上 下
8 / 12
1章 日常と冒険者の少女

8話 空飛ぶ蜈蚣と冒険者の少女

しおりを挟む
「いや、マジでないでしょ、蜈蚣が空飛んでるとか!?というか身体の裏側こっちに向けて飛ばないで!!たくさん動いてる足が気持ち悪い!!」

  想像してみて欲しい。

  たくさんの足を持った50cm大の蜈蚣が足をうじゃうじゃと動かしながらこちらに迫ってくるのだ。その足にはたくさんの血がこびりついていて、しかも小さな虫がたくさん。それだけではなく、リズム的に足が開いたり閉じたりしている。
いや、もう動きという時点で私の精神は瀕死ですよ。普通そうだよね!?ね!?

  ……ちょっと吐き気が……いや、ちょっとレベルではない。ヤバイほどの吐き気。それも喉の上らへんまで来てる感覚がある。
  ああ、今吐いたら今朝飲んだ井戸水が無駄に!!……リューくんに肉を3食上げるので今日の金がなくなるから、何も食べてないんだった。
  そのためか少し口の中が酸っぱい。

 「リューくん、取りあえず氷のブレスで私が通った場所とその周辺を凍らして!!」
 「グるるぅ!!」

  リューくんは蜈蚣に向かってブレスを吐いたけど、私の足にも当たって結構ダメージが!
  セフィールはもう瀕死だ!!どうする?
  もちろん選択肢は逃げるだよ!!でも、回り込まれて逃げられない奴だよ!!

 「待って!私の足に少しだけ当たってる!!」

  リューくんがブレスを放つ場所を少し後方にした所で私はもう一度後ろを見る。
  そこには凍った地面など嘲笑うかのように、地面に足を深く刺し、滑らないようにしている蜈蚣の姿があった。
  って、なんで足があんなに強靭なの!!というか普通の蜈蚣と同じ土と同じ色なのになんでこんなに違うの!!

  そこから私は走って走って走った。
  ブロックやウォーター、ファイアなどを使って足止めしようとするけど、それらは全てダメージを与えるに至らない。
  リューくんのブレスはそもそも広範囲用の攻撃なので目隠しと同じ扱いを受けている。

  セフィール、考えなさい。

  状況は後ろから地味に距離を詰めているそこそこ足の速い蜈蚣。

  攻撃は全部ダメージを与えるには至っていない。

  毒キノコを投げても蜈蚣の身体に当たった瞬間なぜか溶けていく。

  攻撃手段、ゼロ。
  足止めは魔力の関係で無理。
  助太刀は周りに人気なし。
  毒になる薬草とかも見えない。

  あ、最後だけ字あま――

「って、絶望的じゃん!?」

  もう一度後ろを振り返る。
  そこには先ほど変わらないたくさんの後ろ脚が……って、え!?

 「ファイア!」
 「グるるぅ!!」

  真後ろにいた蜈蚣に向かってゼロ距離で魔法を撃った。リューくんも思いっきり炎のブレスを吐いている。

 「あ、香ばしい匂い――って、その足攻撃用なの!?」

  香ばしい匂いと言ったからなの!?食べ物の恨みは怖いの!?意味違うけど。
  それを口に出した瞬間凄い勢いで足が攻撃してきたから、私は後ろにジャンプで下がった。
  勿論鍛えているといっても女性の脚力だし、しかも無理な体制で後ろに飛んでいる。3m位飛んでから後ろ歩きで5mは幅を取る。
  でも――

「弱点発見!!」

  危険な思いはしたけど蜈蚣の弱点は見つけられた!!
しおりを挟む

処理中です...