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第3章 あなたの私がいい理由
5.気づいた、幸せ
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「二年前の五月三日、あーやに届いた荷物を渡し忘れたまま長期休みに入ったお手伝いの三木さんを、あーやは簡単に許してしまった。
あーやが優しいからできることだ。
それから……」
「……も、もう、やめ、て……」
自分で聞くのも恥ずかしい、過去の私がした小さなことを玲さんが褒めてくる。
しかも、日付まで詳細に。
というかなんで、そんなことを知っているのだろう。
「一年前の十月二十五日、洗濯に失敗してあーやの服を全部、まだら模様にしてしまった三木さんを、あーやは許した。
これもあーやが優しいからできたことだな。
あとは……」
もうすでに一時間が経過しようとしていた。
しかしまだまだ、玲さんは話し足りないらしい。
玲さんの話してくれる内容は、のほとんどが、関心がなかったか、どうでもいいかで、許したというよりもスルーしたことなのだ。
それをいちいち褒められるのはもう、拷問に近い。
耳を塞いだ手は、玲さんによって拘束されてしまい、強制的に彼の話を聞かされ続けている。
……しかし。
三木さんの話、多いな。
気にしてなかったけどそんなに失敗の多い人だったんだ……。
「一番は、僕との見合いに来たことだな」
思わず、彼の顔を見ていた。
まさか、あれが褒められるなんて思ってもいなかったから。
「家から出るのも怖かっただろ?」
そっと彼の手が、私の頬に触れる。
レンズ越しに見える瞳は慈愛に満ちていた。
「でもあーやは、見合いに来た。
父親のために、姉のために、従業員とその家族のために。
その勇気は賞賛に値する」
「あ……」
目尻から、温かいなにかが転がり落ちていく。
初めて、人に認めてもらえた。
それが、嬉しくて。
「えっ、あっ」
泣いているのを見られたくなくて、慌てて涙を拭おうとする。
けれどそれよりも早く、玲さんの唇が私の涙を拭った。
「こんなに素敵な女性が、僕と釣り合わないなんてあるわけない」
それでもまだ濡れている目尻を、彼の両の親指が撫でる。
眼鏡の奥で眩しそうに目を細め、玲さんが私を見ていた。
「……あ、ありがとう、ござい、ます」
自然と口からお礼の言葉が零れ落ちる。
胸の内が温かい。
こんなに満ち足りた気分は、いつ以来だろう?
「だからあーやは、僕と釣り合わないなんて気にする必要はないんだ」
「……はい」
私はきっと、幸せ者だ。
こんなに、私をわかってくれる人に好きになってもらえて。
私も少しでも、玲さんのお役に立てたらいいのに……。
「もう寝よう。
すっかり遅くなってしまった」
玲さんは笑っているが、無駄に一時間もいろいろ聞かせてくれたせいですよー、とは言えない。
ベッドに腰掛けた途端、とん、と玲さんから肩を押された。
いとも簡単に私の身体は倒れ、あたまはベッドについてしまう。
――そして。
「僕に詫びをしてくれるんだろう?」
のしかかってきた玲さんが、私を見下ろす。
「……はい?」
あった、そんなこと。
食事のときにあやまり続ける私に、あとで詫びをしてもらうからいまはやめないか、って。
「あーやを、抱きたい……」
ゆっくりと顔が近づいてきて、唇が重なる。
触れては離れ、離れては触れる唇は、ときおり、下唇を喰んだ。
「口を開けろ、あーや……」
じっと私を見つめる瞳に魅入られ、操られるように僅かに唇を開く。
「いい子だ……」
口を開け、ほんの少しだけ舌を突き出した玲さんの唇が再び重なる。
すぐにぬるりと肉厚なそれが入ってきた。
どうしていいのかわからなくて縮こまっていた私を、玲さんがすぐに探り当てる。
触れただけでビリビリと甘い電流が背筋を駆けていった。
「……んっ……」
唇が角度を変えるタイミングで息継ぎしようとするが、うまくいかない。
そんなことよりももっと、玲さんに溺れたかった。
居場所を迷っていた手はいつの間にか、枕をきつく掴んでいる。
あたまがし痺れてなにも考えられない。
それどころか、意識も朦朧としてきた……。
「……」
離れていく玲さんをぼーっとしたあたまで追う。
「あーや?」
玲さんの声が心配そうなんだけど、なんでだろう?
