極秘蜜愛結婚~俺様御曹司のトップシークレットは私!?~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第7章 嵐

7.あと少し、頑張れば

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「翠。
今日も食事に付き合えって言っただろ」

とぼとぼと地下通路を歩いていたら、國方マネージャーに後ろから肩を叩かれた。

「……」

無言で振り返った私の顔を見て、彼はなぜか笑っている。

「ひっでー顔してんな。
そういうときは肉食って元気出すんだよ!」

今日もまた、強引に腕を掴んで歩いていく。

「離して」

食欲なんてない。
それに今日こそは早く帰って、ゆっくり紘太朗さんと話したい。
それじゃなくても時差であまり話せないのに。

「ダメだ。
そんな翠、放っておけるわけがないだろ」

いつもと違い軽さのない声に、つい顔を上げる。
彼は見たことがないほど、真面目な顔をしていた。

今日もつれてこられたのは、いつものビアバーだった。

「ピルスナーとジンジャーエール。
シェフのサラダと、……Tボーンステーキ。
以上で」

今日は珍しく、メニューを見て國方マネージャーは注文をした。

「携帯、貸せ」

「えっ」

貸せと言われてはいそうですか、と貸せるものでもない。

「いいから貸せ」

「えっ、やめてください!」

身を乗り出してきた彼が、私のバッグを掴んでいく。
止める私を無視してバッグを漁り、その中から携帯を取りだした。

「ロック、解除しろ」

「……」

「いいから、しろ。
しないのならキスするぞ」

彼は本気なようで、渋々携帯のロックを解除した。
少し携帯を操作し、國方マネージャーがそれを耳に当てる。
私の携帯を使って、いったい誰に電話を?

「お前、お前のせいで翠がどんな目に遭ってんのか理解してんのか?」

國方マネージャーの声はどこまでも低い。
いつもの軽い彼とは全く違う。
相手は……紘太朗さん?

「無理矢理売り場に異動させられて、しかも仕事を誰からも教えられないで。
いま、翠がどんな思いしてるか知ってんのか」

まさか、彼がいまの私を、知っているなんて思わなかった。
彼の手が運ばれてきたビールのグラスを掴み、ごくりと一口飲む。

「ああ。
全部、お前のせいだ。
お前の。
どうするんだ?
このまま放っておくのか?」

ただ、なにも言わずに話を聞いていた。
私が口を出せる、雰囲気ではない。

「さっさとどうにかしろ。
じゃないとオレが……本気で翠を奪う」

すーぅっと切れそうなほど、國方マネージャーの目が細くなった。
それほどまでに彼は、怒っている。

「翠。
代われってさ」

一瞬前までとは違い、彼はいつもどおり軽い調子で私に携帯を渡してきた。

『翠?』

携帯を耳に当てると同時に、紘太朗さんの声が聞こえてくる。

「はい」

『不当に異動させられたそうだな。
そういうときはすぐに連絡してこい』

彼の言うことはもっともだ。
でも。

「その。
お昼休み、なかったので」

シフトがわからなかったし、誰も教えてくれなかった。
訊く努力をしなかったわけじゃない。
でも、そうこうしているうちに時間はなくなっていた。

『……はぁーっ。
すまない』

「紘太朗さんがあやまることじゃないので」

大本の原因が彼でも、実際にやっているのは音成さんだ。
それにこれは、紘太朗さんの意思じゃない。

『すぐに本部から、勧告入れるように手配する。
明日から、俺が帰るまで休んでろ』

「大丈夫ですよ。
これくらいで私、へこたれたりしないので」

『しかし』

彼の心配はわかる。
けれど。

「負けたりしたくないんです、こんなことで。
だからギリギリまで頑張らせて」

はぁーっ、とまた、電話の向こうでため息の音がした。

『頑張りすぎるなよ。
無理ならすぐに連絡してこい』

「はい」

國方マネージャーはさっきからひとり、黙々とサラダを食べながらビールを飲んでいる。
私たちの話を邪魔する気はないらしい。

『昨日、父に婚約解消の話をした』

「それで」

少しだけ、期待が首をもたげる。

『帰ってきて、もう一度きちんと話をしろ、だそうだ。
……翠も交えて』

「それって……」

『ああ、たぶん大丈夫だと思う。
だから期待して待っていてくれ。
あと、今日の商談が上手くいけば、明日の飛行機には乗れる。
時差があるから、明明後日には日本に着くはずだ』

「わかりました」

最悪な状況だけど、光は見えた。
だからきっと、大丈夫。

『もう少しだけ待っていてくれ。
……すまない、もうホテルを出ないといけない時間なんだ。
……翠、愛してる』

「私も紘太朗さんを愛しています」

リップ音を聞いて電話を切る。

「お熱いねー。
でも、そんな翠を俺は奪うんだけど」

「……奪われたりしません」

國方マネージャーの前だとようやく思い出し、ジンジャーエールを飲んで熱い顔を誤魔化した。

「ま、いいや。
ほら、肉来たぞ、肉。
食おうぜ!
元気出るし!」

「はぁ……」

渡されたフォークを苦笑いで受け取る。
彼は悪い人じゃない。
今日も私を思って紘太朗さんに忠告してくれたし、本気で肉を食べたら元気が出ると思っているのだろう。

「國方マネージャーって本当はいい人なんですね」

「いまごろ気付いたのか?
いや、本当はってなんか引っかかるな。
ま、いいけど!」

もりもりと肉を食べる彼につられて、私も少し、食欲が出てきた。
それに彼の言うとおり、食べないと元気でないもんね。

「いただきます」

「食え、食え」

あとちょっとだけ、頑張ればいい。
それくらい、きっと平気だと思っていたんだけど――。
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