25 / 33
第25話
しおりを挟む
「……とりあえず皆で少し考えてからまた話し合おうぜ」
沈黙を破ったのはリアンだった。
「腹も減ったし、一度解散ってことで」
「そうだな。俺も1人になって熟考したい」
ブレイブもリアンの提案に賛成のようだ。サンスクリットは彼等の意思を確認すると、頷きながら話した。
「サビアはすぐには攻めて来ないでしょう。しばらくスフェールに留まるようです。時間は少しだけ残されています」
残された限りある時間で何が出来るか。この地を、この一族を守るためにサーラが出来ること。
(わたしの出来ることをやってみるしかない)
サーラはサンスクリットに目配せをする。彼もサーラの意図を察したらしく、小さく頷いた。
「明日の朝、ここに集合だ」
ブレイブの短い合図で議論は終わった。
賢者の間を先に出たのはリアンで、彼に続いてブレイブも出て行った。賢者の間に残ったのはサーラとサンスクリットだけだ。
「サーラ様」
2人きりになったことを確認すると、サンスクリットはサーラに向き直る。自分が何を指示されるのか分かっているようだ。サーラも無言のやり取りで気付いていたので単刀直入に用件を伝える。
「サンスクリットにフォルトゥス族の領地へ向かって欲しいの。またスフェールに戻す事になってしまうのだけど……」
スフェールの国土にひっそりと住むフォルトゥス族。大陸最強とも呼ばれる、戦いに特化した戦闘民族である。容姿は大陸人――シュトルツ族が外界の人間と呼ぶ――と変わらないが、その体は文字通り『戦闘に特化した』特徴を持つ。
皮膚は硬く矢も弾き、見た目では分かりにくいが非常に発達した筋肉を持ち、素手で人間の頭を粉砕出来るほどだ。
フォルトゥス族特有の紫色の瞳は、遠くまで見渡せる程に視力が良い。夜目も利くので夜でも行動出来る程だ。
サーラは彼等に助けを請おうと考えたのだ。
「わたし達が助けを求めても他国が絡んだ問題に族長が首を縦に振ってくれるとは思えない。徒労に終わる可能性もある」
フォルトゥス族は、シュトルツ族と同様に特異な体質を持っているが故に、支配下に置こうと狙った国々に襲われる事が何度もあった一族である。戦や争いを嫌うスフェールでさえ、彼等と小競り合いを続けていた。そのような経緯もあって、外部と交流を持ちたがらない。
彼等は今、スフェールとシュトルヴァ領の国境近くにある山脈を越えた草原で暮らしている。彼等の居住地はスフェールの国土になるが現在では、先住民であるフォルトゥス族を攻撃しない事でスフェールと合意している為、スフェールが裏ではサビアに回っていても、彼等は独立した立場であるはずだ。サビアと共にシュトルツ族を侵略してこないだろう。
助けを求める相手にもなるが、誰にも味方をしない可能性だってある。勝算はあまり無いかもしれない。
「私の働きが結果的に無駄になったとしても、可能性が少しでもあるならどこまででも行きます」
サンスクリットは、熟した葡萄のような濃い紫色の瞳を真っ直ぐにサーラへ向けた。
「ありがとう、サンスクリット。わたし達は出来ることをやりましょう」
「本日の夜に発ちます。サーラ様、念のため他の方法もご一考ください」
「えぇ、分かったわ」
サーラは頷くと机に広げられたままの世界地図を見た。大陸の左半分を占める大国サビア。その右隣に小さく位置するスフェール。そして、シュトルヴァ領。さらに隣に位置するエゲリア。
サーラはエゲリアの国名が書かれた文字をなぞった。
沈黙を破ったのはリアンだった。
「腹も減ったし、一度解散ってことで」
「そうだな。俺も1人になって熟考したい」
ブレイブもリアンの提案に賛成のようだ。サンスクリットは彼等の意思を確認すると、頷きながら話した。
「サビアはすぐには攻めて来ないでしょう。しばらくスフェールに留まるようです。時間は少しだけ残されています」
残された限りある時間で何が出来るか。この地を、この一族を守るためにサーラが出来ること。
(わたしの出来ることをやってみるしかない)
サーラはサンスクリットに目配せをする。彼もサーラの意図を察したらしく、小さく頷いた。
「明日の朝、ここに集合だ」
ブレイブの短い合図で議論は終わった。
賢者の間を先に出たのはリアンで、彼に続いてブレイブも出て行った。賢者の間に残ったのはサーラとサンスクリットだけだ。
「サーラ様」
2人きりになったことを確認すると、サンスクリットはサーラに向き直る。自分が何を指示されるのか分かっているようだ。サーラも無言のやり取りで気付いていたので単刀直入に用件を伝える。
