【完結】サーラの結婚

十井 風

文字の大きさ
9 / 33

第9話

しおりを挟む
 アニーサの後をついて行くと広場に出た。ここでは、シュトルツ族がみな思い思いに過ごしている場所らしい。楽器を弾いて歌を歌ったり、日の光を浴びながらうたた寝をしたりしている。
 真ん中にそびえ立つようにして建てられた教会が見えてきた。サーラとブレイブの結婚式が行われた場所でもある。
 アニーサは教会の中に入ると、一番奥の扉を叩く。
「ここは賢者の間と呼ばれる部屋です。族長達は午前中ここで会議をしているので、いらっしゃるはずですが……」

 扉を叩いてから少し経って、中からブレイブが出てきた。
「何の用だ?」
「サンスクリット様が故国に1度お戻りになりたいようでして、その許可をいただきに参りました」
 アニーサの説明にリアンが食い付く。
「嫁ぎ先にまで連れてきた護衛でしょ? 何で帰る必要があるの?」
 ブレイブはアニーサ達の後ろを見た。教会には他の住民もやって来る。サーラは彼の視線に気付き、後ろを振り返った。教会にやって来た住民達が訝しげにこちらを見て、小声で何か話し合っている。
 他にも人がいる前で話すのはまずい。サーラは視線をブレイブにやると察したのか、中に入れと部屋に入れてくれた。

 賢者の間と呼ばれる部屋には、フクロウの木彫りが置かれていた。木彫りを囲むようにして円卓があり、等間隔に椅子が並べられている。
「それで理由は何だ」
 部屋に入るとすぐにブレイブが聞いてくる。サーラは正直に理由を伝えた。
「今更シュトルツ族を襲ったのは誰かなんて調べても、あんたの国がやった事には変わらないだろ! 証拠にあんたをこっちに送って来たんだからよ!」
 サーラの話に真っ向から噛みついてきたのはリアンだった。ブレイブは黙って考え込んでいる。
「やましいことが無かったらあんたの父親は、シュトルツ族を襲ったのはスフェール兵じゃないって言うはずだろ!」
 リアンの言うことも分かった。だが、どうしても裏側にも理由があるような気がするのだ。

「本当にスフェールが襲ってない場合でも、お父様ならわたしをここに送り込むでしょう」
「どういうことだよ?」
 訳が分からないというようにリアンは眉をひそめる。
「スフェールは襲っていないけど、本当の黒幕をお父様は知っている時です。つまり、真犯人を知っていてそれを知らせる気はないけど、シュトルツ族とも仲良くしたい。そういう時ならあのお父様はわたしを交渉の材料に使うでしょう。お父様ならきっとそうするはずです」
 と偉そうに言ってもお父様の思惑を知ったのはここに来てからでしたが、とサーラは続ける。
 リアンは腑に落ちたような、落ちていないような曖昧な表情を浮かべたままだった。
 今まで黙っていたブレイブが静かに口を開く。

「1つ聞いていいか? お姫さんがそこまでする必要はどこにある?」
 真っ直ぐに向けられた青い瞳。海を見ているような深い青色の瞳。
「……わたしとこの場所を守るため。おそらく、わたしの結婚には襲撃の事件以外にも裏がある。良くない事が起きる前に情報を集めて、もし危険が迫るなら先手を打ちたいの」
「この場所って……シュトルツ族はアンタを歓迎しちゃいねぇよ。アンタが一族に災厄を招くならアンタを追い出せばいい」
 リアンの鷹のような鋭い瞳がサーラを射るように向けられる。
 サーラはリアンの視線を受け止めるように、見返した。
「そうしたければそうすれば良いわ。わたしはここにいる限り、この場所を守る為に考えられる事はやるだけよ」
 ブレイブは興味深そうにサーラを見ていたが、やがて口を開いた。
「お姫さんの護衛をスフェールに調査の為に向かわせる事に賛成だ。情報収集には時間がかかるだろう。数ヶ月滞在出来るくらいの資金は用意できる」
「まじかよ!? 正気か、ブレイブ!」
 リアンがブレイブの肩を持ち揺さぶるが、ブレイブは鬱陶しそうに見やる。
「俺個人の資金から調達する。それで良いだろう?」
 ブレイブにきっぱりと言われ、リアンは「まぁ、一族の共有資金じゃないなら良いけどさ」と呟く。

「ただし、集めてきた情報は全て俺達にも共有しろ。必ず」
「分かったわ、本当にありがとう」
 サーラはブレイブに手を差し出す。ゆっくりと握り返されたブレイブの硬い手。白い髪から見える耳がまたせわしなく動いていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

【完結】嫌われ公女が継母になった結果

三矢さくら
恋愛
王国で権勢を誇る大公家の次女アデールは、母である女大公から嫌われて育った。いつか温かい家族を持つことを夢見るアデールに母が命じたのは、悪名高い辺地の子爵家への政略結婚。 わずかな希望を胸に、華やかな王都を後に北の辺境へと向かうアデールを待っていたのは、戦乱と過去の愛憎に囚われ、すれ違いを重ねる冷徹な夫と心を閉ざした継子だった。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

完璧な政略結婚のはずでしたが、宰相閣下の“私の妻”扱いが甘すぎます

星乃和花
恋愛
政略結婚のはずでした。 家同士の利も、立場の釣り合いも、全部きちんと整った、完璧に合理的な結婚。 ……なのに、夫となった冷徹宰相は、なぜか人前で私を「最高の妻」と紹介し、暮らしを完璧に整え、他人に近づかれると不機嫌になってしまいます。 “天使”と噂される穏やかな令嬢フィオナもまた、 そんな不器用な優しさに少しずつ心をほどかれて――。 これは、条件で選ばれたはずの夫婦が、 いつの間にかお互いを“ただ一人”として欲しくなるまでの、甘くてやさしい政略結婚物語。 (毎日21:50更新ー全8話)

【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

花言葉は「私のものになって」

岬 空弥
恋愛
(婚約者様との会話など必要ありません。) そうして今日もまた、見目麗しい婚約者様を前に、まるで人形のように微笑み、私は自分の世界に入ってゆくのでした。 その理由は、彼が私を利用して、私の姉を狙っているからなのです。 美しい姉を持つ思い込みの激しいユニーナと、少し考えの足りない美男子アレイドの拗れた恋愛。 青春ならではのちょっぴり恥ずかしい二人の言動を「気持ち悪い!」と吐き捨てる姉の婚約者にもご注目ください。

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

処理中です...