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1話:神との謁見
しおりを挟む学校に向かう前、ゆきみはいつもと同じように、和室にある仏壇の前に座り、
父と飼い猫だったまるの写真に向かって、「行ってきます」と伝えた。
もちろん、返事は帰ってこない。それでも、言わずにはいられなかった。
…お父さんが死んだのは、私のせいだから。
ゆきみは顔を歪め、「ごめんなさい」と小さく囁いて、家をあとにした。
学校へ向かう道は、いつもと変わらない。
毎朝見ている建物、死角があって危険な三叉路、人懐っこい犬のマロマユ。
何もかも、当たり前の景色のはずだった……。
「…?」
ゆきみの足は、神社の前で止まった。
理由は分からないが、なぜだか無性に参拝がしたくなり、
ゆきみはスマホを取り出して、時間を確認した。
(まだ余裕はあるし、折角だから行ってみようかな。)
スマホを制服のポケットに仕舞い、長い階段を登り始めた。
「んっ……ここ、は?」
ゆきみはぼんやりとした意識のまま、ゆっくり起き上がった。
(私、確か神社に行って、それから……どうしたんだっけ?)
辺りを見回すと、そこは真っ白で何もない空間が広がっていた。
立ち上がり、周囲を確認しようと一歩踏み出した瞬間——
「やっほー!起きた?」
急に、目の前に不思議な少年の顔が覗き込んできた。
「うわぁあ!?!あ、あなたは誰ですか?」
突然現れた少年に驚き、
ゆきみは腰が抜け、思わず尻もちをついた。
「あっはは!いい反応!!!
流石僕のゆきみ♪
…おっと、いけないいけない。
笑いすぎは良くないよね?
短気な人間は、こういうのですぐに怒っちゃうし。
さてと、僕が”誰か”だっけ?」
少年はひとつ咳払いをすると、
空中に浮かんだまま胸に手を当て、したり顔で高らかに自己紹介をした。
「コホンッ 初めまして、僕の名はガイド。
君たち人間の魂を導く、いわゆる”神”と呼ばれる存在だよ♪
よろしくね♡」
(全然神様に見えない…絶対嘘だ。)
「むぅー、人を見た目で判断するのはよくないと思うな!
まぁ僕、人じゃないけどw」
「な、なんで考えてること分かったんですか?!」
ガイドと名乗った神様?は、ニヒルな笑みを浮かべ、
ゆきみの鼻を人差し指でつついた。
「だから、さっきも言っただろ?僕が神様だからさ!
人の思考を読むのなんて、赤子の手をひねるより簡単だよ!
そんなことも分からないんだね、ゆきみは!
まっ、そういうところも可愛いんだけど♡」
…………。
(あれ?そういえば、私の目の前には魂を導く神様がいるってことは…)
「私って、もしかして……」
「うん、死んだよ。」
「っ……」
あっさりと告げられ、ゆきみは言葉を失った。
「階段から落ちた。まぁ正確には、僕が落としたんだけど!
でもまさか、あそこまで派手に逝くとは思わなかったけどね☆」
(…そうだ。思い出した。
あの時、参拝を終えて階段を降りてたとき、急に背中を押されたんだ。)
信じられないような顔で、神を名乗るガイドを見つめていると、
彼はニッコリと、でも何故か背筋が凍るような冷たい表情でゆきみに言った。
「思い出したんだぁ、良かった。
でも安心して?」
ガイドは指を立てる。
「代わりとして、ゆきみには新しい人生を用意してあげるから」
「え?……新しい人生って、死んだら天国か地獄に行くんじゃないんですか?」
「ハァ、人間ってまだそんな古臭い考えを持ってるの?ホント頭硬いしバカなんだねw
おっと!またバカにしちゃった☆
ごめーんね?
