4 / 6
Amethyst 4
しおりを挟む
静かな寝息が、耳を打つ。
ヴィクターのベッドに寝かされた、マリーの安らかな息が、ヴィクターの心を優しく撫でた。
「おそらく、過度の緊張で気を失ったのでしょう」
ヴィクターの叫びで執事が呼んだ村の医者は、そう、言っていた。毒を飲んだ気配は、無いと。そう。『アメシスト』を飲んだのに、マリーは死ななかった。『試練』を超えたのだ。
「旦那様」
何時に無く憔悴しきったヘンリーが、二つの包みを持って現れる。
「マリーの部屋から、これが」
包みの一つ、細長い形の物を、まずヘンリーはヴィクターに手渡した。
包みの中身は見なくても分かる。トレヴァーがマリーに押し付けた、毒の入った小瓶だろう。ご丁寧に、包みにタグがついている。
「これは毒です。トレヴァー様から手渡されました」
日付と共にそう書かれた、美しい文字に、目を細める。マリーは、ヴィクターを裏切ったわけではなかったのだ。トレヴァーがマリー以外の人間にヴィクター暗殺を示唆することを危惧し、首を横に振りながらもトレヴァーに同意した振りをして、毒が他の人の手に渡らないよう、必死で小瓶を握っていたのだ。疑って悪かった。心の中で、ヴィクターはマリーに謝った。
そして。
「こちらを」
ヘンリーがヴィクターに手渡した、もう一つの包みは、小さな紙製の箱。その箱の中には、ヴィクターの思い出を刺激する物が入っていた。
「これは」
「申し訳ありません」
驚愕するヴィクターの耳に、ヘンリーの沈んだ声が響く。
箱の中に入っていたのは、ヴィクターが昔、あの浅黒い肌の少女に手渡した、母の形見のロケット。屋敷の玄関前に捨てられていた赤ん坊が持っていた物を、ヴィクターより先に赤ん坊を見つけたヘンリーが拾い、隠したものだという。
そう、すると。更なる驚愕が、ヴィクターを襲う。マリーは、俺の、娘なのか?
「本当に、申し訳ないことをしました」
再びヴィクターに向かって頭を下げるヘンリーの声が、ヴィクターの思考を裏付ける。
「そうか」
ヴィクターはヘンリーに、その一言しか言えなかった。
次の朝。
「おはよう、マリー」
メイド服のまま、おずおずと朝食後のお茶を運んで来たマリーに、ヴィクターは優しく声を掛けた。
「今日、トレヴァーが来たよ」
トレヴァーという名前に、びくっと身を震わせるマリー。その反応を面白がりながらも、ヴィクターは優しく更に付け加えた。
「もう来ないがね」
朝早く屋敷に現れたトレヴァーを、ヴィクターはヘンリーに言いつけて朝食の席に誘った。そして出す料理全てに『アメシスト』を入れるよう、ヘンリーに指示した。もちろんトレヴァーは何も考えずに朝食を食べ、『試練』を乗り越えることは無かった。
自業自得だ。トレヴァーの死に顔を思い出し、顔を顰める。
あいつのことはとっとと忘れて、今はマリーのことに集中しよう。自分の嫁探しは終わりだ。『試練』を乗り越えることができる誠実な男を、マリーの為に見つけよう。
まだおどおどと自分を見つめるマリーに、ヴィクターは、今度は父親のように優しく笑いかけた。
ヴィクターのベッドに寝かされた、マリーの安らかな息が、ヴィクターの心を優しく撫でた。
「おそらく、過度の緊張で気を失ったのでしょう」
ヴィクターの叫びで執事が呼んだ村の医者は、そう、言っていた。毒を飲んだ気配は、無いと。そう。『アメシスト』を飲んだのに、マリーは死ななかった。『試練』を超えたのだ。
「旦那様」
何時に無く憔悴しきったヘンリーが、二つの包みを持って現れる。
「マリーの部屋から、これが」
包みの一つ、細長い形の物を、まずヘンリーはヴィクターに手渡した。
包みの中身は見なくても分かる。トレヴァーがマリーに押し付けた、毒の入った小瓶だろう。ご丁寧に、包みにタグがついている。
「これは毒です。トレヴァー様から手渡されました」
日付と共にそう書かれた、美しい文字に、目を細める。マリーは、ヴィクターを裏切ったわけではなかったのだ。トレヴァーがマリー以外の人間にヴィクター暗殺を示唆することを危惧し、首を横に振りながらもトレヴァーに同意した振りをして、毒が他の人の手に渡らないよう、必死で小瓶を握っていたのだ。疑って悪かった。心の中で、ヴィクターはマリーに謝った。
そして。
「こちらを」
ヘンリーがヴィクターに手渡した、もう一つの包みは、小さな紙製の箱。その箱の中には、ヴィクターの思い出を刺激する物が入っていた。
「これは」
「申し訳ありません」
驚愕するヴィクターの耳に、ヘンリーの沈んだ声が響く。
箱の中に入っていたのは、ヴィクターが昔、あの浅黒い肌の少女に手渡した、母の形見のロケット。屋敷の玄関前に捨てられていた赤ん坊が持っていた物を、ヴィクターより先に赤ん坊を見つけたヘンリーが拾い、隠したものだという。
そう、すると。更なる驚愕が、ヴィクターを襲う。マリーは、俺の、娘なのか?
「本当に、申し訳ないことをしました」
再びヴィクターに向かって頭を下げるヘンリーの声が、ヴィクターの思考を裏付ける。
「そうか」
ヴィクターはヘンリーに、その一言しか言えなかった。
次の朝。
「おはよう、マリー」
メイド服のまま、おずおずと朝食後のお茶を運んで来たマリーに、ヴィクターは優しく声を掛けた。
「今日、トレヴァーが来たよ」
トレヴァーという名前に、びくっと身を震わせるマリー。その反応を面白がりながらも、ヴィクターは優しく更に付け加えた。
「もう来ないがね」
朝早く屋敷に現れたトレヴァーを、ヴィクターはヘンリーに言いつけて朝食の席に誘った。そして出す料理全てに『アメシスト』を入れるよう、ヘンリーに指示した。もちろんトレヴァーは何も考えずに朝食を食べ、『試練』を乗り越えることは無かった。
自業自得だ。トレヴァーの死に顔を思い出し、顔を顰める。
あいつのことはとっとと忘れて、今はマリーのことに集中しよう。自分の嫁探しは終わりだ。『試練』を乗り越えることができる誠実な男を、マリーの為に見つけよう。
まだおどおどと自分を見つめるマリーに、ヴィクターは、今度は父親のように優しく笑いかけた。
0
あなたにおすすめの小説
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
私たちの離婚幸福論
桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。
しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。
彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。
信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。
だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。
それは救済か、あるいは——
真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
豪華客船での結婚式一時間前、婚約者が金目当てだと知った令嬢は
常野夏子
恋愛
豪華客船≪オーシャン・グレイス≫での結婚式を控えたセレーナ。
彼女が気分転換に船内を散歩していると、ガラス張りの回廊に二つの影が揺れているのが見えた。
そこには、婚約者ベリッシマと赤いドレスの女がキスする姿。
そして、ベリッシマの目的が自分の資産であることを知る。
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる