憧れの上司は実は猫かぶり!?~ウブな部下は俺様御曹司に溺愛される~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第八章 憧れの上司が好きな人でした

8-1

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次の日の休み、朝になったらいつものように置いてあるスマートスピーカーが着信を告げた。
ため息をつき、応答するとすぐに龍志の声が聞こえてきた。

『おはよう。
朝食、できたぞ』

いつもならすぐにほいほい彼の部屋に行くが、今日はそうはいかない。

「作っていただいておいて申し訳ないのですが、今日から食事を作っていただかなくてけっこうです。
今まで、ありがとうございました」

『おい、どういう……』

まだなにか言っている彼を無視して一方的に通話を終える。
すぐにまた着信音が鳴りだしたが、無視した。
ようやく止まったかと思ったら、またすぐに鳴りだす。
それでも無視していたらようやく静かになってほっとしたのも束の間。

「おい、七星」

チャイムの音ともにドアの外から龍志の声が聞こえてきた。

「……はぁーっ」

重いため息をついて立ち上がり、玄関のドアを開ける。

「なにかご用ですか」

「なにかって朝食できたって言ってるだろ」

長身の彼に見下ろされて身が竦んだが、怯まずに口を開いた。

「ですから。
これからは食事を作っていただかなくてけっこうです」

「なんで」

彼の疑問はもっともだ。
急にもう作らなくていいと言われても、困るに決まっている。

「だいたい、今までがおかしかったんですよ。
いくらお隣さんで上司だからって毎日、私の食事を作るとか」

強引に龍志は部屋の中に入り、ドアを閉めた。

「おかしくないだろ。
俺は七星に好意を持っていて、オマエを落とすために食事で釣ってたんだから」

彼は完全に困惑気味だった。
それは確かに彼の言うとおりなのだが、私はそれを自分のいいように利用していたのだ。
いまさらながらなんて酷い女なのだろう。

「私が龍志……宇佐神課長を好きになるとかありえないので。
今までご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした。
これからは自分のことは自分でしますので、もうかまわないでください」

ドアを開け、彼を押して追い出そうとするが、びくともしない。

「なあ。
まだなんか怒ってるだろ」

聞かれた途端、身体がびくりと反応した。
怒ってはいないが当たらずとも遠からずなのでなんと返事をしていいのかわからない。

「べ、別に怒ってないですよ」

嘘をついているので目をあわせられず、視線があたりを徘徊する。

「なんか気に障ることをして怒らせたのなら、謝る。
だから正直に言ってくれ」

「いや、だから……」

「映画の件は悪かった。
まだ行く気があるなら今日、連れていってやるし、お詫びに焼き肉奢ってやってもいい。
それとも俺自身は気づいてないが、足が臭かったとかか?
だったらこれからはもっと綺麗に足を洗うし、消臭クリームをしっかり塗り込む。
あ、もしかして昨日の朝食にオマエの苦手なものがあったとか?
知らなかったとはいえ悪かった。
そういうときは残してもらってかまわない。
あとは……」

なんだかわからないが龍志の一方的な反省会が続いていく。
どうしてそこまで私を繋ぎ止めようと必死なのかわからない。
だいたい、彼は。

「だから。
私は怒っているわけではないので」

「じゃあなんで、そんなに機嫌が悪いんだよ」

不満そうに彼が聞いてくる。
なにも思い当たるものがなく、急によそよそしくなったら不審に思われるのは当たり前だ。

「だいたい宇佐神課長は私なんかより、COCOKAさんのほうが好きなんじゃないですか」

それは今、自分が一番、向きあいたくない現実だった。
そうだと言われたら立ち直れない自信がある。
けれどどうしてそこまで落ち込むのか私には自分の気持ちなのに理解ができなかった。
耳を塞ぎたい衝動を抑えながら待った返事は、私の予想を裏切ってきた。

「はぁ?
なに言ってんだ、オマエ」

彼の声は完全に呆れている。

「俺がCOCOKAさんが好き?
なにをどう見てそういう結論に達するんだ?」

小馬鹿にするようなそれに、私の中で我慢というものがプチンと切れた。

「昨日、大変親しそうでいらっしゃいましたが?
席だって隣に座って、ベタベタと」

「ベタベタって、そんなことしてないだろ」

反論されてさらに感情がヒートアップしていく。

「あれほど居留守を使って避けていたなんて思えないほど、彼女に優しくして気遣っていらっしゃいましたが?
別に私に気を遣わなくていいんですよ?
なんていったって私は、いくらやってもあなたになびかない女ですから。
可愛い彼女に心変わりなんて当たり前です」

「ちょ、オマエ、なに言ってんだよ?」

完全に龍志はわけがわかっていないようで、それが私の怒りの起爆剤になった。

「出てって!
もう二度と、私にかまわないで!」

無理矢理、彼を部屋の外に押し出す。

「おい!」

まだなにか言いたげな彼を無視してドアを閉めて鍵をかけた。

「七星!
七星って!」

ドアを叩いて龍志が怒鳴ってくるが、耳を塞いでその場にしゃがみ込む。
きっと、今ので嫌われた。
あんな嫌みを言われたら、誰だって不快になるに決まっている。
でも私は、ああ言うしかできなかった。
昨日から、自分の感情がコントロールできない。
だいたい、私は男を手玉にとって弄ぶような酷い女だと気づいたから、それを隠して龍志に嫌われないようにするはずだった。
それがどうだ?
好き勝手に自分の感情を押しつけ、自分から彼に嫌われるようにして。
私はいったい、なにがしたいんだ?

玄関でじっとしていたら、リビングに置いてある携帯が立て続けに通知音を立てた。
それを確認に行く気力すらない。
しばらくして部屋の中が静かになり、ようやく私は立ち上がった。
携帯を手に取り、ため息が漏れる。

「……だから」

そこにはおびただしい量の、龍志からのメッセージが届いていた。
COCOKAさんとはなんともない、彼女には好きな人がいるから気持ちには応えられないと断った。
隣に座っていたのはちょっと込み入った話をしていたからで、詳しく説明するから話を聞いてほしい。

「詳しい説明もなにも、あれがすべてですよね」

ため息をついて携帯を置き、ソファーの上で膝を抱える。
私、いったいなにをやっているんだろう?

なにもする気になれず、ベッドでごろごろする。
そのうちお腹がすいてなにか食べるものはないかと探すが、なにもなかった。
食生活は龍志にまかせっきり、しかも自宅にいる時間のほとんどを彼の部屋で過ごしていれば、そうなる。
空っぽの冷蔵庫を見て、自分はつくづくダメ人間だと自覚した。
こんな人間、好きになる人などいるはずがない。

「はぁーっ」

本日、何度目かのため息をついて、再びベッドの中で丸くなった。
もういっそ、消えてしまいたい。
龍志の好意に甘えて寄生していた自分が嫌いだ。
こんなダメ人間の世話をしてくれていた彼に感謝するどころかあんな嫌みを言う自分が嫌いだ。
なにより、龍志に嫌われてしまってもう、生きていけない。

「……どうしたらいいのか、わかんない」

ぐずぐずと鼻が鳴る。
もう龍志と顔をあわせたくない。
少し考えて、兄に連絡を入れた。
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