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最終章 面倒、だけどいい
11.私らしい私を愛してくれる人
翌日、会社でコーヒーを淹れていたら、小長井さんが寄ってきた。
「もう身体、大丈夫?」
「あ、……平気、です」
真剣に心配してくれる彼女に、言えない。
本当はただのずる休みで、だらだら未消化のBLまんがを読んでいました、などと。
「じゃあ今日、食事に行かない?
もちろん、侑抜きで」
「えー、っと」
後方にある課長席をちらり。
侑もこちらを気にしていたみたいで、すぐにやってきた。
「残念だが麻里恵は今日、用があるんだ」
ぐいっ、と侑が私を小長井さんから引き離す。
「どうせ侑と一緒に過ごす、とかでしょ?」
当たりなだけになにも言えない。
「当たり前だろ。
今日の晩ごはんは麻里恵の好きなチキンのトマト煮だし、お取り寄せした、麻里恵が食べたいと言っていたチーズケーキもある」
侑は私が、食べ物で釣られると思っているんだろうか。
でも、侑のトマトチキン煮込みは美味しいんだよねー。
あれ、大好き。
それにあのチーズケーキ、お取り寄せしてくれたんだ!
嬉しすぎる。
「あと、今日は麻里恵が楽しみにしていたあれの発売日だからな。
帰りに買って帰らないと」
あれ、とは?
少し考えて思いだした。
前期に私がハマって観ていた、近未来SFの、警察ものアニメのBlu-rayの発売日なのだ!
このところのゴタゴタで忘れていたけど。
「そういうわけなので、すみません」
小長井さんには悪いが、そもそも彼女とふたりで食事に行ったってなにを話していいのかわからない。
私の女子の会話なんて無理なのだ。
「ええーっ、私だって麻里恵ちゃんを可愛がりたいのにー。
侑の独り占め、ズルいー」
伸びてきた彼女の手が、ぱっと侑から私を奪う。
「私、麻里恵ちゃんのような子が好みなの。
こういう、女らしさのかけらもない子を美しく磨き上げるのに喜びを感じるっていうか」
ひとり悶えている彼女には申し訳ないが、そっとその腕を抜け出した。
「好意を持っていただけるのは嬉しいんですが。
私は化粧も、女性らしい格好も苦手なんです。
だから、小長井さんの期待には応えられません。
ごめんなさい」
「似合わないと思っているなら、気にすることはないのよ?
そんなの、どうとでも……」
フォローしようとしてくれる彼女へ、首を振る。
「たとえ似合ったとしても、苦痛なんです、そういうのが。
でも侑は、化粧をしなくても、スカートを穿かなくても、私は可愛い、って言ってくれたから」
一歩、小長井さんから離れ、侑を見上げる。
レンズ越しに目のあった侑は、優しく微笑んで頷いてくれた。
「そう。
なら仕方ない。
でもその男、いろいろ面倒くさいけど、大丈夫?」
「あー、そのへんはもう、覚悟したんで大丈夫です……」
意味深に笑う彼女に、ヘラヘラと笑って返す。
侑の素敵なところから面倒くさいところを引いても、優にあまりあるから大丈夫……だと思いたい。
席に戻ってきたら、今度は熊田さんが寄ってきた。
「香坂。
……モテ期か?」
妙に真剣な顔をしていう彼がおかしくて、つい吹きだしていた。
「なんですか、モテ期って!」
でもそうかもしれない。
ゆるゆるひとりで生きていくんだと思っていた私が、私をわかってくれる人に出会って結婚を決めたんだから。
「いやー、香坂を巡って美男美女の言い争いとか、珍しいもん見たな、と思って」
「あー……」
しきりに熊田さんは首を捻っているが、私と侑が結婚すると知ったらどうするんだろう。
案外、驚かないかもね。
なにかとからかってきたし。
……あ。
私のあの日の過ちからはじまっていたと思っていたけど、よく考えたら熊田さんから侑を送っていけと押しつけられたのがそもそもなのか?
