君が手に、我が手を重ねて

風城国子智

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逃避行 2

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 後から来たダリオも手伝って、殺された人々をできるだけ丁寧に急いで葬り、再び馬車に乗り込む。チコの怪我に響かないよう、それでも急いで馬車を走らせた為か、エリカが生まれ育った西の街まで辿り着くのにそこまで時間は掛からなかった。
 夜の帳が降りた頃、西の街を守る城壁に辿り着く。城門は既に閉じられた後だったが、幸い、城壁の門を守る警備隊員は、エリカの武術の師匠。何も聞かれることなくすぐに、エリカ達の乗った馬車は城門を潜り抜けることができた。
「街に何か、変わったことは?」
 門を通り過ぎる際、ダリオが師匠にそう尋ねる。
「いや。特に何も。……黒銀騎士団の団長が友人を連れて来て騒いでたくらいか」
 師匠の回答に、エリカの横にいたリトがほっと息を吐いた。
「ここはまだ、安全だな。……今のところは」
「油断大敵ですよ」
 リトの声が聞こえたのか、馬車の屋根で馬車を操るダリオの注意喚起が戻ってくる。しかしながら。
〈ここは、お母様の街。お母様がいる限り、何も悪いことは起こりっこない〉
 普段の葛藤を忘れ、重要な場面では常に正しく辣腕を振るっていた母を思い出す。その街に、戻ってきた。リトの横で、エリカも安堵の息を吐いた。
 だが。

 シーリュス伯の屋敷の門前で、異変に気付く。
「蔓薔薇が!」
 馬車から門を見上げたエリカの口から出たのは、悲鳴だった。
 学者であった父がこの街を差配する伯である母に贈った、屋敷を守るように壁を伝っていたはずの薔薇が、すべて無惨に枯れてしまっている。
「根本が、切られているな」
 護衛についていた馬車の屋根から身軽に地面に降り立った『軽業師』パキトが、門脇の花壇に鋭い目を向けた。
「こんなことをする人がいるなんて」
 震えるチコの声を背に、無言のリトに続いて馬車を降りる。屋敷に入った瞬間、エリカは我が目を疑った。
「こ、れ……」
 母が綺麗に整えていた中庭も、部屋も、嵐が通り過ぎた後のようにすっかり荒らされている。そして。部屋の奥に見えた、小さな影に、エリカは足を震わせながら近づいた。
「エリカっ! 行っちゃダメだっ!」
 いつになく強く、エリカの腕を掴むリトの手を、強引に振り解く。そしてエリカは、家令ダリオが抱き起こした、物言わぬ母のそばに、そっと膝をついた。
「どう、して……」
 床に広がった暗い染みに、絶句する。母は、……殺された。でも、誰に? そこまで考えたエリカの身体は、しかし小さな手によって母から引き剥がされた。
「きゃっ!」
「ここも、危険だ」
 冷静なリトの声に、手足をばたつかせて抵抗する。
「逃げるよ」
「いやっ!」
 母を追いて、逃げるわけにはいかない。エリカを抱き上げたリトの身体をところ構わず叩く。しかしエリカの渾身の抵抗に、リトはびくともしなかった。
「リト殿」
 そのエリカの耳に、ダリオの、冷静な声が響く。
「ここは私が何とかします。リト殿は、……エリカお嬢様を頼みます」
「いやっ! 放してっ!」
 『黒銀騎士団』なら、この街の抜け道を知っているはずです。ダリオの言葉に頷いたリトを感じ、がむしゃらに抵抗する。しかし次の瞬間、甘い匂いが鼻をくすぐると同時に、エリカの意識は急速に、暗い方へと落ちて、いった。
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