でも事実だから仕方ないよね!」
彼が当たり前のように、人を小馬鹿にする態度に言葉を失っているゆきみ。
そんな彼女を気にせずガイドは続けた。
「それで、質問の答えだけど……
正解は、”天国か地獄には行けない”だよ。
なんで?って顔してるね。理由は簡単!」
ガイドが近づいてきて、ゆきみの心臓がある部分を指でつついて呟いた。
「人間の魂は有限だから。」
ガイドは不気味なほどニッコリ笑い、つついた指に力を入れてゆきみを突き飛ばした。
それを面白そうに笑ったガイドは突き飛ばした反動で上へ上がり、説明を続けた。
「わざわざ”あの世”とかいうゴミ捨て場に持ってって、
また新しく魂を作るなんて面倒だし、今はリサイクルが当たり前の時代でしょ?
だから、魂の使い回しも当たり前。」
「そ、そんな」
ガイドのあまりの無情さに、
ゆきみは身体の芯から震えが止まらなくなった。
「だから君にも、新しい人生を歩んでもらう。
あ!でも安心して?新しい人生と言っても、一からじゃない。
君の場合、そこまで複雑な死に方をした訳じゃないから、怪我をした片目は変わっちゃうかもしれないけどほぼその姿で、その年齢でまた生きてもらうだけだから!」
別の何かにされるかもしれない恐怖に、
ゆきみは血の気が引くのを感じた。
「こういうの、君たちの世界では”転生”って言うんだっけ?」
急な問い掛けに困惑しながらも答えた。
「た、多分?そうですけど。でもこの場合は転移、なのかな?
…ってそうじゃなくて、それじゃあ記憶とかはどうなるんですか?
転生って言ったら記憶が残るイメージですが…」
「うーん、ちょっと難しい質問だな…。
その答えはね、”人それぞれ”って言っておこうかな。」
「人それぞれ?」
「うん、少し前までだったら記憶は残らないで転生するよ☆って自信満々に言えたんだけど、
何せ記憶がある状態で転生しちゃった人が出ちゃったからねぇ。」
ガイドは顎に指を当て、
悩む素振りを見せた後、元気に宣言した。
「まぁ僕が言える答えは、
2分の1の確率で記憶が残る状態で転生する!かな?
そろそろ良い?この空間に意識を持った状態の魂を呼んだのは初めてなんだ。あまり長く居させちゃうと、君がどうなるか分からないんだ」
その言葉にギョッとしたゆきみは、
床に座ってた状態から勢いよく立ち上がって大声を上げた。
「そ、そんな未知の場所に私は連れてこられてたんですか?
あ、待って!最後に一つだけ聞きたいことが…!」
「なに?なるべく手短に頼むよ」
「私は、どこに転生させられるんですか?」
「……あぁ、まだ言ってなかったね!ごめんね☆ 」
ガイドは、そう言ってゆきみに近づき、宥めるように頭をポンポン撫でてきた。
払う前にガイドが上に上がっていってしまったので、行き場を失った手を、膝の上に戻した。
「それで、君がこれから転生する場所は、
人間が存在しない国ーー”ラヴィーニア”だ。」
「ラヴィーニア…?」
「そうだよ!
うーん、君でも分かるように簡単に説明すると、
魔法と力が対立している国だよ!」
未だピンと来ていないゆきみを見て、ガイドは呆れたように肩をすくめた。
「まぁ、それだけじゃ分からないか。
低脳な人間である君に、一から説明するのは面倒だけど、
僕は優しいから、特別に解説してあげよう!
