プリマヴェーラ・ストラトス―転生したらヒロイン全員病んでいて修羅場な件―

浜風ざくろ

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第四章 私のものにしたいな

第五十三話 駅にて事案

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 花園に降りたった。

 俺たちはフィーリアにほど近い街の駅についた。桃や桜を中心に、ユキヤナギ、ジンチョウゲ、金木犀やクチナシなどの色とりどりの花木に溢れていて、芳醇な香りが柔らかい風に乗って運ばれてくる。

 光が溢れていた。綺麗な街だ。

「……わぁ」

 景色に感動する椿が、俺の腕に絡みついてきた。

「すごいですね! フローラもすごく綺麗でしたけど、この街も素敵……。あ、ほら! 曙が咲いてますよ! オキノイシも! 椿の色んな品種がいっぱい咲いてますね!」

「そ、そうだな」

 ……テンション高いな。

 全身から光が放たれているかのように、椿が輝いて見える。

 まあ、汽車の中で色々あったからな。上機嫌になるのも無理はないと思うけど……身体をめっちゃ押し付けてくるから柔らかいものが当たっているのが気になってしまう。それに、他のお客さんからの視線が痛い。なんかすごく微笑ましいものを見る目で見られているけど、羞恥心的なものが痛いなあ……。

「えっと、椿さん……。ちょっと引っ付きすぎではないかな?」

「え? そんなことありませんよ。私たちは恋人なんですから、これくらいくっついているのなんて普通です。恋人なんですから!」

 二回言った。にこやかな表情で。

 そうだね……恋人だもんね。恋人ならくっつくのはたしかに当然かもしれないけど、今日はプライベートじゃなくて仕事の出張で来ているから、TPOは弁えてほしいなあ。なんて思ったけど、あまりにも反応が乙女すぎて正直可愛いからちょっと注意し辛かった。

 俺が頬をかいていると、リリーがため息をつきながら言った。

「遊びに行くわけじゃないって言ってたのは誰だったかにゃあ。リリーちゃんの記憶だとメンターだった気がするんだけど」

 浮かれているのは俺じゃなくて椿なんだけど、その原因は間違いなく俺なので何も言えない。

「このまま観光でもして帰るにゃ? リリーちゃん的にはそれでもいいよ。そんな新婚カップルみたいな浮かれた感じでこられても、先方も迷惑だろうからにゃんね~」

 いつになく皮肉がきつい。

 リリーはつまらなさそうに周りの景色を見ていた。汽車に乗ったばかりの頃と比べても、かなりテンションが低い。椿と付き合っている宣言をしてからというものの、リリーの態度は塩分濃度と冷気を増していた。

 かき回すことに失敗したのがそんなに尾を引いているのだろうか? でも、そんな感じはしないんだよな。違う気がするのだが、リリーがここまで不機嫌になったのははじめてなので、原因がわからない。

「……なんかすまんな」

 とりあえず気まずいので謝っておくと、リリーが肩をすくめた。

「いいにゃいいにゃ。別にリリーちゃんは何とも思わないから。椿姉は幸せそうだしいいと思うにゃんよ。椿姉はね」

「……」

「ま、メンターのことだから伝わっているとは思うけど。二人が幸せならいいんじゃない?」

 もちろん、分かっている。

 リリーの言わんとしたことはオブラートに包んだ逆説的なアイロニーだ。椿の気持ちを受けいれるということは、反対に他の気持ちを受け入れることができなくなるということになる。

 数字として見えてしまっている以上、とぼけたことは言えないし、言う気もない。当然、保守派連中が「メンターの特権」と濁す倫理違反を犯す気も毛頭ない。俺は元いた世界と変らない価値観をもってして向かい合うつもりだ。

