盗賊少女に仕込まれた俺らの使命は×××だぞ!

halsan

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こうして獲物は蜘蛛の巣に引っ掛かる

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 リスペルとフリーレは、リビングに足を踏み入れるまでは、これから開始されるであろう尋問により、この世の地獄を味わうのであろうと絶望していた。

 ところがそこで待つアージュたちからは、拍子抜けするほどあっさりとした出迎えを受けたのだ。
 
 二人が元の席で並んで正座をすると、まずはアージュが二人に笑いかけた。
「まあ、やっちゃったもんは仕方がねえな」
 クラウスも笑顔でそれに続く。
「そうだね。好き同士なら当たり前の行為だってツァーグのおっさんに習ったしさ」

 ここで一人リビングで食事に熱中していたナイが「え?なにをやっちゃったの?」とピント外れのボケをかましてきたが、それは他の連中から華麗にスルーされた。

「てことで、今日は遅いから解散とするか。リスペルとフリーレは一緒にいちゃあ不味いだろうから、それぞれ送っていくよ」
 いつの間にか、にーちゃんねーちゃんの敬称が取れて二人を呼び捨てしているアージュだが、リスペルとフリーレにとっては、そんなことよりもこの場から解放されるのがうれしかった。
 
「それじゃあリスペルはクラウスとフントにーちゃんに頼む。ついでにフントにーちゃんは風俗組合でツァーグのおっさんに、ボーデンに紹介するハイエナハウンドたちの面通しを済ませてくれるか?」
「わかった、アージュ」
 フントは突然命じられた使命に慌てて頷いた。

 面通しするハイエナハウンドというのは、ボーデン領主の元に送り込む子犬とその母犬、兄犬の三頭のことだ。
 彼らはボーデンに売られるのではなく、フント配下であるハイエナハウンドの群れから、ボーデンに派遣するという計画にしている。
 
「フリーレは俺とナイねーちゃん、ベルの三人で送って行くよ」
 この指示にナイもベルも反対する理由はない。
 どちらというとベルは面白そうな表情を浮かべながらちらちらとフリーレの様子を伺っている。
 
「それじゃあ戸締りして出かけるか」
 アージュの号令で、一行は二手に分かれて夜の町へと向かっていった。

 まずはリスペルご一行。
 先頭をクラウスとリスペルが並んで歩き、その後ろにフントとハイエナハウンド三頭がのんびりとついていく。

「よかったねリスペル」
 すでにクラウスもリスペルを呼び捨てだ。
「よかったって、なにがさ?」
 クラウスの真意がわからないので、リスペルはとりあえずしらを切ってみる。

 ここでフントが天然ボケをかました。
「なんだ、フリーレの具合は良くなかったのか?」
「そんなことないよ!」
 ここでむきになるのが、リスペルもまだまだガキなところだ。
 真っ赤に染まったリスペルの顔をにやにやと見つめながら、クラウスは続けた。

「でも、責任は取らなきゃね」

 がーん。
 
 そうだ。
 そうだった。
 僕はフリーレの純潔を奪ってしまった。

 僕の身分は彼女に釣り合わない。
 だから見つめるだけにしておくつもりだったのに。

 どうしてこうなった?
 フリーレが僕を誘ったから?
 違う!
 僕がフリーレを求めたんだ!
 どうしよう、どうしよう。
 
 などと頭の中がぐるぐる回っているリスペル。
 そこにフントが素朴な疑問を投げかけた。
 
「責任って、食わせるってことか?」
「そんなの当たり前じゃないか!」
 余りに無神経な言いぐさのフントにリスペルが文句を言うと、今度はクラウスがリスペルに突き付けた。
「なら、リスペルがフリーレを食わせればいいじゃない?」
「わかってるよ!」

 わかっている。
 わかっているさ。
 でもどうにもならないんだ。
 風俗組合の下働きにしか過ぎない僕が、どうやって富裕農家のお嬢様を満足いくように食べさせることができるんだ。
 そんなの無理。
 無理に決まっている。
 
 ここで三度みたびリスペルの葛藤は遮られた。
「無理だと考えているでしょ? 馬鹿じゃない?」
 クラウスから嘲笑が浴びせられる。
 さすがの失礼さにリスペルは声を荒げようとする。
 しかしそれはクラウスからの提案に遮られた。

