つくもむすめは公務員-法律違反は見逃して-

halsan

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警察署長ご一行様

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 弾丸使用報告書を提出した翌日のこと。

 村役場の受付に熊爺さんがやってきた。
「おう、ゲンボク、小町ちゃん、お偉方が来る日が決まったぞ」
 どうやらお偉方は金曜日にやってくるとのこと。
 だからといって村役場が彼らの来訪に対して特段やることはなく、例年はせいぜい村長が挨拶をするくらいだ。
 但し今回は小町が人数分に見合った、茹でモツのカレー煮を用意することになっている。

「熊爺さん、人数はいつもどおりだよな」
「それがなあ、今回は署長が交換留学生を連れてくるそうだ」
 へえ。
「どこの国の人だい?」
「自由の国からだよと」
 自由の国からの留学生か。
 これまでの俺ならば気にも留めなかっただろうが、今は違う。
 特に「自由の国」に対しては。

 なぜならば、リザは自由の国を追放されたようなものだから。
 それに俺もアリスもあることを懸念していた。
 それは自由の国の軍隊がリザの落下地点を予測して、内密に調査に来るのではないかということだ。

 交換留学生が自由の国の出身だということは偶然かもしれない。
 しかし用心に越したことはない。
 なぜならば、警察や自由の国が俺たちにおかしな意味で興味を持ってしまった場合、アリスたちの身元はこの村で偽造した戸籍と住民票しかないので、例えばその前の住所などを裏から探られると、一発で公文書偽造がばれてしまう。
 だからとことん波風を立てずにやり過ごすのが唯一の正解なんだ。
 とりあえず墜落跡地の片づけだけは確認しておくとしよう。
「行くぞエミリア、リザ」

 ということで県警署長ご一行が訪れる日がやってきた。
 署長さんたちの出迎えは害獣駆除の依頼をしている手前、これまでは村長と熊爺さん、そして俺の三人で行うことになっていた。
 しかし今回は小町への依頼もあり、村長のわがままもあって、小町と千里を同行させる事になる。
 小町は熊爺さんとの約束通り、前日に猪茹でモツのカレー煮をたっぷりとこしらえ、村役場の台所でコトコトと温めている。
「それじゃあ千里、村長を迎えに行こう。アリス、エミリア、リザは引き続き役場の仕事を頼むぞ」
 良い返事と笑顔に見送られ、村長を迎えに行った俺と千里は、一旦役場に戻って小町と合流してから、名前だけ「天狗村駐在所」となっている熊爺さんの自宅を訪れた。

「はいお疲れさん」
「村長もお疲れさん、今日は車いすでの登場かい」
「押してくれる娘がおるからの」
 村長はアリス達が来てから公式の場ではもっぱら車いすを利用している。
 車いすを使いだすと、普通は衰えが心配になるのだが、非公式の場ではいまだにヒンズースクワットを千回はこなしているとまことしやかに囁かれている村長なので、老いぼれた振りをして千里に甘えているだけだろう。

 熊爺さんの家は元鍛冶場だったので、玄関を入るとただっ広ぴろい土間が広がっており、そこに形式上勤務机と会議テーブルが置かれている。
 土間をあがると客間には昔ながらの囲炉裏が備えてあり、今は猪肉が赤味噌でぐつぐつと煮込まれている。
 客間は署長達をお迎えする場なので、俺達はダム建設時代に作られた爺さんの台所で、モツカレー煮を温めながらお茶を楽しむことにした。

 しばらくすると派出所前の普段はほとんど使われない駐車場に自動車の影が映った。
「お越しのようじゃの」
 熊爺さんが立ちあがると同時に村長も千里に手招きをした。
「それではお出迎えとするかね」
 ちなみに小町は台所でお留守番となる。

 黒塗りのそれなりに偉そうな車に乗ってきたのは四人。
 運転席は比較的若い兄ちゃん。
 助手席は見るからに疲れている地域課長のおっさん。
 そして後部座席からは、重量級の柔道家を思わせる署長のおっさんと、金髪の若い娘が下りてきた。

 まずは型通り熊爺さんが着帽式の敬礼を行い、これも型通り署長達が敬礼で答える。
 続けて村長が車いすから立ち上がり、署長に対し歓迎の礼を行った。
「それでは官給品の補充を行う」
「よろしくお願いします」
 署長と熊爺さんのこのやりとりも様式美。
 この後熊爺さんは猪の頭から取り出した使用済みの弾丸を地域課長に渡し、その補充として新たな弾丸を受け取るのだ。
 この辺りのセレモニーは見ていても面白いものではなく、同席している義理もないので普段は村長と退散してしまうのだが、今日は小町がいるので、俺は台所に戻り、村長は千里が送っていった。
 弾丸の補充ついでにその他官給品の棚卸監査などを一通り行ったところで、署長が監査終了を宣言した。
 ここからは猪鍋を味わう会となる。

「それでは小町、頼む」
「わかったの」
 熊爺さんは署長達を囲炉裏に通すと、席を勧める。
 すると上座に署長となぜか金髪のねーちゃんが仲良く座り、左に地域課長、右に若い警官の配置となる。
 熊爺さんが下座に座ると、タイミングを見計らったように小町がモツのカレー煮を運んできた。
「おや、熊さんにこんなかわいらしいお孫さんがいたとは知らなかった」
 少し驚いたような署長に熊爺さんは残念そうに首を左右に振る。
「そうだと嬉しいのだが、この娘は村役場の職員じゃ。このカレー煮はこの小町ちゃんが役場の販売所で扱っている商品の一つじゃよ」
「おおそうか、それでは後ほど販売所にも寄らせてもらうとしよう」

 そうしているうちに金髪娘がスマホを取り出した。
「オジサマ、シャシントッテイイデスカ?」
 おじさま呼ばわりされた熊爺さんは反射的に頷いてしまう。
「構わんよ?」
 すると堰を切ったように金髪娘は囲炉裏やら猪鍋やらカレー煮やらの写真を撮り出した。
「署長、ところでこのお嬢さんは?」
 熊爺の質問に署長はややでれながら答えた。
「おお、この娘の父親と旧知でな、日本の大学に留学中なので時々こうやって面倒を見ているのだ」
 横で地域課長がため息をついているところを見ると、恐らく「時々」なのではないのであろう。
 すると自分の話だと気付いたマーガレットは、一旦スマホを降ろし、熊爺の方に笑みを向けた。
「マーガレットイイマス、ヨロシクデス」
 そのまま再びマーガレットとやらはスマホでの撮影に戻る。

 そろそろいいかな?
 この後、熊爺と署長と地域課長が猪鍋で一杯やるのも、運転手代わりに連れてこられた若手警察官がその世話をするのもいつものこと。
 それらに巻き込まれると面倒なので、俺は小町を連れてさっさと退散することにした。
「それじゃ熊爺さん、俺と小町はこれで失礼するぞ」
 しかし手遅れだった。

「ワタシオナカイッパイデス、ムラノシャシントリタイデス」
「そうか、ならばゲンボク達に案内してもらえ」
 余計なことを言うなよ熊爺。
 だいたいマーガレットとやらはほとんど箸をつけていないじゃないか。
 これが流行はやりのインスタばえという奴か。
「そうだな、ゲンボクさん、マーガレットをしばらくよろしく頼むよ」
 警察署長にこう言われてしまったら、断るわけにもいかない。

「わかりましたよ」
「ヨロシクオネガイデス」

 ということで、俺は金髪娘を村に案内する羽目になってしまった。
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