僕の寛大さに感謝してね☆」
(…感謝したくない。それに誰だって今の説明だけじゃ分からないよ……多分。)
「ラヴィーニアにはね、いくつかの島があるんだ」
ガイドは空中に指を走らせながら、その国の説明をし始めた。
「ドラゴンの島。妖精の島。獣人の島。
それから――
もう滅んじゃったけど、エルフの島」
ゆきみは”滅んだ”という言葉に息を呑んだ。
「それぞれの島は、
もともと別々だったんだけどさ」
ガイドは、にやりと笑う。
「僕が国を作るにあたり、
4つの島を中心にある島と“橋”で無理やり繋げて、一つの国にしたんだぁ!」
「……無理やり?」
「うん。まぁそのせいで変な交流が生まれて、結果は上手くいかず…
エルフは殆ど滅んじゃったんだけどねぇ。」
ガイドは、先程の楽しそうな表情を引っ込めて、
冷たい眼差しとワントーン下がった声を発しながら、そう呟いた。
その声は、怒りとは違う
——自分のものを奪った存在への苛立ちが滲んでいた。
だがそれを感じたのは一瞬で、すぐにガイドはいつもの調子に戻って説明を続けた。
「一部の種族同士は対立してるし、
生き方も価値観もバラバラ」
「それが、
君がこれから暮らす国――ラヴィーニアだよ」
彼は、急に甘い声で付け足した。
「ここは魔力の強さが全てだから、ゆきみのは僕がじっくり選んで、授けてあげるから安心してね!
ゆきみは僕のお気に入りだから、特別だよ♡」
「それは、ありがとうございます?」
「うんうん!やっぱり感謝されるっていいなー! それじゃあそろそろホントにヤバいからいってらっしゃい♪
新しい人生、せいぜい死なないように頑張ってねー!!」
その言葉を最後にゆきみは暗闇の中に落ちていった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
目を開けると、そこは見覚えのない板張りの天井が視界に入った。
「ここ……どこ?」
痛む目と全身の違和感に耐えながら起き上がり、 ゆきみは自分のいる場所を確認した。
どうやら誰かがゆきみをベッドまで運び、手当てをしてくれたらしい。
その証拠に、痛む右目に触ると、包帯のような布製のもので顔を覆われていたからだ。体も所々に包帯が巻かれている。
ゆきみが自分の容態を確認していた所で、部屋の扉がガチャっと開いた。
音がなった方を向くと、そこにはーー
青い肌に、瞳は水色だが白目が黒く染まった異形の目。
どこか神秘的さはあれど、とても人とは思えない姿にゆきみは咄嗟に悲鳴をあげた。
「っ!ギャアァァァ!!」
「!!!あ、ごめんなさい!怖がらせるつもりじゃなかったの。
ノックの一つでもかければ良かったわね。本当にごめんなさい!」
ゆきみの悲鳴を聞いて扉から離れた女性は、
申し訳なさそうにそう言った。
(あれ…良い、人?)
「あ、えっと。私こそごめんなさい。
失礼な態度を取っちゃって。」
「ううん、気にしないで?
この容姿の件で色々思われるのには慣れてるから。」
「ご、ごめんなさい。」
ゆきみの言葉に苦笑を浮かべた女性は、
少し重くなった空気を入れ替えるかのように、明るく具合の様子を聞いた。
「…それより、具合はどう?大丈夫?」
「あ、はい。手当てをしてくれてありがとうございます。」
ゆきみがベッドの上から頭を下げると、女性はニコリと微笑んで「どういたしまして。」と言った。
「えっと、つかぬ事をお聞きするんですが、ここはどこですか?」
ゆきみの唐突な質問に目を見開いた彼女は、
少し考えた後、答えた。
「……ここはマクシミア王国の森の中にある私のお家
。
アナタ、ウチの店の前で倒れていたからここまで運んできたの。」
それを聞いて、この人が助けてくれたと確信し、ゆきみは勢いよく頭を下げてお礼を言った。
「助けていただき、ありがとうございました。
本当に、なんとお礼を言ったらいいか…。」
「気にしないで?大したことはしてないから。」
「…お気遣いありがとうございます。分かりました。」
「……」
「……」
少しの沈黙後、ガイドから聞かされていない名称が出ていた事を思い出して、
「……あ、あの。そういえばさっき言ってたマクシミア?ってなんの事ですか?」
「あら、もしかして知らないの?
マクシミアって言うのはね……」
女性が教えてくれるという所で、ベルが鳴って中断した。
女性は一度、玄関の方を向いてから立ち上がった。
「ん?ベルが。少しだけ待っててくれるかしら?」
「分かりました。」
そしてゆきみに一言待つように行ってから、部屋を後にした。
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