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第42話 嫉妬作戦、成功?
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その日の夜。
髪を片側でまとめナイトドレスを着たソールーナは、ベッドの端に座って小型のスケッチブックを眺めていた。
この小型のスケッチブックは昼間持ち歩いているもので、ユミリオの鉛筆画が描かれている。
「ふんふ~ん」
鼻歌まで飛び出すほどの上機嫌である。
スケッチの時間自体は短時間であったため一点しか描けなかったが、それでも十分満足のいくものになってくれた。
特に頬の線がうまくいったと思う。
――描いている途中にもなんだかんだとユミリオが話しかけてきた気がするが、それはよく覚えていない。
「なんだよ、機嫌良いな」
「へっへっへ。王子様のスケッチできちゃいましたからね。宮廷画家でもないのにこんな機会、そうそうないですから」
隣りに腰掛けてきたリュクレスがスケッチブックを覗いてくる。
「……うまいな」
「へっへー。そうでもないですよ~」
褒められてまんざらでもないソールーナである。
とはいえ、リュクレスには挿絵画家の話はまだ言わないでおこう……とソールーナは思う。別に反対されるとは思っていないし反対されても突き進むが、本決まりでもないものを報告してダメだとなれば惨めだからだ。
そんなソールーナの様子を見て、リュクレスはほっとため息をついた。
「……この分だと本当になにもなかったんだな……」
「何の話ですか?」
「……いやお前、騎士団の貴賓室でそんなを話してただろうが。二人っきりで甘い時間を過ごすとかさ……」
「ああ、あれ」
ユミリオとソールーナ。本当に甘い時間を過ごしたのかどうかは、ソールーナにはよく分からない。とにかく満足できた小一時間ではあったが。ある意味、糖蜜でドライフルーツを煮たがごときの濃密さはあったように思うが。
「ユミリオ様は私になんか興味ないと思いますよ……。へへっ、でも心配してくれてたんですね。ありがとうございます」
「別に心配はしていない。何かあったら俺を呼べって言っておいたし、呼ばれなかったということはなにも無かったってことだろ」
「呼ぶ……?」
「おい、まさか忘れてたのか? ピンチになったら俺の名を呼べ、といっておいただろうが」
「……そういえば、そんなこと言ってましたね」
あれは昨夜のことだったか。
確か、なんだか妙な繋がりみたいなものがソールーナとの間にできたから、ピンチになって呼ばれたら分かるから、必ず駆けつける……とかそんなことを言っていたような……。
「……しっかりしろよ。お前、本当に何もされなかったんだろうな?」
「……うーん。平気だと思いますよ」
「なんだよ、あやふやだな」
「私、絵を描くとそれに熱中しちゃうから……。だからユミリオ様に、絵を描いている間は邪魔しないでくださいってお願いしたんです」
「……それで、ユミリオはそれを守ってくれたのか?」
「たぶん。ユミリオ様ってそういうところきっちりしてるので」
「……つまり、確証はない、と」
「確証はないけどまぁたぶん平気でしょ。だって相手はあのユミリオ様ですよ? 私なんかに興味ないですってば」
「そうは見えなかったが……」
「リュクレス様」
ソールーナはスケッチブックから目をあげ、隣に座るリュクレスの白い仮面に視線を移した。
「嫉妬作戦をするって、きのう言ったじゃないですか」
「それはそうだが……」
「ユミリオ様がベタベタしてきたのも嫉妬作戦なんですよ。ユミリオ様ってばずいぶん張り切ってましたけど」
「張り切りすぎだろ。夫の前であんなにいちゃつきやがって。人妻だぞ、人妻」
「あれ? もしかして、ほんとに嫉妬しちゃったんですか、リュクレス様?」
「ばっ……」
ソールーナの言葉にリュクレスが慌てる。仮面を被っていなかったら真っ赤になった顔を見ることができただろう。……彼の申告通りなら、その超イケメンな面構えで。
「べつに嫉妬なんかしてないからな。ただほら、お前がずいぶん機嫌がいいから。夫以外の男と二人っきりで密室で楽しいことして上機嫌って、それ妻としてどうなんだよ」