「サンスクリットにフォルトゥス族の領地へ向かって欲しいの。またスフェールに戻す事になってしまうのだけど……」
スフェールの国土にひっそりと住むフォルトゥス族。大陸最強とも呼ばれる、戦いに特化した戦闘民族である。容姿は大陸人――シュトルツ族が外界の人間と呼ぶ――と変わらないが、その体は文字通り『戦闘に特化した』特徴を持つ。
皮膚は硬く矢も弾き、見た目では分かりにくいが非常に発達した筋肉を持ち、素手で人間の頭を粉砕出来るほどだ。
フォルトゥス族特有の紫色の瞳は、遠くまで見渡せる程に視力が良い。夜目も利くので夜でも行動出来る程だ。
サーラは彼等に助けを請おうと考えたのだ。
「わたし達が助けを求めても他国が絡んだ問題に族長が首を縦に振ってくれるとは思えない。徒労に終わる可能性もある」
フォルトゥス族は、シュトルツ族と同様に特異な体質を持っているが故に、支配下に置こうと狙った国々に襲われる事が何度もあった一族である。戦や争いを嫌うスフェールでさえ、彼等と小競り合いを続けていた。そのような経緯もあって、外部と交流を持ちたがらない。
彼等は今、スフェールとシュトルヴァ領の国境近くにある山脈を越えた草原で暮らしている。彼等の居住地はスフェールの国土になるが現在では、先住民であるフォルトゥス族を攻撃しない事でスフェールと合意している為、スフェールが裏ではサビアに回っていても、彼等は独立した立場であるはずだ。サビアと共にシュトルツ族を侵略してこないだろう。
助けを求める相手にもなるが、誰にも味方をしない可能性だってある。勝算はあまり無いかもしれない。
「私の働きが結果的に無駄になったとしても、可能性が少しでもあるならどこまででも行きます」
サンスクリットは、熟した葡萄のような濃い紫色の瞳を真っ直ぐにサーラへ向けた。
「ありがとう、サンスクリット。わたし達は出来ることをやりましょう」
「本日の夜に発ちます。サーラ様、念のため他の方法もご一考ください」
「えぇ、分かったわ」
サーラは頷くと机に広げられたままの世界地図を見た。大陸の左半分を占める大国サビア。その右隣に小さく位置するスフェール。そして、シュトルヴァ領。さらに隣に位置するエゲリア。
サーラはエゲリアの国名が書かれた文字をなぞった。
0
あなたにおすすめの小説
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
【完結】嫌われ公女が継母になった結果
三矢さくら
恋愛
王国で権勢を誇る大公家の次女アデールは、母である女大公から嫌われて育った。いつか温かい家族を持つことを夢見るアデールに母が命じたのは、悪名高い辺地の子爵家への政略結婚。
わずかな希望を胸に、華やかな王都を後に北の辺境へと向かうアデールを待っていたのは、戦乱と過去の愛憎に囚われ、すれ違いを重ねる冷徹な夫と心を閉ざした継子だった。
完璧な政略結婚のはずでしたが、宰相閣下の“私の妻”扱いが甘すぎます
星乃和花
恋愛
政略結婚のはずでした。
家同士の利も、立場の釣り合いも、全部きちんと整った、完璧に合理的な結婚。
……なのに、夫となった冷徹宰相は、なぜか人前で私を「最高の妻」と紹介し、暮らしを完璧に整え、他人に近づかれると不機嫌になってしまいます。
“天使”と噂される穏やかな令嬢フィオナもまた、
そんな不器用な優しさに少しずつ心をほどかれて――。
これは、条件で選ばれたはずの夫婦が、
いつの間にかお互いを“ただ一人”として欲しくなるまでの、甘くてやさしい政略結婚物語。
(毎日21:50更新ー全8話)
【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
花言葉は「私のものになって」
岬 空弥
恋愛
(婚約者様との会話など必要ありません。)
そうして今日もまた、見目麗しい婚約者様を前に、まるで人形のように微笑み、私は自分の世界に入ってゆくのでした。
その理由は、彼が私を利用して、私の姉を狙っているからなのです。
美しい姉を持つ思い込みの激しいユニーナと、少し考えの足りない美男子アレイドの拗れた恋愛。
青春ならではのちょっぴり恥ずかしい二人の言動を「気持ち悪い!」と吐き捨てる姉の婚約者にもご注目ください。
【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる