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彼が死んだ

無邪気な子供時代

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 教会の庭で5歳ばかりの小さな男の子と女の子が駆け回っていた。きゃっきゃっと無邪気な笑い声が響き渡る。男の子のほうが少しばかり小さかった。
 黒い服をきた神父がその様子をニコニコとした表情で見守っていた。

「まってよー」

 男の子が小さい足を必死に動かして女の子を追いかける。

「グスタフ、はやく。男の子でしょ」

 女の子が振り返って声をかける。

「あっ!」

 男の子の足がもつれてしまう。男の子は手をつくのを失敗し、頭から地面に突っ込む。男の子はしばらく地面に突っ伏したままだった。むくりと起き上がった男の子はくしゃくしゃに顔を歪める。目から涙がぽろぽろと溢れて、大声で泣きわめく。

「なんで男の子が泣いているの。もっと強くならなくちゃ」

 女の子が駆け戻ってきて、腰に手を当てて男の子を叱咤する。

「つよくなんてならなくていいよ」

 大声で泣きわめきながら男の子は言い返す。顔は土で汚れて、涙は止めどめなくこぼれ落ちていた。

「なんで、強くならなくていいの。私の騎士になるって言ってくれてたじゃない。私の騎士になって私を護ってくれるんでしょ」

 女の子は男の子の近くにしゃがみ込み、顔を覗き込む。

「ね」

 女の子は小首をかしげながら、優しく問いかける。

「それとも、私が困っている時に守ってくれないの」

 男の子はぐしぐしと目をこすって、涙をふく。女の子のほうを見るとゆっくりと首を横にふる。

「クリスティーナは、ぼ、ぼくがまもる。ぼくがクリスティーナの騎士になるから」

 男の子の声は震えていたが、強い意志が込められていた。

 うん。うん。と神父が頷いていた。
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