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11.クリスマスとお正月
38.クリスマスとお正月(1)
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時は流れ、十二月。
乾いた風に身を震わせながら街を歩くと、どこからかクリスマスソングが流れてくる、そんな季節。
私は麻衣ちゃんと一緒に、新しくオープンしたパスタ屋さんにやって来ていた。
「わぁ、お洒落なお店」
リースのかかったドアを開けると、正面には電飾の輝く大きなクリスマスツリー。
レンガを模した壁には、サンタクロースやトナカイ、雪だるまの可愛らしいオブジェが飾られている。
「私はこのほうれん草とサーモンのパスタにしようかな」
「じゃあ私はカルボナーラ」
注文を終え、二人てパスタが運ばれてくるのを待っていると、急に麻衣ちゃんが切り出した。
「実は私、クリスマスを大吉さんと過ごすことになったの」
突然の報告に、私は飛び上がりそうなほど驚いた。
「ええーっ、本当?」
「そうなの。ダメ元でクリスマス二人で過ごしませんかって誘ってみたらOKされて」
蕩けそうな麻衣ちゃんの笑顔に、こっちまで嬉しくなってきた。
「そうなんだぁ。すごいなぁ。おめでとう」
口先だけじゃない。私は本気で嬉しかった。麻衣ちゃんもいい子だし、大吉さんも、ちょっとチャラいけど基本的にはいい人だし。美男美女でお似合いだと思う。
麻衣ちゃんは照れたように頭をかいた。
「いやいや、まだだって。まだ付き合ってる訳じゃないし」
「でもクリスマスを二人で過ごすなんて、もうほとんど彼氏と彼女みたいなものでしょ?」
「うーん、そうかなぁ」
「そうだよ。大吉さんだったら、きっとオシャレなホテルとかレストランを用意してくれるよ。そこで告白とかされちゃうかも」
照れ笑いを浮かべる麻衣ちゃん。
「だといいけど」
「きっとそうだよ。大吉さん、赤いバラとか用意しそう」
「なにそれ! まあ、やりそうではあるけど」
「どうする? 百本のバラとか持ってきたら」
二人で大吉さんのキザな姿を想像して盛り上がる。
大吉さんだったら、きっとお洒落なお店も沢山知ってるし、ロマンチックな演出でクリスマスを盛り上げてくれるんだろうな。
と、急に麻衣ちゃんが真剣な顔になる。
「ところで果歩たちはどうなの?」
「どうって?」
私が目をパチクリされると、麻衣ちゃんはニヤリと笑った。
「やだなー、悠一さんとのことだよ。付き合って初めてのクリスマスだし、それはもうロマンチックに過ごすんでしょ?」
「いやー、どうかな。まだどこかに出掛けるとかそういう話は聞いてないけど」
私は悠一さんの姿を頭の中に思い浮かべる。どちらかというと、クリスマスなんて面倒臭いというタイプに見える。
「でも付き合って初めてのクリスマスだし、きっと何か用意してるよ!」
「そうかなぁ」
私はチカチカと暖かい光の灯るクリスマスツリーを見つめた。
付き合いたてだし、ちょっとは期待しても良いのかな?
◇
「ただいまー」
「おかえり、果歩さん。今日は寄せ鍋だよ」
家に帰ると、夕ご飯の準備をしている悠一さんが出迎えてくれる。
私はエプロンを着け、鍋に向かう悠一さんの背中を見つめた。
全くもう、麻衣ちゃんにあんなこと言われたもんだから、なんだか妙に意識してしまうじゃん。
「あ、あの」
声をかけると、悠一さんが振り向く。
鍋からは、昆布や魚介を煮込んでいるようないい匂いがした。
「ん、何?」
「悠一さん、クリスマスはどうするんですか?」
悠一さんはキョトンとした顔で答える。
「どうって、いつものように和菓子作りだけど?」
「和菓子作り?」
「正月前は、お饅頭とかお餅がよく売れる時期だしね」
確かに、お正月といえばお餅のイメージがある。
悠一さんによると、お正月にお餅を食べるのは、平安時代に宮中で健康と長寿を祈願して行われた正月行事「歯固めの儀」に由来しているのだそうだ。
もともと餅は、ハレの日に神さまに捧げる神聖な食べ物で、長く延びて切れないことから、長寿を願う意味も含まれているのだとか。
「だからそれに備えて、お餅や日持ちするお菓子は沢山作っておかないとね」
「そ、そうですね」
何だか寂しいような、ホッとしたような。
そうだよね。和菓子屋にはクリスマスなんて関係ない。
「どうしたの、もしかして休みが欲しいとか、どこか行きたいところでもあった?」
慌てて首を横に振る。
「あ、いえ。今日麻衣ちゃんに会ったら、麻衣ちゃんがクリスマスは大吉さんとデートするって言ってたので」
「えっ、そうなの?」
悠一さんは心底びっくりしたような顔でこちらを見た。
「そうか。あの二人、そうだったんだ」
悠一さんはクルリと鍋に向き直る。
「そっか。じゃあ果歩さんも、予定が入ったら遠慮せずに言ってもいいよ。店は僕一人で大丈夫だから」
ん? 何それ。私たち、付き合ってるんじゃないの?
まぁ、悠一さんらしいと言えば悠一さんらしいけど……。
お腹の中にモヤモヤを抱えたまま、私は小さくうなずいた。
「はい。でも、大丈夫です。本当に予定なんかありませんから。ただ聞いてみただけです」
「そう? ならいいけど」
私は小さく息を吐いこの分だと、クリスマスはいつもと変わらない――ううん、下手したらいつもより忙しい一日になりそう!
