『魔導書』に転生した俺と、君との日々。

風城国子智

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第四章 帝都の日々

4.41 サシャ、連れ去られる

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 それから二週間後。

「トール、表紙、大丈夫?」

 久しぶりに入った、サシャのエプロンのポケットにほっと息を吐いたトールを、サシャが見下ろして笑う。

[ああ]

「良かった」

 カレヴァの工房からグスタフ教授の館への帰り道は、春の明るさに満ちている。だが、頷いたトールに頷き返したサシャの頬は、トールにしか分からないほど微妙に、青みを帯びていた。

 カレヴァの工房で表紙を直してもらっていた二週間、サシャは毎日工房を訪れ、修理中のトールの横でカレヴァと、印刷機やインクや紙のことを楽しそうに話していた。しかし今のサシャの頬には、カレヴァと話していた時の明るさが見えない。カレヴァとの話が楽しいのであれば、トールの修理が終わった後も、グスタフ教授の手伝いの合間を見計らって工房を訪ねれば良いのに。トールの思いは、しかし嫌な形で裏切られた。

「試験結果の、通知、まだ来てないの」

 小さく震える、サシャの言葉に、トールの全身が固まる。試験があったのは、柔星祭やわぼしのまつりのすぐ後。今は、緋星祭あかほしのまつりの前。口頭試問の採点に三ヶ月もかかるだろうか?

「アラン師匠の、教授資格の結論も、出てないって、グスタフ教授、が」

 首を捻ったトールの耳に、サシャの、泣くのを堪えた声が響く。どうしたというのだろう。……まさか。グスタフ教授やアラン師匠が嘆いていた、出身国の異なる者同士の反目をトールが思い出した、丁度その時。

「サシャ、いたぞ!」

 聞き覚えのある声に、顔を上げる。

 人通りの途絶えた小路を塞ぐように立っていたのは、かつてのグスタフの弟子、ドゥシャンとダリオ!

[逃げろ、サシャ!]

 ただならぬ気配に、背表紙に文字を並べる。しかしサシャが踵を返した瞬間、トールの視界に映ったのは、一人と一冊の逃げ道を塞ぐ学生の集団!

「こいつが、サシャか?」

 つかつかとサシャの前に現れ、サシャの腕をしっかりと掴んだ大柄な影に、サシャの背後から現れたドゥシャンとダリオが同時に頷く。

「来い」

 強く腕を引かれ、痛みに顔をしかめたサシャを気遣う間もなく、一人と一冊は、小路から別の小路へと引き出されていた。
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