甘い気持ちのわけを教えて~和菓子屋兎月堂で甘いお菓子と二人ぐらし、始めました!~

深水えいな

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10.秋の嵐は突然に

34.雑誌の取材

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「わぁー、秋らしい店内で素敵ですねぇ」

 ひっつめ髪に黒縁メガネをかけた女性、牧野さんがキョロキョロと店内を見回す。

「ええ。がんばって飾り付けしてみました」

 店の中は、紅葉や栗、葡萄をモチーフにした飾り付けがされている。
 栗拾いにいった果樹園をイメージして、造花や模造紙で作った果物を飾っただけだけど、我ながら良い出来栄えだと思う。

「それで、こちらがうちの店の新製品です」

 私はショーケースの中の栗まんじゅうを取り出した。

「わぁ、美味しそうですね」

 和菓子を見せた途端、牧野さんのテンションが急に上がる。

「梶原さん、梶原さん、これ撮って下さい!」

「はいよ」

 奥から大きなカメラを持った男の人が現れる。

「えっ、私も写るんですか?」

 思わず顔を引きつらせると、カメラマンさんはケラケラと笑う。

「嫌なら手のこの辺だけ写しますから。お皿を持って立っていてください」

「はい、それなら」

 指示された通り、お皿に栗まんじゅうを盛り付けてカメラの前に立つ。

「もうちょっとお皿こっちに傾けて」

「はいっ」

 写るのは手だけだというのに、ガチガチに緊張してしまう。

 というのもこの人たち、じつは『タウンマガジン』というタウン誌の記者さんたちなのだ。
 雑誌の取材なんて初めてだから、どう立っていいのかすら分からずにオロオロしてしまう。記事の善し悪しで、売上が変わるかと思えばなおさら。

「はい、オッケー。そんなに緊張しなくて大丈夫だよ。たくさん撮るけど、とりあえず撮ってるだけで全部使うわけじゃないし、気楽にね」

「は、はい」

 良かった。きっと私が栗まんじゅうを持ってる写真はボツになるに違いない。

「そうですねー、他に何かオススメの商品はありますか?」

 牧野さんが尋ねてくる。

「はい。この栗の羽二重餅もそうですし、こちらのどら焼きも栗味を追加したんです。試食しますか?」

「良いんですか?」

 次々に栗の和菓子を頬張っていく牧野さん。

「ん~、幸せ!」

 カメラマンさんが呆れ顔をする。

「牧野さーん、幸せなのは良いんすけど、ちゃんと記事も書かないと」

「分かってますよっ」

「とりあえず、今度はどら焼きと羽二重餅の写真を撮ってもいいですか?」

「ええ、どうぞ」

「じゃあ今度はその台の上で」

 カメラマンさんがパシャパシャと栗まんじゅうや栗羽二重餅、栗どら焼きを撮影していく。

「うん、良いのが取れましたよ」

 カメラマンさんが撮った写真を確認していると、悠一さんがやってきた。

「お疲れ様です。すみません、遅れて」

 せっかくの雑誌の取材だというのに、仕入れ先で問題があったらしく、先に取材を進めていてくれと言われていたのだ。

「あっ、店長さんですか?」

 牧野さんの顔がぱぁっと輝く。

「はい。ちょっとトラブルがありまして、遅くなってしまって申し訳ありません」

「いえいえ、とんでもない!」

 悠一さんと牧野さんが名刺交換を済ませる。
 牧野さんは悠一さんの名刺を手にしたまま、顔を真っ赤にしてぽーっと悠一さんの顔に見とれている。さてはイケメン好きだな、この人。

