情報が開示されていないからわからない。わからないが、地獄をみてきたのであろうことは想像がついた。

「わかるよ」

 俺は自然とそう言ってしまった。

「お前に何があったのかは無理には訊かないけど、少しだけわかる。俺も……疲れ切っていたから」

「……そうですか」

 リンドウは目を細めて、口元を少しだけ吊り上げる。

 その表情には荒んだ喜びのようなものが、あるいは悲しみのようなものが滲んでいる。

「ボクも、わかりますよ。さっきも言いましたけどね。メンターが戦場を恐れる気持ちは軽蔑されるべきものではありません」

「……」

 気づいたら手を握りしめていた。

 リンドウの言葉は俺の欲しいものだったから。

「……ふふ、話し過ぎましたね。ボクは、あまり喋るのが得意ではないのに」

 プリストのファンから「脳筋ボクっ娘」と親しまれる少女と同一人物とは思えない、暗い表情だった。

 それだけ闇が深いのだろう。

 楽園のごとき美しい世界にも、花を萎れさせる毒が漂っているのだ。

「……結局、ここも同じなのか」

「なんのことですか?」

「いや、なんでもないよ」

 リンドウは眉をひそめたが、興味がなくなったのかすぐに花へと目を落とす。

 慈しむような眼差しが綺麗だった。

 俺達はしばし無言で風にそよぐアイリスを眺めた。柔らかい花の香りが、仄暗く淀んだ気持ちを少しずつほぐしていくようだった。

 俺は、自分の気持ちを改めて理解した。

 あまりにも役目に反し、あまりにも兵士として相応しくない、しかし普遍的な思いを。

 ――俺はもう、疲れたんだ。

 穏やかな安らぎこそが、俺の欲しいものだった。

「……さてと、そろそろ戻らないとな」

「そうですか。お話に付き合ってくれて、ありがとうございます」

 リンドウはそう言って、頭を下げる。

 頭を下げる必要なんかないのに、真面目な子だ。

 俺は手を振って踵を返した。

 中庭を出ようとした瞬間、勝手にメニュー画面が開いた。

「……なんだ?」

 一瞬出撃の合図かと身構えたが、アラートは鳴らなかったので違うようだ。リンドウのステータスが自動的に開いて、好感度が十上がったことと、彼女に関する情報が一部開示されたことが通知された。

 そして、もう一つ。

 キャラクターイベントが発動した。

「……はじめてだな」

 キャラクターイベントは、キャラクターごとのストーリーに繋がる特別なミッションだ。特定の条件を満たすと発動するのだが、どうやらリンドウと話したことでフラグが立ったらしい。

 俺は内容を確認するために詳細を表示させ。

 目を見開いた。




 
 

【キャラクターイベント】
 ・椿の廃棄処分
達成条件:椿の廃棄処分
アンサス「椿」の廃棄処分を実行することにより、リンドウの固有ストーリーが発動します。

 
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