呟くのは宣伝だけじゃありません!~仕事も恋もTwitterで!?~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

文字の大きさ
10 / 42
第2章 味方ができれば頑張れる

4.2度目だけど初めてのお宅訪問

しおりを挟む
週末の土曜日は、滝島さんに呼びだされた。
宿題の提出と、ダイエットに効果的な運動を教えてやる、……だ、そうだ。

「伊深ー」

指定された駅を出ると、すぐに私を見つけた滝島さんが手を振っていた。

「こんにちは」

「おうっ、こっちだ」

さっさと歩きだした滝島さんを追う。
ジーンズにカットソー、ダウンジャケットを羽織った彼は、なんだか少し幼く見えた。
あれかな?
眼鏡が黒縁ウェリントンで違うから?

「ここ」

見上げた五階建てのマンションは、私の住んでいるマンションよりも少し立派だった。
しかもオートロック集中玄関付き。
ちょっとうらやましい。
が、一度来たのに全く覚えていなかったけど。

「散らかってるけど」

そういうわりに四階角の彼の部屋は綺麗に片付いていた。

「おじゃましまーす」

よく考えたら男性の部屋に上がるのは初めてだ。
嘘です、あの日に来ました。
でもあれはノーカンでいい!
ノーカンでいいの!! 
それに、初彼である英人は私の部屋に来ても、自分の部屋には絶対連れていかなかった。

「適当に座ってて」

「はい」

黒の、たぶんフェイクレザーのソファーに腰掛ける。
すぐ前はガラステーブルにテレビ。
テレビの右側にスライド式の大型本棚が一台、置いてあるのが意外な感じ。
中にもびっしり本が詰まっているみたいだし。
左手のふすまを開けた奥は寝室だったなー、と。

「ほい」

すぐにコーヒーを出してくれた。

「ありがとうございます。
あ、これ、よかったら」

「ダイエット中にケーキとかいい度胸してんな、おい」

持ってきた袋の中身を覗いた滝島さんが、右頬だけを歪めて意地悪く笑う。
その顔に唇を尖らせて抗議した。

「チェーン店のですけど、糖質オフのケーキを買ってきました!」

「上等」

小さく鼻歌を歌いながらキッチンへ行った滝島さんが、お皿とフォークを持って戻ってくる。

「じゃあ、遠慮なく」

お皿の上にケーキをのせてもらい、食べる。
糖質オフとか美味しくなかったらどうしようってドキドキだったけど、普通のケーキと遜色ないくらい美味しい。

「ちなみにこのコーヒーさー」

ずっ、と一口啜ったコーヒーのカップを、少しだけ高く滝島さんは持ち上げた。

「ダイエットに効果があるクロロゲン酸を多く含んだ、弊社の商品なんだけど。
お味はいかがですか」

手に持ったカップの中身をまじまじと見つめる。
普通のコーヒーとどこに違いがあるのかわからない。
しいていえば。

「美味しいコーヒーです」

「そうだろう、そうだろう」

満足げに滝島さんが頷く。

……ん?
ちょっと待って。
これって……。

「もしかして、買えってことですか?」

「いや?
俺はただ、ダイエットの効果のある、美味しいコーヒーを紹介しただけ」

なんでもない顔で彼はコーヒーを飲んでいるけど、ね。

「買いますよ、普通に。
だって美味しいし、それにダイエット効果もあるんだったら」

「お買い上げ、ありがとうございます!」

ハイテンションに滝島さんが私の両手を握ってくる。
現金だなー、とは思う。
でもどこか憎めないのはなんでだろ?

普通に買おうと思ったのに、社販で買ってきてやるからちょっと待ってろって言われた。
いいのかな、それ?

お茶が済んだあとは書いてきたレポートを提出する。

「よろしくお願いします」

「ん」

滝島さんがレポートを読むのを、緊張して見ていた。
お客様相談室に言うほどでもない、ちょっとした意見や疑問を受け付けたい。
製品マニュアルには載っていない、便利な使い方やなんかを紹介したい。
ホームページに載っている堅苦しい会社概要じゃなく、私という人間を通して、もっと身近にカイザージムという会社を知ってほしい。
そんなことをまとめてきた。

「八十点。
ギリギリ合格」

合格がもらえてほっとはしたものの。

「それってちょっと、厳しくないですか!?」

「あたまの硬い上層部を納得させなきゃいけないんだ。
これくらい普通だろ?
むしろ、甘いくらいだ!」

容赦なく滝島さんがデコピンを食らわしてくる。

「……いったー」

それはそうだけど。
滝島さんのデコピンは涙が出るくらい痛いから、やめてほしい……。

滝島さんが言う修正点を赤ボールペンで書き込んでいく。

「これができたら次は……」

本棚の前に立った滝島さんは、ぽいぽいテーブルの上に本を積んでいく。

「これと、これと、これと……こんだけ読んでさらに分析、それによってどういう効果が生まれるのかレポート」

「ううっ……」

ちょっと待って、本だけで十冊くらいない?
それを全部読めと?