乾いた風に身を震わせながら街を歩くと、どこからかクリスマスソングが流れてくる、そんな季節。
私は麻衣ちゃんと一緒に、新しくオープンしたパスタ屋さんにやって来ていた。
「わぁ、お洒落なお店」
リースのかかったドアを開けると、正面には電飾の輝く大きなクリスマスツリー。
レンガを模した壁には、サンタクロースやトナカイ、雪だるまの可愛らしいオブジェが飾られている。
「私はこのほうれん草とサーモンのパスタにしようかな」
「じゃあ私はカルボナーラ」
注文を終え、二人てパスタが運ばれてくるのを待っていると、急に麻衣ちゃんが切り出した。
「実は私、クリスマスを大吉さんと過ごすことになったの」
突然の報告に、私は飛び上がりそうなほど驚いた。
「ええーっ、本当?」
「そうなの。ダメ元でクリスマス二人で過ごしませんかって誘ってみたらOKされて」
蕩けそうな麻衣ちゃんの笑顔に、こっちまで嬉しくなってきた。
「そうなんだぁ。すごいなぁ。おめでとう」
口先だけじゃない。私は本気で嬉しかった。麻衣ちゃんもいい子だし、大吉さんも、ちょっとチャラいけど基本的にはいい人だし。美男美女でお似合いだと思う。
麻衣ちゃんは照れたように頭をかいた。
「いやいや、まだだって。まだ付き合ってる訳じゃないし」
「でもクリスマスを二人で過ごすなんて、もうほとんど彼氏と彼女みたいなものでしょ?」
「うーん、そうかなぁ」
「そうだよ。大吉さんだったら、きっとオシャレなホテルとかレストランを用意してくれるよ。そこで告白とかされちゃうかも」
照れ笑いを浮かべる麻衣ちゃん。
「だといいけど」
「きっとそうだよ。大吉さん、赤いバラとか用意しそう」
「なにそれ! まあ、やりそうではあるけど」
「どうする? 百本のバラとか持ってきたら」
二人で大吉さんのキザな姿を想像して盛り上がる。
大吉さんだったら、きっとお洒落なお店も沢山知ってるし、ロマンチックな演出でクリスマスを盛り上げてくれるんだろうな。
と、急に麻衣ちゃんが真剣な顔になる。
「ところで果歩たちはどうなの?」
「どうって?」
私が目をパチクリされると、麻衣ちゃんはニヤリと笑った。
「やだなー、悠一さんとのことだよ。付き合って初めてのクリスマスだし、それはもうロマンチックに過ごすんでしょ?」
「いやー、どうかな。まだどこかに出掛けるとかそういう話は聞いてないけど」
私は悠一さんの姿を頭の中に思い浮かべる。どちらかというと、クリスマスなんて面倒臭いというタイプに見える。
「でも付き合って初めてのクリスマスだし、きっと何か用意してるよ!」
「そうかなぁ」
私はチカチカと暖かい光の灯るクリスマスツリーを見つめた。
付き合いたてだし、ちょっとは期待しても良いのかな?
◇
「ただいまー」
「おかえり、果歩さん。今日は寄せ鍋だよ」
家に帰ると、夕ご飯の準備をしている悠一さんが出迎えてくれる。
私はエプロンを着け、鍋に向かう悠一さんの背中を見つめた。
全くもう、麻衣ちゃんにあんなこと言われたもんだから、なんだか妙に意識してしまうじゃん。
「あ、あの」
声をかけると、悠一さんが振り向く。
鍋からは、昆布や魚介を煮込んでいるようないい匂いがした。
「ん、何?」
「悠一さん、クリスマスはどうするんですか?」
悠一さんはキョトンとした顔で答える。
「どうって、いつものように和菓子作りだけど?」
「和菓子作り?」
「正月前は、お饅頭とかお餅がよく売れる時期だしね」
確かに、お正月といえばお餅のイメージがある。
悠一さんによると、お正月にお餅を食べるのは、平安時代に宮中で健康と長寿を祈願して行われた正月行事「歯固めの儀」に由来しているのだそうだ。
もともと餅は、ハレの日に神さまに捧げる神聖な食べ物で、長く延びて切れないことから、長寿を願う意味も含まれているのだとか。
「だからそれに備えて、お餅や日持ちするお菓子は沢山作っておかないとね」
「そ、そうですね」
何だか寂しいような、ホッとしたような。
そうだよね。和菓子屋にはクリスマスなんて関係ない。
「どうしたの、もしかして休みが欲しいとか、どこか行きたいところでもあった?」
慌てて首を横に振る。
「あ、いえ。今日麻衣ちゃんに会ったら、麻衣ちゃんがクリスマスは大吉さんとデートするって言ってたので」
「えっ、そうなの?」
悠一さんは心底びっくりしたような顔でこちらを見た。
「そうか。あの二人、そうだったんだ」
悠一さんはクルリと鍋に向き直る。
「そっか。じゃあ果歩さんも、予定が入ったら遠慮せずに言ってもいいよ。店は僕一人で大丈夫だから」
ん? 何それ。私たち、付き合ってるんじゃないの?
まぁ、悠一さんらしいと言えば悠一さんらしいけど……。
お腹の中にモヤモヤを抱えたまま、私は小さくうなずいた。
「はい。でも、大丈夫です。本当に予定なんかありませんから。ただ聞いてみただけです」
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