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1章

9 来訪者達 2

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 その日もスティーナが「宿題」を持ってきて提出した。
「師匠。これが昨日造った珠紋石じゅもんせきです」
「ん? あ、ああ‥‥」
 生返事しながら確認に入るガイ。
 しかし最初の一個を手にし、ぼうっと眺め、ほとんど動きを見せない。心ここにあらずとはこの事だ。
 そんなガイにスティーナは戸惑い、恐る恐る訊いた。
「師匠? 何かあったんですか?」

 はっとガイは我を取り戻す。
「いやいや無い無い! 何も無いさ!」
 首をぶんぶん振りながらそう訴えた。明らかに焦りを見せながら。


――その日の夕食時――


 テーブルに向かい合って座り、唐揚げ定食をつつくガイとミオン。いつもと違い、互いに口数が少ない。それを察してイムが不安げに二人を交互に覗う。
 やがてミオンがやや無理に笑顔を作った。
「驚いたわねぇ、ガイ。私、結婚していて子供もいたのかも」
 ガイはしばらく黙々と唐揚げを咀嚼する。
 飲みこんでから一呼吸おき、ようやくぽつりと呟いた。
「まぁ‥‥ありえない事じゃないしな」

 貴族の結婚は大体家同士の都合で行われる。時に未成年同士で形式だけの「結婚」が行われる事さえある。
 おそらく二十歳前後であろうミオンが既婚者であっても、何の不思議もないのだ。

 また二人は黙々と食事を続けた。
 二人の間の空気が、どこか重たく淀んでいる。

 沈黙を破ったのは、またもミオンだった。
「じゃあ、これからどうする?」
「どうって‥‥手がかりがあったなら、それは‥‥」
 そこまで言って言葉を探すガイ。その目線が宙を泳ぐ。
 一体何を探しているのか‥‥本人にもわからない。
(何を迷う事がある? 何も無いだろ)
 頭の中では、そう自分に言い聞かせていた。


――翌日――


 道具屋に納品した後、ガイは再び寺院を訪問した。
 もちろん領主に会うためである。
 ケガが完治しても寝台でごろごろしていた領主は喜んでガイに会ってくれた。

 ガイは領主に礼儀正しく頭を下げる。
「領主様。先日聞いたミオン様の故郷‥‥どこか教えていただけませんか。できれば招待状など貰えれば‥‥」
「ふむ? ああ、別に構わんよ」
 多少戸惑いながらも快諾してくれる領主。
 しかし‥‥


 どやどやと部屋に駆け込んで来る、村長コエトールと数人の村人!
 太った体に汗をかきかき、村長がガイに訴える。
「た、大変です! 魔王軍が攻めてきましたぞ!」
「なんと! ここにまで?」
 仰天して領主は寝台から跳ね起きた。
 それを農夫のタゴサックが眉を寄せて睨みつける。
「そりゃ領主がここに逃げこんだらのう」

 言葉に「うっ」と詰まる領主。
 しかしそれも一瞬、すぐにガイへ声をかけた。
「村長によれば、お主は腕の立つ聖勇士パラディンなのだな? 先ほどの話の条件じゃ、魔王軍を迎え撃て!」
 そんな領主の肩をタゴサックが鷲掴みにする。
「こいつを差し出してみましょうか? 連中、帰るかもしれませんぞ」
「なんとー!」
 驚き慄き身を捩る領主。
 しかしガイがそれを止めた。
「いや、やるさ」


――村から出てすぐの平原――


 敵軍は遮蔽物の少ない平原を直進してきたので、村を出てすぐ目視で確認できた。
 ケイオス・ウォリアー数機と百人規模の歩兵。村一つに対しては多めの、しかし大軍とはとても呼べない規模の軍だ。
 特にケイオス・ウォリアーは‥‥
青銅級機ブロンズクラスばかり? 怪獣を連れてきて再三失敗している事、あの軍には伝わってないのか?)
 訝しむガイ。
 しかし現に敵は迫っているのだ。

 長距離砲撃機のBカノンピルバグは修理が終わったばかり。よってガイは、今日は接近戦用の爬虫人型機・Bクローリザードに乗っていた。
「イム、頼む!」
「うん!」
 ガイが声をかけるとイムが翅を輝かせる。花吹雪が吹き荒れ、機体はパンドラリザードへと変化した。
 性能の上がった格闘機で、ガイは敵機の中へ跳び込む!


 戦闘は一方的だった。ガイ機の爪が振るわれる度、敵機が次々と切断されてゆく。
 敵の数が倍いても、結果は全く変わらなかっただろう。
 しかし格闘機の性質上、敵機の真っただ中で戦う必要がでてくる。

 そしてガイが戦っている間に、敵の歩兵は村に辿り着いていた!

 武装した村人や敗残兵達が歩兵部隊を迎え撃つ。
 でかい武器を振り回すイアンやタゴサック、火球や電撃を飛ばすスティーナ等、雑兵を寄せ付けずに健闘する者もいるが、大勢としては決して分は良くない。

(クッ、ならば俺も!)
 ガイは機体を降りた。敵味方の乱戦になっている以上、巨大兵器で踏み潰すわけにもいかないのだ。

 だがガイが戦場に駆け込む直前、その前に立ち塞がる者が!
「ハハッ、かかったなガイ。まんまと生身で降りてきやがった」
「タリン!?」
 そう‥‥新たな武具に身を包んだタリンである。
 鎧は一新されて分厚い板金鎧になっており、脇には宝石のごとく眩く輝く兜を抱えていた。
 実に嬉しそうに彼は叫ぶ。
「復讐に来たぜぇ! 今度こそな!」
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