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第5章 お仕事、はじめます
3.小さな、闇
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「チェ、チェック、お願い、します」
「はい」
できあがった手紙を井出室長へ渡す。
一週間もたつと、少し仕事には慣れてきた。
私に任されている、お礼の手紙に対する返信の仕事は件数が多くない。
それにスピードよりも丁寧さを求められているから、私にあっていた。
「赤線を引いた箇所、文法に間違いがありますので訂正を。
あとはよろしいかと思います」
「あ、ありがとう、ござい、ます」
にっこりと笑った井出室長から手紙の下書きを受け取る。
彼は優しくて、いまのところ怒鳴るのを見たことがない。
だからやっていけているのもあると思う。
席に戻り、赤線の箇所の文法をチェックした。
ちょっとした言い回しの間違いなど、厳しくチェックが入る。
世界に名をはせるBridge&Hawkからの手紙となれば、美しいフランス語でなければならない。
フランス語だけじゃない、私が担当している英語も日本語ですらチェックされた。
それくらい、品格が大事なのだ。
「こ、今度は大丈夫、かな」
もう一度チェックしてもらい、OKが出たので清書する。
もちろん、手書きだから綺麗に書くように心がけて。
「よし、っと」
インクが乾いたのを確認し、封緘した。
「どれに、しよう、かな……」
今度開けたボックスの中には、色とりどりの切手が入っている。
封筒と便せんは必ずホテルオリジナルのものだが、切手はそのときにあわせて使っていいことになっていた。
外国のお客様には和テイストの濃いものを。
季節にあわせてみたり、時事ネタにあわせてみたり。
そういうのもおもてなしの一環だと指導された。
それに切手を選ぶときが一番、私は好きだったりする。
「よし」
散々悩んで、和菓子の切手にした。
このお客様は日本で食べた和菓子が最高だった、と感動していたから。
「お、お疲れ様、でした」
定時になって帰る。
といっても、部屋まで三分なんだけど。
「お帰りなさいませ、彩梅様!
お疲れでございました」
部屋に戻ると石塚さんが迎えてくれた。
私が仕事だと彼女の仕事がなくなるので心配していたが、引き続き私の身の回りの世話をしてくれている。
いない時間どうしているのか気になるが、いままでいつ休んでいるんだろうというくらい私に付きっきりだったので、その時間くらい休んでいてくれたらと思う。
「お食事になさいますか?
それともご入浴なさいますか?」
レストランのメニューを手に訊いてくれる。
食事はメニューから選んでもいいし、食べたいものがあればメニュー外でも都合があえば可能だ。
「さ、先に、お風呂にする。
今日は、玲が帰ってくる、から」
「そうでございましたね!
なら、ピカピカに磨いておかないと!」
腕捲りをする石塚さんがおかしくて、つい笑っていた。
ひとりで大丈夫だというのに石塚さんは一緒に来て、私の身体を隅々まで磨き上げた。
仕上げに、いい匂いのするボディオイルまで塗り込んでくれる。
「これでご主人様は喜んでくださると思います」
「そう、だね」
鼻息の荒い石塚さんに苦笑いしかできない。
玲が喜んでくれるのは嬉しいが、私の体力が持たないんだよね……。
時計を見ながらそわそわと玲を待つ。
この一週間、本当に長かった。
慣れない仕事なんてしているせいもあるかもしれない。
毎日電話で話しては、会いたくて会いたくてたまらなかった。
玲と同じ服を着ているのだから、玲に抱き締められているのと一緒だ、なんて玲が言っていたことを思いながら、それでも淋しかった。
でも今日は――玲から抱き締めてもらえる。
「あーや、ただいま!」
「おかえ……」
勢いよくドアを開けて入ってきた玲に駆け寄りかけて、足が止まる。
その後ろに立っている、高椋さんに目が留まって。
「それでは明日はオフということで。
明後日は八時半にはご出社、お願いいたします」
「わかった。
もう下がっていい、真苗。
あーやが困っているだろ」
「では、失礼いたします」
高椋さんがいなくなり、ドアが閉まる。
途端に玲から抱き締められた。
「ただいま、あーや!
よく顔を見せてくれ」
私の顔を掴み、何度も玲が口付けを落としてくる。
「く、くすぐったい、です!」
それに喜びながらも、心に巣くった闇がぐるぐると渦巻きながら少し大きくなった。
「井出が褒めていたぞ!
あーやの手紙は心がこもっているから、お客様もさぞ喜んでいるだろうって」
「ほ、ほんとです、か!?」
玲の手が私を持ち上げる。
見下ろすと目があって、にっこりと笑われた。
「ああ」
腕を降ろした玲が、私を抱き締める。
「嬉しい、です」
私も腕を伸ばして玲を抱き締め返した。
ひさしぶりのぬくもりに胸が温かくなる。
「……あーや、いい匂いがする」
「えっ、あっ」
私の髪の間に鼻を突っ込み、犬みたいにすん、と玲が首筋のにおいを嗅いだ。
「いますぐ、あーやを食べたい」
「あの、その」
ちゅっ、とうなじに口付けを落とされ、ぞくりとした。
「一週間もおあずけだったんだ。
明日はあーやも休みだろ」
「あっ」
耳を食まれて一気に身体から力が抜けていく。
「あーやで僕の飢えを満たしてくれ」
レンズの向こうから熱い瞳に見つめられ――。
「はい」
できあがった手紙を井出室長へ渡す。
一週間もたつと、少し仕事には慣れてきた。
私に任されている、お礼の手紙に対する返信の仕事は件数が多くない。
それにスピードよりも丁寧さを求められているから、私にあっていた。
「赤線を引いた箇所、文法に間違いがありますので訂正を。
あとはよろしいかと思います」
「あ、ありがとう、ござい、ます」
にっこりと笑った井出室長から手紙の下書きを受け取る。
彼は優しくて、いまのところ怒鳴るのを見たことがない。
だからやっていけているのもあると思う。
席に戻り、赤線の箇所の文法をチェックした。
ちょっとした言い回しの間違いなど、厳しくチェックが入る。
世界に名をはせるBridge&Hawkからの手紙となれば、美しいフランス語でなければならない。
フランス語だけじゃない、私が担当している英語も日本語ですらチェックされた。
それくらい、品格が大事なのだ。
「こ、今度は大丈夫、かな」
もう一度チェックしてもらい、OKが出たので清書する。
もちろん、手書きだから綺麗に書くように心がけて。
「よし、っと」
インクが乾いたのを確認し、封緘した。
「どれに、しよう、かな……」
今度開けたボックスの中には、色とりどりの切手が入っている。
封筒と便せんは必ずホテルオリジナルのものだが、切手はそのときにあわせて使っていいことになっていた。
外国のお客様には和テイストの濃いものを。
季節にあわせてみたり、時事ネタにあわせてみたり。
そういうのもおもてなしの一環だと指導された。
それに切手を選ぶときが一番、私は好きだったりする。
「よし」
散々悩んで、和菓子の切手にした。
このお客様は日本で食べた和菓子が最高だった、と感動していたから。
「お、お疲れ様、でした」
定時になって帰る。
といっても、部屋まで三分なんだけど。
「お帰りなさいませ、彩梅様!
お疲れでございました」
部屋に戻ると石塚さんが迎えてくれた。
私が仕事だと彼女の仕事がなくなるので心配していたが、引き続き私の身の回りの世話をしてくれている。
いない時間どうしているのか気になるが、いままでいつ休んでいるんだろうというくらい私に付きっきりだったので、その時間くらい休んでいてくれたらと思う。
「お食事になさいますか?
それともご入浴なさいますか?」
レストランのメニューを手に訊いてくれる。
食事はメニューから選んでもいいし、食べたいものがあればメニュー外でも都合があえば可能だ。
「さ、先に、お風呂にする。
今日は、玲が帰ってくる、から」
「そうでございましたね!
なら、ピカピカに磨いておかないと!」
腕捲りをする石塚さんがおかしくて、つい笑っていた。
ひとりで大丈夫だというのに石塚さんは一緒に来て、私の身体を隅々まで磨き上げた。
仕上げに、いい匂いのするボディオイルまで塗り込んでくれる。
「これでご主人様は喜んでくださると思います」
「そう、だね」
鼻息の荒い石塚さんに苦笑いしかできない。
玲が喜んでくれるのは嬉しいが、私の体力が持たないんだよね……。
時計を見ながらそわそわと玲を待つ。
この一週間、本当に長かった。
慣れない仕事なんてしているせいもあるかもしれない。
毎日電話で話しては、会いたくて会いたくてたまらなかった。
玲と同じ服を着ているのだから、玲に抱き締められているのと一緒だ、なんて玲が言っていたことを思いながら、それでも淋しかった。
でも今日は――玲から抱き締めてもらえる。
「あーや、ただいま!」
「おかえ……」
勢いよくドアを開けて入ってきた玲に駆け寄りかけて、足が止まる。
その後ろに立っている、高椋さんに目が留まって。
「それでは明日はオフということで。
明後日は八時半にはご出社、お願いいたします」
「わかった。
もう下がっていい、真苗。
あーやが困っているだろ」
「では、失礼いたします」
高椋さんがいなくなり、ドアが閉まる。
途端に玲から抱き締められた。
「ただいま、あーや!
よく顔を見せてくれ」
私の顔を掴み、何度も玲が口付けを落としてくる。
「く、くすぐったい、です!」
それに喜びながらも、心に巣くった闇がぐるぐると渦巻きながら少し大きくなった。
「井出が褒めていたぞ!
あーやの手紙は心がこもっているから、お客様もさぞ喜んでいるだろうって」
「ほ、ほんとです、か!?」
玲の手が私を持ち上げる。
見下ろすと目があって、にっこりと笑われた。
「ああ」
腕を降ろした玲が、私を抱き締める。
「嬉しい、です」
私も腕を伸ばして玲を抱き締め返した。
ひさしぶりのぬくもりに胸が温かくなる。
「……あーや、いい匂いがする」
「えっ、あっ」
私の髪の間に鼻を突っ込み、犬みたいにすん、と玲が首筋のにおいを嗅いだ。
「いますぐ、あーやを食べたい」
「あの、その」
ちゅっ、とうなじに口付けを落とされ、ぞくりとした。
「一週間もおあずけだったんだ。
明日はあーやも休みだろ」
「あっ」
耳を食まれて一気に身体から力が抜けていく。
「あーやで僕の飢えを満たしてくれ」
レンズの向こうから熱い瞳に見つめられ――。
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