お稲荷様に嫁ぎました!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

文字の大きさ
23 / 23
エピローグ

これからは一緒に歩んでいこう

しおりを挟む
「心桜、力んで!」

「んー!」

神功じんぐう皇后様の声に合わせて天井からぶら下がる紐に掴まり、力む。
神様の産屋は……恐ろしく、ローテクだった。
だって、時代劇で見るようなあれなんだよ!?
朔哉なんてなんで無痛分娩できないの!? って絶望していたし。
まあ、神様の世界では出産なんて稀なんだから仕方ないのかもしれない。
その代わり朔哉は産婆にわざわざ、安産の神様を選んでくれた。

「あとちょっと、頑張って!」

「んー!」

苦しい。
ひたすら、苦しい。
一瞬、なんでこんな苦しい思いしているんだっけ? とか現実逃避しそうになる。

「生まれた!」

「んぎゃー、んぎゃー」

産屋の中に響き渡る、元気な泣き声。

「生まれたか!」

きっと、産屋の前で落ち着かずにうろうろしていたであろう朔哉が、勢いよく戸を開けた。

「まだ殿方は出ていっていてください」

冷たく環生さんが言い放ち、ぴしゃっと戸を閉めてしまうと苦笑いしかできない。

「ご苦労様。
立派な男の子よ」

神功皇后様が私の腕に赤ちゃんを抱かせてくれた。
当然ながら、すでに面付き。
この子はすでに神様だから、私が素顔を見るなんてあっちゃいけない。

「初めまして、私の赤ちゃん」

黄泉に行った私を守り、自分も留まってくれた、愛しい愛しい我が子。
初めまして、こんにちは。
一緒にいられる期間は短いけれど、それまでは精一杯愛するから。



ようやく、私の部屋として用意されたそこでベッドへ横になり、落ち着く。

――コンコン。

「心桜」

ノックの音がして顔を向けると、朔哉が入ってきた。

「赤ちゃん、会ってきた。
本当にありがとう、心桜」

朔哉の両手が私の手を取り、ぎゅっと握る。
それだけで疲れが癒やされた。

「名前。
どうなるんだろうね」

「さあね。
変なのじゃないといいんだけど」

子供の名前は、うか様がつけてくれることになっている。
張り切っていたけど……少しだけ、不安。

「それで。
……お待ちかねの時間だよ」

そっと朔哉の手が、自分の顔にある面にかかる。
子供が生まれたことによって、朔哉は完全に、人間になった。
だから私の前でもう、面は必要ないんだけど……。

「待って。
……怖い」

「怖くなんかないよ」

「だってそれでもし、朔哉が消えちゃったら?
そんなの、怖いよ」

そんなことはないとわかっていても、もしを考えると怖くて怖くてたまらない。

「大丈夫だよ。
私を信じて」

「……うん」

あやすように朔哉の手が私のあたまを撫でる。
それで少し落ち着けた。

「じゃあ、外すよ」

ゆっくりと朔哉の面が外される。

きりっとした細い眉。
くっきり二重の、濃紺と金の瞳。
シュッと通った鼻筋。

「そんな顔、してたんだ」

「幻滅したかい?」

「思ったよりもイケメンで、びっくりした」

面を取った朔哉が私の好みじゃなかったとしても、がっかりしないって決めていた。
でも、そんな心配は杞憂だったみたい。

「でもなんか、眩しい……」

「ああ、ごめん!」

朔哉は胸ポケットからなぜか眼鏡を出し、かけた。

「神の力の残滓、じゃないけど。
そういうのが滲み出てしまうみたいなんだよね。
こうやって眼鏡をかけていれば抑えられるから」

「う、うん……」

いや!
その黒縁ハーフリムの眼鏡、さらに顔面偏差値上がっちゃって、全然抑えられていないから!!
かえって、眩しくなっちゃってるから!!
ううっ、私に眼鏡萌え属性はないと思っていたけど、実はあったのかな……?

「それで。
これからどうしようか」

「子供が七つになるまでは教育係としていなきゃいけないんだよね?」

「そう」

力は完全に継承されたけれど、使い方とか業務の引き継ぎとか。
そういうのがあるから七つまでは子供の傍にいていいらしい。

――でもきっと。

そういうのは方便で、少しくらい子供と一緒にいる時間を与えてやろうという、優しい配慮なんだと思う。

「そのあとはどうしよう?」

「どうする?」

選ぶ道はふたつ。
敷地の隅に小さな別邸を建てて、そこでひっそり人に会わず暮らすか。

もしくは――人間界へ降りるか。

「心桜と人間界で、シュークリーム専門店を出すっていうのもいいな」

「朔哉、本当にシュークリーム好きだもんね」

宜生さんはうか様の持ち込むシュークリームを黙認してくれるようになった。
それでうきうきと、朔哉はあちこちのシュークリームをお取り寄せしている。

「いまから作り方を研究したら、ちょうどよくないかな」

「決まりなの?」
楽しい、私たちの今後の計画。
もう私は、朔哉を何十年も何百年もひとりにしなくていい。

「まだ七年あるんだよ?
ゆっくり考えよう?」

「そうだね」

ゆっくりと、朔哉の唇が重なる。
これからは同じ時を、一緒に歩いていこう――。


あ、ちなみに子供の名前は「桜哉おとや」に決まりました。
私の名前と朔哉の名前から取った、安直な名前だけど。
うか様が私の名前を酷く気に入ったからなんだって。
これは、名付けてくれたお祖母ちゃんに感謝だ。


【終】
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...