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美人な女性
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お世話になっているのに、これ以上甘えてはいけない。
そう言い聞かせて、直也は胸を宥めるように撫で擦ると、玄関のドアが少々乱暴に開きナトラージャがずかずかと入ってきた。
窓際の椅子に座っていたナオヤは自然と立ち上がり、ナトラージャの元へ歩き出す。
「ナトラージャ」
呼び掛けに反応したナトラージャも直也の方へ足を向け、目の前まで来た直也を抱き締めて額に軽いキスをした。
「おかえり」
「ああ。ただいま」
直也の迎えの挨拶に、ナトラージャは目を細め返事を返してくれる。
触れられた額とその言葉のくすぐったさに肩を竦めて、直也は微笑んだ。
はじめて直也が『おかえり』と言った時は、ナトラージャは『何を言ったんだ?』というように首を捻ったが、 すぐに『おかえりと言ってくれたのか。ただいま』と返してくれた。
直也は嬉しくて、何度も何度も頷いたのを毎回こうすると思い出す。
そして、それを見ていたユアンが『良かったですね』と自分の事の様に喜んでくれたことも。
優しい人達。
“地球”でも恵まれていた、人との縁にその幸運に直也は感謝した。
感謝をしていないと、自分が傲慢な人間になってしまうかもしれない。だから、何度も。
「ユアンは?」
ナトラージャに聞かれ、直也は抱き締める腕から抜け、嬉々としてテーブルに置かれた万年筆を持って紙に文字を書く。
今までに習った文字は、『お腹が空いた』『喉が渇いた』『風呂』『台所』など家の中で生活するのに最低限、必要なものだ。
ユアンの居る『倉庫』と書き紙を指差し、直也は背中に張り付いてきたナトラージャを首を捻り見上げる。
「倉庫か」
ナトラージャはそう呟いた後は無言であるが、偉い偉いと言うように直也の頭を撫でた。
「冬に近づいているし、何か重い物でも運ぶのかもしれないな。少し様子を見て来るか……」
そう言って、外へ出て行こうと玄関へ向かうナトラージャの後を直也は追う。
それに気づいた様子のナトラージャは、振り返り直也に真剣な顔で言った。
「ナオヤ。お前は、待っていろ」
直也は、倉庫なら外に出れるかもしれないと期待していた。
それに、命令口調のようなそれも含め、納得できないと意思を伝える為にむっとした表情をナトラージャに向ける。
だが、ナトラージャは小さく笑うだけだった。
いや。笑いながら「そんな顔をしても、可愛いだけだぞ」などと言って、直也の頭を撫でて外へ出て行ってしまった。
「いつになったら、俺は外に出れるんだろう?」
閉ざされたドアにぽつりと言った呟きは、直也しかいない部屋に寂しく響く。
異世界ならば自分の知れない何か危険なことがあるかもしれない。
そう思って、窓際で観察してみた直也の感想は『のどかな田舎』だ。
それなのに、ナトラージャもユアンも外に出てはいけないというのは、危険以外の何かがあるのだろうか。
そう勘ぐってしまう。
実際、ナトラージャとユアンは貴族に攫われ囲われていた直也が、その貴族に居場所を知られまた攫われてしまうのではと危惧しているのだが――――。
心配されている本人は、平和だった日本という国で生まれ育った為に、そんな危惧をされているとは全く知らない。
少しだけ、一歩だけ外に出て見ようか。
直也がドアをじっと見詰めて悩んでいると、そのドアが勢い良く開いた。
「ごきげんよう」
ドアの勢いとは反対に、上品で艶やかな女性の声が華やかに部屋に響く。
「あら? 坊やだけ?」
その女性は許可も得ず家に入りながらも、所作は綺麗だ。
「ねえ、坊や。ユアン達はどこにいるの?」
視線を合わせられ、アイスブルーの瞳が観察するように自分に向けられてからやっと直也は我に返った。
知らない人を家に入れてしまったと、あたふたとする。
「あ、あの」
「慌てなくても良いわ。ユアン達とは私、お友達なのよ」
宥めるように直也の頭を撫でるその女性は、鈴を鳴らしたような声で笑う。
そんな女性は、ナトラージャ達よりは低いが、やはり直也より頭三つ分ほど背が高い。
窓辺から見ていた婦人や少女が着ていた動きやすそうで簡素なドレスではなく、女性はいかにも貴族というような裾の広がった動きにくそうで高そうな刺繍のあるドレスだ。
それに、赤い髪をきっちりと結っているその女性は美人だった。
直也の思い浮かべた乏しい表現をするなら、ベルサイユ宮殿が似合そうな女性と言ったところか。
どこかのお姫様かと思うほどその女性は華やかで、日頃は『可愛いな』『かっこいいな』『綺麗だな』ぐらいしか女性に思わない直也も、無意識に見詰めてしまう。