「それを嫉妬というんじゃないですかね」
「違うわ!」
リュクレスの鋭い反論が寝室に響いた。
髪を片側でまとめナイトドレスを着たソールーナは、ベッドの端に座って小型のスケッチブックを眺めていた。
この小型のスケッチブックは昼間持ち歩いているもので、ユミリオの鉛筆画が描かれている。
「ふんふ~ん」
鼻歌まで飛び出すほどの上機嫌である。
スケッチの時間自体は短時間であったため一点しか描けなかったが、それでも十分満足のいくものになってくれた。
特に頬の線がうまくいったと思う。
――描いている途中にもなんだかんだとユミリオが話しかけてきた気がするが、それはよく覚えていない。
「なんだよ、機嫌良いな」
「へっへっへ。王子様のスケッチできちゃいましたからね。宮廷画家でもないのにこんな機会、そうそうないですから」
隣りに腰掛けてきたリュクレスがスケッチブックを覗いてくる。
「……うまいな」
「へっへー。そうでもないですよ~」
褒められてまんざらでもないソールーナである。
とはいえ、リュクレスには挿絵画家の話はまだ言わないでおこう……とソールーナは思う。別に反対されるとは思っていないし反対されても突き進むが、本決まりでもないものを報告してダメだとなれば惨めだからだ。
そんなソールーナの様子を見て、リュクレスはほっとため息をついた。
「……この分だと本当になにもなかったんだな……」
「何の話ですか?」
「……いやお前、騎士団の貴賓室でそんなを話してただろうが。二人っきりで甘い時間を過ごすとかさ……」
「ああ、あれ」
ユミリオとソールーナ。本当に甘い時間を過ごしたのかどうかは、ソールーナにはよく分からない。とにかく満足できた小一時間ではあったが。ある意味、糖蜜でドライフルーツを煮たがごときの濃密さはあったように思うが。
「ユミリオ様は私になんか興味ないと思いますよ……。へへっ、でも心配してくれてたんですね。ありがとうございます」
「別に心配はしていない。何かあったら俺を呼べって言っておいたし、呼ばれなかったということはなにも無かったってことだろ」
「呼ぶ……?」
「おい、まさか忘れてたのか? ピンチになったら俺の名を呼べ、といっておいただろうが」
「……そういえば、そんなこと言ってましたね」
あれは昨夜のことだったか。
確か、なんだか妙な繋がりみたいなものがソールーナとの間にできたから、ピンチになって呼ばれたら分かるから、必ず駆けつける……とかそんなことを言っていたような……。
「……しっかりしろよ。お前、本当に何もされなかったんだろうな?」
「……うーん。平気だと思いますよ」
「なんだよ、あやふやだな」
「私、絵を描くとそれに熱中しちゃうから……。だからユミリオ様に、絵を描いている間は邪魔しないでくださいってお願いしたんです」
「……それで、ユミリオはそれを守ってくれたのか?」
「たぶん。ユミリオ様ってそういうところきっちりしてるので」
「……つまり、確証はない、と」
「確証はないけどまぁたぶん平気でしょ。だって相手はあのユミリオ様ですよ? 私なんかに興味ないですってば」
「そうは見えなかったが……」
「リュクレス様」
ソールーナはスケッチブックから目をあげ、隣に座るリュクレスの白い仮面に視線を移した。
「嫉妬作戦をするって、きのう言ったじゃないですか」
「それはそうだが……」
「ユミリオ様がベタベタしてきたのも嫉妬作戦なんですよ。ユミリオ様ってばずいぶん張り切ってましたけど」
「張り切りすぎだろ。夫の前であんなにいちゃつきやがって。人妻だぞ、人妻」
「あれ? もしかして、ほんとに嫉妬しちゃったんですか、リュクレス様?」
「ばっ……」
ソールーナの言葉にリュクレスが慌てる。仮面を被っていなかったら真っ赤になった顔を見ることができただろう。……彼の申告通りなら、その超イケメンな面構えで。
「べつに嫉妬なんかしてないからな。ただほら、お前がずいぶん機嫌がいいから。夫以外の男と二人っきりで密室で楽しいことして上機嫌って、それ妻としてどうなんだよ」
「それを嫉妬というんじゃないですかね」
「違うわ!」
リュクレスの鋭い反論が寝室に響いた。
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