科学使えば世界征服余裕じゃね？

悠久の旅

お忍び調査

　ゼノンの農地革命で魔界に食で苦しむ生き物はいなくなった。魔界のみならず、人間界でもパントリー産の作物の輸入によって、飢餓に苦しんでいた多くの村は繁栄を取り戻した。



　ゼノンは人間界の始まりの街にいた。”平和”を肌で感じに行ったのだ。ここ最近激務が続いていたため、ピョンにしばらく魔界を任せて遊びにきた。ゼノンは、賑わい、人が溢れるその街に紛れ込んでいた。背格好は周りの人間より頭１つ大きいが、一般的な旅人の格好をしていたため怪しく思われる事はないだろう。

「なめこの味噌汁と猪のソテー下さい」

　まさか料理屋の店主も目の前にいる男が魔王だとは思わないだろう。

「旅の旦那、男前だねぇ。嫉妬しちまうぐらいだよ。なめこ多めにしといたからとっととこの村から出てってくれよ。俺がブサイクに見えるだろ笑」と、軽い冗談を飛ばされる。
　
　なんと平和なのだろうか。まるでずっと昔からお世話になっているおじさんのような安心感がある。初対面の人を相手にここまで暖かさを感じる事はないだろう。自然と深く息を吐き、幸福で胸を膨らませる。
　
　今思い返せば、転生前の世界がどれほど辛いものであったかがわかる。技術の発展に伴い、スマホなどが普及し、人と人との距離は近くなったと思われていた。しかし、直接顔を合わせなくてもコミュニケーションが取れるため、人に対する”感情”を表情や仕草に出す能力が失われてしまったように感じる。むしろ人と人との距離は離れてしまった。人情、思いやりなどの損得勘定とは相反するこの考え方こそが人間味の美しさであり、1番の平和を感じられるものであると思っていた。

　ここでゼノンは疑問を抱く。（今自分が目指している世界は本当に平和を迎えられるだろうか。科学とは効率。つまり理論で語れない人情、思いやりを相反するものめ語ることはできるのか。）
　
　人生の豊かさとは？
　
　お金が沢山ある。自由に使える時間が多い。人に好かれる。恋人と添い遂げる。など
　様々な豊かさの基準があると思う。
　ただそれぞれには確実に感情がある。人生の豊かさとは感情の豊かさだと思う。たとえ騙され、疑心暗鬼になったとしても、悲しんだり、辛いと思うことは必ず自分を成長させてくれる。人生経験が豊富と言われる人はこのような感情の豊かさを積み上げてきたのだろう。


「ご馳走様でした♪」料理は本当に美味かった。
　
　明るく振る舞い軽い足取りで店を後にする。ゼノンは世界平和のための計画をもう一度見直して慎重に進めることにした。この世界を元いた世界のように荒んだ世界にしたくない。戦争も起こしたくない。ただただ科学技術にのみ目を向けていた前世の自分が情けなく感じる。広い視点で見ていたつもりだったが、立体的に見ることができていなかった。最高の科学者とはなんたるかを少し理解した気がした。

　しばらく歩いているとザワザワと人だかりができているところがあった。

「ふざけんなよ！ゾロ目3連続はイカサマだろ！」

　2人の男が今にも殴り合いを始めそうな雰囲気でいる。
　周りの民衆も立ち止まり、不安そうな表情を浮かべている。仲介しなければと思い、一歩前に出る。と、同時に反対側から3人が前に出てきた。パッと目があう。どうやらやろうとしていることは同じらしい。
　それぞれ、男の動きを封じてなだめる。やがて片方の男がつばを吐いてその場を去り、民衆も散っていった。

3人のそれぞれと握手を交わす。
「御三方は旅をしているんですか?」
「その通り！魔王を倒すべく冒険している。こっちは魔法使いのクレタ、こっちは僧侶のミスノ、そして俺が偉大な勇者パルメニデスだ！」

「そうですか」

まさかの勇者一味だった。すぐに《瞬間移動》で逃げてしまおうかと思ったが、どうしても勇者の傲慢さが許せなかった。

「…なぜ、魔王を倒そうとしているのですか？」

「もちろん、それが勇者の使命だからだ。」

「うん、だからなんでそれが使命なんですか？」

「そういうものだと決まっているからだ！」

全く、詰め込み教育の弊害がこの世界でも見られるとは。

宗教や思想は時に限度を超えることになる。物事を過信しすぎるということは盲目になるということだ。この世界では勇者と魔王、正義と悪という役割が強く根付いているのだろう。


「では勇者よ、3人で私にかかってきなさい。手加減はいりません。もし、私に指一本さえ触れることが出来なければ、あなた達は私の弟子になりなさい。」

王者の風格、威厳を示すように話しかける。

「いいだろう！魔王踏破の前哨戦といこうじゃないか！そのかわり俺らが勝てばその洒落た帽子を2度と被らないと約束しな！」


彼らは民間人に被害が出ないように森の中に移動した。