「ボクたちに協力しなよ。そしたらリスペルはフリーレを迎え入れることができるようになると思うよ」
 続けてクラウスはいつもの天真爛漫な笑顔のまま、リスペルに計画と指示を提示したのだ。
 
 さてこちらはフリーレ一行。
 
 こちらはまずベルが銀色の瞳でにやにやと笑いながら口火を切る。
「フリーレっておとなしそうな眼鏡っ娘だと思っていたけど、実は積極的なんだね」
 当然のことながらフリーレは顔真っ赤だ。

「え?フリーレって何かしたの?」
 素朴なナイの疑問にアージュが答えてやる。
「ナイねーちゃんが野菜を一心不乱に食っている間に、フリーレはリスペルを食ったのさ」
「なんですって!」
 あまりにあけすけなアージュの物言いに、いよいよ縮こまるフリーレを尻目に、ナイは後ろからフリーレの両肩を掴んだ。
 
「ねえフリーレ、セックスしたの?」
 背後から強引に肩を揺さぶられて思わずフリーレはうなずいてしまう。
「なら、ややこのためにリスペルを食べなギャン!」
「黙れクソアマ!」

 ということで、ナイが己の正体をフリーレに暴露するかのような質問は、アージュの蹴りによってひとまず中断された。
 
 さて、フリーレも困った。
 フリーレはリスペルのことが大好きだ。

 それに初めての経験も恥かしかったけれど、痛いのは最初だけで、最後の方はちょっと気持ちよかったし。
 できればリスペルと一緒になりたい。
 でも両親からは、お相手はそれなりの身分を捕まえろ、自分の老後は自分でゲットだ、目指せ玉の輿と言われているし、フリーレ自身も貧乏暮らしなんかまっぴらごめんなのだ。
 
 なんで私ってリスペルに身体を開いちゃったのかしら。
 なんで私ってリスペルを好きになっちゃったのかしら。
 
 沈み込むフリーレ。
 ところがそんな彼女の悩みを打ち抜くかのようにアージュが問いかけた。
「役人なら貴族の次に良い相手じゃあねえのか?」

 それはそうだ。
 権力はそれを持つ者と持たない者の他に、利用する者がいるのだ。
 持つ者とは貴族。
 利用する者とは役人のことである。
 ここで重要なのは、貴族は世襲だが役人は雇用だということだ。
 
 さらにベルからフリーレに恐ろしい可能性が提示された。

「フリーレ、あなた妊娠していたらどうするの?」

 ああそうだった!
 まさか今日こんなことになるなんて思ってもいなかったから、月の計算も最中の用意も終わった後の準備も何もしていなかった。

 どうしよう、一発必中だったら。
 もしかしたら私、甲斐性なしのリスペルとこしらえた赤ちゃんとこれから極貧コースまっしぐらなの?

 自らの想像によって半ばパニックとなったフリーレに向けて、アージュがにやりと笑いかけた。
「なら仕立てるしかねえよな。リスペルを」
「何に?」
「リスペルを風俗組合の重鎮に仕立てればいいんだろ?」

 え?
「どうやって?」
「簡単さ。フリーレ、お前が俺たちに協力すればな。相方は立てるもんだぜ」

 続けて提示されたアージュからの具体的な提案に、フリーレは冷静さを取り戻し、光明を見出した。

 ということで、リスペルとフリーレを無事送ってきたアージュ、クラウス、ナイ、フント、ベルは、帰宅後のリビングでそれぞれの情報交換を済ませた。

 にやりと笑うアージュとクラウス。
 それを追うように楽しそうな表情になるベル。
 そうした三人の表情に寒気を覚えたフント。
 なぜかフリーレの栄養状態をいまだ気にし続けているナイ。
 
「明日の朝にはここに風俗組合の使者を派遣するってツァーグのおっさんが言っていたよ」
 クラウスからの最後の報告にアージュも情報をすり合わせた。
「おう、商人組合でキュールのおっさんも今回の件は大事おおごとになるから準備しとけって言ってたぜ」

 さあ、明日が楽しみだ。
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