「坊や?」
怪訝そうな顔で呼び掛けられ、はっとした直也は自身が見惚れていたことに気づき恥ずかしくなった。
そう言い聞かせて、直也は胸を宥めるように撫で擦ると、玄関のドアが少々乱暴に開きナトラージャがずかずかと入ってきた。
窓際の椅子に座っていたナオヤは自然と立ち上がり、ナトラージャの元へ歩き出す。
「ナトラージャ」
呼び掛けに反応したナトラージャも直也の方へ足を向け、目の前まで来た直也を抱き締めて額に軽いキスをした。
「おかえり」
「ああ。ただいま」
直也の迎えの挨拶に、ナトラージャは目を細め返事を返してくれる。
触れられた額とその言葉のくすぐったさに肩を竦めて、直也は微笑んだ。
はじめて直也が『おかえり』と言った時は、ナトラージャは『何を言ったんだ?』というように首を捻ったが、 すぐに『おかえりと言ってくれたのか。ただいま』と返してくれた。
直也は嬉しくて、何度も何度も頷いたのを毎回こうすると思い出す。
そして、それを見ていたユアンが『良かったですね』と自分の事の様に喜んでくれたことも。
優しい人達。
“地球”でも恵まれていた、人との縁にその幸運に直也は感謝した。
感謝をしていないと、自分が傲慢な人間になってしまうかもしれない。だから、何度も。
「ユアンは?」
ナトラージャに聞かれ、直也は抱き締める腕から抜け、嬉々としてテーブルに置かれた万年筆を持って紙に文字を書く。
今までに習った文字は、『お腹が空いた』『喉が渇いた』『風呂』『台所』など家の中で生活するのに最低限、必要なものだ。
ユアンの居る『倉庫』と書き紙を指差し、直也は背中に張り付いてきたナトラージャを首を捻り見上げる。
「倉庫か」
ナトラージャはそう呟いた後は無言であるが、偉い偉いと言うように直也の頭を撫でた。
「冬に近づいているし、何か重い物でも運ぶのかもしれないな。少し様子を見て来るか……」
そう言って、外へ出て行こうと玄関へ向かうナトラージャの後を直也は追う。
それに気づいた様子のナトラージャは、振り返り直也に真剣な顔で言った。
「ナオヤ。お前は、待っていろ」
直也は、倉庫なら外に出れるかもしれないと期待していた。
それに、命令口調のようなそれも含め、納得できないと意思を伝える為にむっとした表情をナトラージャに向ける。
だが、ナトラージャは小さく笑うだけだった。
いや。笑いながら「そんな顔をしても、可愛いだけだぞ」などと言って、直也の頭を撫でて外へ出て行ってしまった。
「いつになったら、俺は外に出れるんだろう?」
閉ざされたドアにぽつりと言った呟きは、直也しかいない部屋に寂しく響く。
異世界ならば自分の知れない何か危険なことがあるかもしれない。
そう思って、窓際で観察してみた直也の感想は『のどかな田舎』だ。
それなのに、ナトラージャもユアンも外に出てはいけないというのは、危険以外の何かがあるのだろうか。
そう勘ぐってしまう。
実際、ナトラージャとユアンは貴族に攫われ囲われていた直也が、その貴族に居場所を知られまた攫われてしまうのではと危惧しているのだが――――。
心配されている本人は、平和だった日本という国で生まれ育った為に、そんな危惧をされているとは全く知らない。
少しだけ、一歩だけ外に出て見ようか。
直也がドアをじっと見詰めて悩んでいると、そのドアが勢い良く開いた。
「ごきげんよう」
ドアの勢いとは反対に、上品で艶やかな女性の声が華やかに部屋に響く。
「あら? 坊やだけ?」
その女性は許可も得ず家に入りながらも、所作は綺麗だ。
「ねえ、坊や。ユアン達はどこにいるの?」
視線を合わせられ、アイスブルーの瞳が観察するように自分に向けられてからやっと直也は我に返った。
知らない人を家に入れてしまったと、あたふたとする。
「あ、あの」
「慌てなくても良いわ。ユアン達とは私、お友達なのよ」
宥めるように直也の頭を撫でるその女性は、鈴を鳴らしたような声で笑う。
そんな女性は、ナトラージャ達よりは低いが、やはり直也より頭三つ分ほど背が高い。
窓辺から見ていた婦人や少女が着ていた動きやすそうで簡素なドレスではなく、女性はいかにも貴族というような裾の広がった動きにくそうで高そうな刺繍のあるドレスだ。
それに、赤い髪をきっちりと結っているその女性は美人だった。
直也の思い浮かべた乏しい表現をするなら、ベルサイユ宮殿が似合そうな女性と言ったところか。
どこかのお姫様かと思うほどその女性は華やかで、日頃は『可愛いな』『かっこいいな』『綺麗だな』ぐらいしか女性に思わない直也も、無意識に見詰めてしまう。
「坊や?」
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