 カメラマンさんがゴホンと咳払いをして、ようやく牧野さんは正気に帰った。

「えーっと、それじゃあ、店長さんにも少しお話をうかがいたいんですが」

「はい。いいですけど、僕はあんまり顔出しとかしたくないので。主役はあくまでも和菓子なので、そちらをメインに取っていただけるならば」

 悠一さんが笑うと、牧野さんは心底残念そうな顔をした。

「そうですか。ではそのように致しますね。じゃあ店長さんには、そのお菓子を手に……そうですそうです」

 今度は悠一さんの撮影とインタビューが始まる。

「それでは、載るのは来月号になるとおもいますので、雑誌が出来ましたら送りますね!」

 牧野さんたちは元気よく手を振り帰って行く。


 できあがった雑誌が店に届いたのは、そんな取材のことなどすっかり忘れた頃だった。

 中を見てみると、秋の和菓子特集の一角に、小さいけれど兎月道の記事が載っている。お皿に乗った栗まんじゅうやお餅がキラキラといかにも美味しそうだ。

「やっぱりプロのカメラマンさんに撮ってもらった写真は違うなぁ」

 自分が写ってる写真が使われなくて良かった。そう思いながら私は記事を切り取ると、写真立てに入れて店頭に飾ることにした。

「これでよしっと」

 お客さん、増えるといいなぁ。





「果歩さん、そろそろお昼休憩に行っていいよ。ここは僕が代わるから」

「はい。ありがとうございます」

 悠一さんに声をかけられ接客を交代する。今日は秋葉くんが居ないので悠一さんと二人きりだ。

 店内はいつになく混みあっていて、お昼になったことすら悠一さんに言われて初めて気づくくらい。

「今日はやけに人が多いですね」

「もしかしてあの雑誌が発売されたからじゃないのかな?」

 悠一さんが雑誌の切り抜きを指さす。

「ああ、それでですね」

 あんな小さな記事なのに、こんなに集客効果があるなんて凄いなぁ。
 そう思いながら奥に行こうとすると、不意にこんな声が聞こえてきた。

「見て見てあそこ」
「雑誌に載ってたイケメン店長さんだ!」

 えっ?

 私は雑誌の切り抜きの内容を思い浮かべた。
 兎月堂の紹介ページには、悠一さんの顔なんて載って無かったと思うけど……。
 もしかして、私が気づかなかっただけで、他のページにも紹介されてた?

 私は急いで部屋に戻ると、雑誌をペラペラとめくって確かめてみることにした。

「わぁ、こんなに大きく載ってる!」

 すると最後の方の「街で働くイケメン総選挙」という特集記事の中に、悠一さんの写真が「イケメン菓子職人」として大きく取り上げられているのを見つけた。

 こんな記事があったなんて全然気づかなかった!

「悠一さん、こんなに大きく」

 はにかんだ笑顔は少し固くて、実物より本物の方がいいなと感じたけど、それでもイケメン総選挙参加者の中では断トツに格好良く見える。

 毎日顔を合わせてるし、秋葉くんも大吉さんも格好良いから感覚が麻痺してるけど、こうやって改めて見ると悠一さんってやっぱり整った顔をしてる。
 これはもしかすると、イケメン総選挙、本当に優勝しちゃうかも。

 そんな格好良い人に誘われて一緒に働いているなんてなんだか嘘みたい。ひょっとしたら私って凄くラッキーなのだろうか。

 でも――。

 悠一さんは、見た目じゃなくて和菓子の味で勝負したいって言ってたし、この記事は気に入らないだろうなぁ。

 休憩を終えて店に戻ると、店の中はさらに混雑していた。
 お客さんは圧倒的に若い女性が多く、やはり雑誌を見てやってきたようた。

「はぁ」

 来てくれるのは嬉しいんだけど、やっぱり私はイケメンよりも和菓子の味を評価してほしいんだけどな。そんな複雑な気持ちで一杯になる。
 これを機にリピーターが増えてくれたら良いんだけど。

「悠一さん、休憩代わりますよ」

「ああ、ごめん」

 少し疲れたような顔をした悠一さんが笑う。

 悠一さんが会計を終え、奥に引っこもうとしたその時、ゆっくりとドアが空いて若い女の人が入ってきた。

「いらっしゃいませ」

 入ってきたのは背が高くて顔が小さい、モデルみたいな美人だった。
 サラサラの黒いロングヘアーに透き通るような白い肌。パッチリとした大きな瞳に、細く長い手足。
 スリムなんだけど胸とかお尻はボリュームがあって、とても同じ日本人とは思えなかった。

 なんて綺麗な人なんだろう。まるでお人形さんみたい。

 そんなことを思っていると、美人さんは悠一さんの方を見るなり声を上げた。

「悠一っ」

 え? と思っていると、悠一さんの顔色が変わった。

さき……」

 ただならぬ二人の雰囲気。

 悠一さん、知り合いなの?
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