忍び

エバゴン

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幕開け

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 やめとけって、今度ばかりはまずくないか、かわいそう~等様々な声が聞こえてくる。繰り返し、繰り返し。みんなが見ている。僕を。痛いな、そう思っている。まぁ、いつものことだから多少は慣れているが痛いものは痛い。今の現状を伝えると教室の窓をでた先のベランダ的な場所から突き落とされそうなのだ。
 「痛い」いつもなら言わずに我慢していたことを言った。次の瞬間、僕は落ちた。一瞬、何が起きたのか全く分からなかった。でも、落ちている。死ぬ瞬間はゆっくりだなぁ~、そう思いながらさっき言った言葉を取り消したいとも思った。言わなけりゃ、いつも通り殴られ蹴られて事は済んだのに無駄な発言だった。後悔だ。
 覚悟を決めたその時、全身に感じたことのない痺れを感じた。僕は死ななかった。何故だが説明したいが、どうお伝えすればよいのやら。心臓のあたりから全身の先という先まで、伝わってゆく痺れ。痛みではない。ただ、自由を感じれた。それは、何も出来なかった身体が想像を遥かに超える能力を発揮したから。
 地面に手をつき、ひょいっと姿勢を直した。すごい高揚感と上からの驚きの眼差し。やつらの声が聞こえてくる。他愛のことだ。やつらが走ってくる。感じる。第六感だ。
 負ける気がしなかった。降りて来て再び襲ってくる、やつらを一人づつ絞めた。こんなにも弱かったのかと思った。周りからは悲鳴が聞こえてくる。どうでもよかった。俺が悪いのか?いいや、そんなことはない。
 そう思った。でもそうはいかなかった。どうやら、勝った俺が悪いらしい。子供の世界では勝ったやつが罪を背負う。大人の世界では反対だというのに。だが、どうということはなかった。警察沙汰になり、面倒な一週間を過ごしたが気にしなかった。何故って?当然さ!死にかけで得た力。その力を使いたくて、うずうずしているからさだ。いくらでも説教を受けてやるよ。
 「自由だ」つい思ったことを言ってしまった。署を出たばかりで隣にいた親に聞かれてまたも怒られた。しかし、本当のことさ。自由なのだ。これから何をしようか!ネガティブな人生からおさらば。レッツポジティブライフ!少し大袈裟だが、間違っていない。虐められた日々はもうこない。むしろこちらからいける。まぁ、やつらと同じことなど決してしないがな。
 その日の夜、静かに外へ出た。興奮を形にするためだ。走ったとにかく走ってみた。速い、速すぎる。脚に力を入れるだけでバケモノのように速い。すぐに近くの大きな公園にたどり着いた。
 自分の成長が怖いとか、ここまで誰かに見られていないだろうかなんてことも気にしなかった。なによりも興奮が止まらない。
 速さの次は力だ。きっとあるはずだ。そう思いながら、拳を木に当てた。全力で。
 「うわっ」近くの木もまとめてぶっ飛んだ。ヤバイ。そう思ったが、またも興奮が上回った。公園にある全てを壊していった。どうしてなんて聞かれても今の俺には答えられない。だって興奮しているから。
 全身に汗をかいた。これまでは怯えからくる汗だったが、今は違う。全身から溜まりに溜まっていた汗が出てくる。地面に水溜まりができるくらいにだ。
 あっという間に公園を破壊した。速さと力のおかげだ。破壊された公園を見て、少しを気を抜いた。一気に全身にどっと疲れを感じた。とりあえず、帰ろう。1時間せずに暗いうちに家路に着いた。
 「明日から何をしようかな」期待と興奮に満ちた面持ちで天井を見つめていた。その日はすぐに寝た。
 

 
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