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第3話 ひとりっきりのお城

1.自分の部屋

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「やだぁ。
くすぐったい」

誰かがべろんべろんと朋香の顔を舐める。
くすぐったくてくすぐったくてたまらない。

「やめってって。
ねぇ……」

そっと瞼を開くと、金髪が視界に入ってきてぎょっとする。
慌てて飛び起きると、ゴールドとホワイトの毛並みの犬……ボルゾイが物珍しそうに朋香を見ていた。
昨日、尚一郎がボルゾイに似ていると思ったが、実際見るとますます似ている。

「ロッテ、ダメだよ、入っちゃ」

尚一郎がドアの隙間から顔を出すとボルゾイは朋香の元を離れた。
行方を追っていくと視線が尚一郎と合い、困ったように笑われた。

「おはよう、朋香。
よく眠れた?」

「……おはようございます」

昨日は疲れてそのまま寝落ちてしまい、酷い状態なのを見られていると思うと、顔から火が出るほど恥ずかしい。

「準備ができたら一階に降りておいで。
朝食にしよう」

「……はい」

すっかり俯いてしまった朋香を残してドアがぱたんと閉まる。
閉まる直前、尚一郎がおかしそうに小さくくすりと笑った気がしてますます恥ずかしくなった。


バス、トイレは部屋に付いてると云われたが、廊下に出る以外に右手に二つ、左手に一つとドアが三つもある。

とりあえず右手手前のドアを開けてみるとトイレだった。
中にさらにドアがあって、開けてみると洗面所兼用のバスルーム。

「うわーっ」

思わず、朋香の口から感嘆の声が漏れる。

白いタイルに置かれる、猫足の白のバスタブ。
洗面台はダークブラウンを基調としており、まるで海外のおしゃれな家のようだった。

「やっぱりお金持ちは違うね」

つい、憎まれ口をたたきながらも、顔はゆるみきっている。
バスルームにあった、別のドアを開けると想像通り部屋に戻った。

スーツケースから着替えを出していそいそとシャワーを浴びる。

身支度を整えて部屋を出ようとして、バス、トイレとは反対にあるドアも気になった。

「一応、ね」

そっとドアを開けてみると、そこは衣装部屋になっていた。
しかも、すでに半分ほどが埋まっている。

「押部社長の趣味なのかな」

シンプルできれいめのラインナップ。
ただし、パンツ系、とくにジーンズは一本もない。

「どうでもいいけど、買い過ぎじゃない?」

一日二回着替えたって、ひと月で全部の服が着れるかどうかも怪しい量。
金持ちの考えることはわからない。
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