 だから、答えられない気持ちにもちゃんと目を向ける。それも含めての責任なんだ。

「……どーせ、堅苦しい真面目くさったことを考えているにゃ? そういうところあるもんね、メンターは」

 つまんないにゃあ。

 リリーはそう言って、白けた眼差しを向けてくる。

 別につまらなくていいよ。俺はお前を楽しませるために生きているわけではないのだ。いまできることの最善を尽くそうとしているのだから、とやかく言われる筋合いはない。

 そう思い溜息をついていると、椿から腕をぐいぐい引っ張られた。

 むくれた顔の椿。

「リリーと何の話をしているかわかりませんけど、こっち見てください」

「……ごめん」

 いや、聞いてなかったのかよ。どれだけ浮かれているんだ。

 咳払い。

 前を向くと、軍服を着た長身の女性が呆れた表情で立っていた。二階堂大佐だ。その後ろにはホウセンカがいる。

「……何をいちゃついとるんだ、お前ら」

「も、申し訳ありません大佐!」

 慌てて椿から離れると、俺は敬礼した。リリーと椿も続く。

「白昼堂々、私のホームタウンで見せつけてくれるじゃないか色男よ。え、恋人のいない私に対するあてつけかな? ん? いい度胸だな」

「い、いえ! そんなつもりはありません……。大変見苦しいところをお見せしてしまいました」

「……あはははっ、冗談だ冗談」

 二階堂大佐はニヤリと笑い、恐縮する俺の肩をバシバシ叩いた。

「別に何とも思ってないから安心してくれ。迎えに来てやったぞ。本当は、桃鉄のゴールについたときみたいな盛大な歓迎をしてやりたかったが」

「……ももてつ?」

 リリーが小首を傾げる。

 分かるわけないよな……。転生者の俺にしか通じないネタだし。

「ところで、お前……雰囲気変わったな? ここに来てイメチェンなんてどういう心境の変化だ」

 二階堂大佐が、俺の頭を見ながら言ってくる。

 俺の髪は「究極の奇跡アポリト・サヴマ」を発動した影響で色素が抜けてしまい、金に近い茶色にまで退色してしまっていた。事情を知らないものからすると、染めたのかと思われても無理はないだろう。

「……いえ、染めたわけではないんです。色々事情がありまして」

「ふむ、そうか。まあ、この世界はメンターであっても紫色や赤色の頭髪のやつもいるしな。それくらいでとやかく言うやつはいないとは思うが。……そのへんの事情で話す必要があるなら追々聞かせてくれ」

「にゃっ」

 リリーが声を出したのは、しれっと二階堂大佐がリリーに接近して肩を触ったからだ。「積もる話はフィーリアでしようか」と話を進めながら、勝手に頭を撫で始める。なんか息が荒いのは気のせいか。気のせいじゃないな。

「……大佐。何をやっているんですか?」

「はっ……! 本物のりりにゃんを見てつい身体が動いてしまった……! すまん!」

 いやいや、勝手に動くな。そしてまだ動いているじゃないか。

 鼻息荒く頭を撫でてきた変態に、リリーは引きつった顔で距離を置こうとする。この一瞬のやり取りで二階堂大佐のやばさを理解したのだろう。だが、二階堂大佐はがっしりとリリーを捕まえて、逃さなかった。

「はあああああぁぁぁぁ……まさか本物のりりにゃんと三次元で会えるとは思いもしなかったぞ! ミクシブや同人誌の二次創作を読み漁ったり自給自足したりしながら摂取しまくってきたりりにゃんが……! 現実についに降臨したなんて夢のようだ! はあ……ついに三次元が二次元に追いついたか……。たまらん! 実にパラダイスだ! プリマヴェーラ、最高!」

「な、なんなのにゃこの人! やばすぎるにゃん! めっちゃ力強いし!」

「りりにゃあああん!」

「にゃあああああっ」

 ……。

 帰ったら駄目かな?

「本当に、二階堂大佐は猫族がお好きなんですね。うふふ、微笑ましいわ」

 光り輝く椿が、まるで公園で戯れる幼稚園児たちを見るような表情でそう言っていたけど、俺は苦笑いしかできなかった。俺の目には事案にしか見えないからな……。

 あわあわしているホウセンカが「に、二階堂大佐! お、おやめください……」と頑張って止めようとしていたが、変態の腕の中に吸い込まれ、リリーごと抱きとめられた。ダイソンかよ……。
  
「ふえええぇ!?」という声と、リリーの叫び。そして二人の頬に自分の頬を擦り付ける変態のやばい息遣い。

「ああ、お前たちはやはりどちらもかわいいなあ! リリ×センカは私のサークルではイチオシの組み合わせだったから、まさかこうして現実で拝むことができるとは……。感無量だ! 私はついに二次元の壁をやぶったぞ!」

「……」

 俺は時刻表を見て溜息をついた。

 帰りの汽車は、まだ一時間も先だった。



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