「熊田さん。
ありがとうございます」
「なんだ、藪から棒に。
気持ち悪い」
熊田さんはあからさまに、気持ち悪そうな顔をした。
「なんかお礼を言っておいたほうがいいかと思って」
笑って、仕事を再開する。
その後、私たちが結婚したいきさつを知った熊田さんが、「俺がキューピッドかー」と照れまくるのは少し先の話。
【終】
「もう身体、大丈夫?」
「あ、……平気、です」
真剣に心配してくれる彼女に、言えない。
本当はただのずる休みで、だらだら未消化のBLまんがを読んでいました、などと。
「じゃあ今日、食事に行かない?
もちろん、侑抜きで」
「えー、っと」
後方にある課長席をちらり。
侑もこちらを気にしていたみたいで、すぐにやってきた。
「残念だが麻里恵は今日、用があるんだ」
ぐいっ、と侑が私を小長井さんから引き離す。
「どうせ侑と一緒に過ごす、とかでしょ?」
当たりなだけになにも言えない。
「当たり前だろ。
今日の晩ごはんは麻里恵の好きなチキンのトマト煮だし、お取り寄せした、麻里恵が食べたいと言っていたチーズケーキもある」
侑は私が、食べ物で釣られると思っているんだろうか。
でも、侑のトマトチキン煮込みは美味しいんだよねー。
あれ、大好き。
それにあのチーズケーキ、お取り寄せしてくれたんだ!
嬉しすぎる。
「あと、今日は麻里恵が楽しみにしていたあれの発売日だからな。
帰りに買って帰らないと」
あれ、とは?
少し考えて思いだした。
前期に私がハマって観ていた、近未来SFの、警察ものアニメのBlu-rayの発売日なのだ!
このところのゴタゴタで忘れていたけど。
「そういうわけなので、すみません」
小長井さんには悪いが、そもそも彼女とふたりで食事に行ったってなにを話していいのかわからない。
私の女子の会話なんて無理なのだ。
「ええーっ、私だって麻里恵ちゃんを可愛がりたいのにー。
侑の独り占め、ズルいー」
伸びてきた彼女の手が、ぱっと侑から私を奪う。
「私、麻里恵ちゃんのような子が好みなの。
こういう、女らしさのかけらもない子を美しく磨き上げるのに喜びを感じるっていうか」
ひとり悶えている彼女には申し訳ないが、そっとその腕を抜け出した。
「好意を持っていただけるのは嬉しいんですが。
私は化粧も、女性らしい格好も苦手なんです。
だから、小長井さんの期待には応えられません。
ごめんなさい」
「似合わないと思っているなら、気にすることはないのよ?
そんなの、どうとでも……」
フォローしようとしてくれる彼女へ、首を振る。
「たとえ似合ったとしても、苦痛なんです、そういうのが。
でも侑は、化粧をしなくても、スカートを穿かなくても、私は可愛い、って言ってくれたから」
一歩、小長井さんから離れ、侑を見上げる。
レンズ越しに目のあった侑は、優しく微笑んで頷いてくれた。
「そう。
なら仕方ない。
でもその男、いろいろ面倒くさいけど、大丈夫?」
「あー、そのへんはもう、覚悟したんで大丈夫です……」
意味深に笑う彼女に、ヘラヘラと笑って返す。
侑の素敵なところから面倒くさいところを引いても、優にあまりあるから大丈夫……だと思いたい。
席に戻ってきたら、今度は熊田さんが寄ってきた。
「香坂。
……モテ期か?」
妙に真剣な顔をしていう彼がおかしくて、つい吹きだしていた。
「なんですか、モテ期って!」
でもそうかもしれない。
ゆるゆるひとりで生きていくんだと思っていた私が、私をわかってくれる人に出会って結婚を決めたんだから。
「いやー、香坂を巡って美男美女の言い争いとか、珍しいもん見たな、と思って」
「あー……」
しきりに熊田さんは首を捻っているが、私と侑が結婚すると知ったらどうするんだろう。
案外、驚かないかもね。
なにかとからかってきたし。
……あ。
私のあの日の過ちからはじまっていたと思っていたけど、よく考えたら熊田さんから侑を送っていけと押しつけられたのがそもそもなのか?
「熊田さん。
ありがとうございます」
「なんだ、藪から棒に。
気持ち悪い」
熊田さんはあからさまに、気持ち悪そうな顔をした。
「なんかお礼を言っておいたほうがいいかと思って」
笑って、仕事を再開する。
その後、私たちが結婚したいきさつを知った熊田さんが、「俺がキューピッドかー」と照れまくるのは少し先の話。
【終】
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