そこまで考えて、一気に酸素が肺に入ってきた。
「はぁはぁはぁはぁ」
「また、息を止めていたのか」
私の髪を撫でる玲さんの声は、呆れているというよりも愛しむものだった。
「そんなんじゃまだ、先には進めないな」
ちゅっ、と口づけが額に落とされる。
彼の手が私のまぶたを閉じさせた。
「おやすみ、マイプリンセス。
今日は慣れない外に出て疲れただろ。
ゆっくり寝ろ」
「……はい」
気づいていなかったが彼の言う通り疲れていたみたいで、すぐに眠くなっていく。
そのまま、満ち足りた気分で眠りに落ちた。
あーやが優しいからできることだ。
それから……」
「……も、もう、やめ、て……」
自分で聞くのも恥ずかしい、過去の私がした小さなことを玲さんが褒めてくる。
しかも、日付まで詳細に。
というかなんで、そんなことを知っているのだろう。
「一年前の十月二十五日、洗濯に失敗してあーやの服を全部、まだら模様にしてしまった三木さんを、あーやは許した。
これもあーやが優しいからできたことだな。
あとは……」
もうすでに一時間が経過しようとしていた。
しかしまだまだ、玲さんは話し足りないらしい。
玲さんの話してくれる内容は、のほとんどが、関心がなかったか、どうでもいいかで、許したというよりもスルーしたことなのだ。
それをいちいち褒められるのはもう、拷問に近い。
耳を塞いだ手は、玲さんによって拘束されてしまい、強制的に彼の話を聞かされ続けている。
……しかし。
三木さんの話、多いな。
気にしてなかったけどそんなに失敗の多い人だったんだ……。
「一番は、僕との見合いに来たことだな」
思わず、彼の顔を見ていた。
まさか、あれが褒められるなんて思ってもいなかったから。
「家から出るのも怖かっただろ?」
そっと彼の手が、私の頬に触れる。
レンズ越しに見える瞳は慈愛に満ちていた。
「でもあーやは、見合いに来た。
父親のために、姉のために、従業員とその家族のために。
その勇気は賞賛に値する」
「あ……」
目尻から、温かいなにかが転がり落ちていく。
初めて、人に認めてもらえた。
それが、嬉しくて。
「えっ、あっ」
泣いているのを見られたくなくて、慌てて涙を拭おうとする。
けれどそれよりも早く、玲さんの唇が私の涙を拭った。
「こんなに素敵な女性が、僕と釣り合わないなんてあるわけない」
それでもまだ濡れている目尻を、彼の両の親指が撫でる。
眼鏡の奥で眩しそうに目を細め、玲さんが私を見ていた。
「……あ、ありがとう、ござい、ます」
自然と口からお礼の言葉が零れ落ちる。
胸の内が温かい。
こんなに満ち足りた気分は、いつ以来だろう?
「だからあーやは、僕と釣り合わないなんて気にする必要はないんだ」
「……はい」
私はきっと、幸せ者だ。
こんなに、私をわかってくれる人に好きになってもらえて。
私も少しでも、玲さんのお役に立てたらいいのに……。
「もう寝よう。
すっかり遅くなってしまった」
玲さんは笑っているが、無駄に一時間もいろいろ聞かせてくれたせいですよー、とは言えない。
ベッドに腰掛けた途端、とん、と玲さんから肩を押された。
いとも簡単に私の身体は倒れ、あたまはベッドについてしまう。
――そして。
「僕に詫びをしてくれるんだろう?」
のしかかってきた玲さんが、私を見下ろす。
「……はい?」
あった、そんなこと。
食事のときにあやまり続ける私に、あとで詫びをしてもらうからいまはやめないか、って。
「あーやを、抱きたい……」
ゆっくりと顔が近づいてきて、唇が重なる。
触れては離れ、離れては触れる唇は、ときおり、下唇を喰んだ。
「口を開けろ、あーや……」
じっと私を見つめる瞳に魅入られ、操られるように僅かに唇を開く。
「いい子だ……」
口を開け、ほんの少しだけ舌を突き出した玲さんの唇が再び重なる。
すぐにぬるりと肉厚なそれが入ってきた。
どうしていいのかわからなくて縮こまっていた私を、玲さんがすぐに探り当てる。
触れただけでビリビリと甘い電流が背筋を駆けていった。
「……んっ……」
唇が角度を変えるタイミングで息継ぎしようとするが、うまくいかない。
そんなことよりももっと、玲さんに溺れたかった。
居場所を迷っていた手はいつの間にか、枕をきつく掴んでいる。
あたまがし痺れてなにも考えられない。
それどころか、意識も朦朧としてきた……。
「……」
離れていく玲さんをぼーっとしたあたまで追う。
「あーや?」
玲さんの声が心配そうなんだけど、なんでだろう?
そこまで考えて、一気に酸素が肺に入ってきた。
「はぁはぁはぁはぁ」
「また、息を止めていたのか」
私の髪を撫でる玲さんの声は、呆れているというよりも愛しむものだった。
「そんなんじゃまだ、先には進めないな」
ちゅっ、と口づけが額に落とされる。
彼の手が私のまぶたを閉じさせた。
「おやすみ、マイプリンセス。
今日は慣れない外に出て疲れただろ。
ゆっくり寝ろ」
「……はい」
気づいていなかったが彼の言う通り疲れていたみたいで、すぐに眠くなっていく。
そのまま、満ち足りた気分で眠りに落ちた。
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