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夜の影を

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 窓を閉めろ、奴が来る。
 扉を閉めろ、奴が来る。

 警告の声と共に、空が一瞬で暗くなる。
 空を見上げ、カイは唇を噛みしめた。
 十年以上も昔、警告を無視したカイが窓を閉め忘れた所為で、幼かった妹は行方不明になった。その妹の無念を晴らす。想いは、ただそれだけ。

 漆黒に染まった空から、生温かい風が下りてくる。
 ……奴が、来る。小さく頷き、カイは腰の銀剣を抜いた。普通の剣では斬ることが叶わぬモノも両断することができるというこの剣なら、きっと。
 視界を覆った闇に、銀の刃を叩き込む。
 手応え、は。

 一息で晴れた視界に映るのは、地面に散らばった漆黒の羽根。
 退治、できたのか? 不意の風に舞い上がる羽根の黒さに、カイは首を横に振った。
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