「簡単だろ、これくらい」

「……ハイ、ソウデスネ」

滝島さんは涼しい顔をしているが、彼にとってこれくらい朝飯前なんだろうか。
恐ろしい。

借りた本を滝島さんがくれた紙袋に詰める。
このもらった本屋の紙袋、最初から二枚重ねになっているんだけど……もしかして、常日頃からこれくらい本を買っているの!?
恐るべし、滝島さん。

「んー、じゃあそろそろ腹もいいだろうし、次は筋トレな」

さっきからずっと気になっていたけど、滝島さんは……かなりの筋肉質だった。
うん、マッチョ基準からいくところの細マッチョまではないが、一般人基準でいうところの細マッチョよりは筋肉が付いている。

「鍛えているんですか?」

「んー?
ジムとか行く暇も金もないから、自宅トレーニングだけだけど」

きっと、あのTシャツを脱げば確実に腹筋はシックスパックに割れているだろう。

お勧めだって一日十分程度の筋トレを教えてくれた。
簡単、だけどこれだけですでに太ももがぷるぷるしている。

「毎日続けろよ。
絶対、効果が出るから」

「は、はい……」

十分なら続けられる……かな。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

数合わせから始まる俺様の独占欲

日矩 凛太郎
恋愛
アラサーで仕事一筋、恋愛経験ほぼゼロの浅見結(あさみゆい)。 見た目は地味で控えめ、社内では「婚期遅れのお局」と陰口を叩かれながらも、仕事だけは誰にも負けないと自負していた。 そんな彼女が、ある日突然「合コンに来てよ!」と同僚の女性たちに誘われる。 正直乗り気ではなかったが、数合わせのためと割り切って参加することに。 しかし、その場で出会ったのは、俺様気質で圧倒的な存在感を放つイケメン男性。 彼は浅見をただの数合わせとしてではなく、特別な存在として猛烈にアプローチしてくる。 仕事と恋愛、どちらも慣れていない彼女が、戸惑いながらも少しずつ心を開いていく様子を描いた、アラサー女子のリアルな恋愛模様と成長の物語。

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される

中山紡希
恋愛
父の再婚後、絶世の美女と名高きアイリーンは意地悪な継母と義妹に虐げられる日々を送っていた。 実は、彼女の目元にはある事件をキッカケに痛々しい傷ができてしまった。 それ以来「傷モノ」として扱われ、屋敷に軟禁されて過ごしてきた。 ある日、ひょんなことから仮面舞踏会に参加することに。 目元の傷を隠して参加するアイリーンだが、義妹のソニアによって仮面が剥がされてしまう。 すると、なぜか冷徹辺境伯と呼ばれているエドガーが跪まずき、アイリーンに「結婚してください」と求婚する。 抜群の容姿の良さで社交界で人気のあるエドガーだが、実はある重要な秘密を抱えていて……? 傷モノになったアイリーンが冷徹辺境伯のエドガーに たっぷり愛され甘やかされるお話。 このお話は書き終えていますので、最後までお楽しみ頂けます。 修正をしながら順次更新していきます。 また、この作品は全年齢ですが、私の他の作品はRシーンありのものがあります。 もし御覧頂けた際にはご注意ください。 ※注意※他サイトにも別名義で投稿しています。

婚約者に裏切られたその日、出逢った人は。

紬 祥子(まつやちかこ)
恋愛
……一夜限りの思い出、のはずだった。 婚約者と思っていた相手に裏切られた朝海。 傷心状態で京都の町をさまよっていた時、ひょんな事から身なりの良いイケメン・聡志と知り合った。 靴をダメにしたお詫び、と言われて服までプレゼントされ、挙句に今日一日付き合ってほしいと言われる。 乞われるままに聡志と行動を共にした朝海は、流れで彼と一夜を過ごしてしまう。 大阪に戻った朝海は数か月後、もう会うことはないと思っていた聡志と、仕事で再会する── 【表紙作成:canva】

叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家 結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。 愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。

君に何度でも恋をする

明日葉
恋愛
いろいろ訳ありの花音は、大好きな彼から別れを告げられる。別れを告げられた後でわかった現実に、花音は非常識とは思いつつ、かつて一度だけあったことのある翔に依頼をした。 「仕事の依頼です。個人的な依頼を受けるのかは分かりませんが、婚約者を演じてくれませんか」 「ふりなんて言わず、本当に婚約してもいいけど?」 そう答えた翔の真意が分からないまま、婚約者の演技が始まる。騙す相手は、花音の家族。期間は、残り少ない時間を生きている花音の祖父が生きている間。

溺愛のフリから2年後は。

橘しづき
恋愛
 岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。    そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。    でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?

処理中です...