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第7話 雪が溶けるときっと花が咲く
8.もうひとつの手段
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高速を降りて少し走ると、車は牧場の駐車場に停まった。
「降りて、朋香」
「いや。
降りません」
頑なに降りることを拒否する朋香に尚一郎は、はぁーっと大きなため息をつくと、まるで荷物かなにかのように、朋香を肩の上に担ぎ上げた。
「やだ、下ろして!」
「いいから。
黙ってるんだよ」
牛舎の近くで、やっと尚一郎は下ろしてくれた。
しっと人差し指で唇を押さえられ、ふてくされて一緒にそっと、中を覗く。
「掃除、終わりました!
次はなにをしたらいいですか」
「じゃあ、干し草の準備をしてくれ」
「はい!」
そこできびきびと働いていたのは――雪也、だった。
「……あれ」
「うん?
だから、牧場においしいソフトクリームを食べに行こうって云っただろ?」
意味深に、尚一郎がぱちんとウィンクした。
言葉通り、ソフトクリームを買って近くのベンチに座った。
ラフな服装にプライベート用の黒縁眼鏡だと、案外、尚一郎もこういうところが似合ってる気がする。
「あの男は朋香に感謝するべきだね」
「えっと……」
朋香自身、雪也の命を助けるようなことはなにもしていない。
首を傾げる朋香に、尚一郎は楽しそうに笑っている。
「朋香が気付かなかった、もうひとつのあの男を救う手段を実行したんだ」
「そういえば前も云ってましたけど、他にあるんですか」
「朋香はほんとに、Reizend !(可愛い)」
ソフトクリームを食べ終わった尚一郎に勢いよく抱き付かれて、食べかけの朋香のソフトクリームが落ちた。
「……ごめん。
新しいの、買ってくるよ」
「……いえ」
ばつが悪そうに目を伏せられると、なにも云えない。
「じゃあ、帰りに美味しいケーキを買おう。
それで。
……朋香はね、僕にお願いすればよかったんだよ。
あの男を助けてください、って」
「あ……」
思いもつかなかった、尚一郎にそんなお願いをするだなんて。
けれど、たとえそれを思いついていたとしても、尚一郎にお願いすることはなかった気がする。
自分の、しかも元彼の問題の解決を、尚一郎に頼むなど。
「朋香が僕にお願いしてきていたらきっと、彼を助けなかっただろうね。
でも、朋香は少しもそんなことを考えなかったみたいだし。
朋香のそういうところはほんとに愛おしくて、……なんでも願いを叶えてあげようって思ったんだよ」
ちゅっ、嬉しそうに口付けされると恥ずかしくなる。
自分は尚一郎が思っているほど、いい人間じゃない。
隠れてこそこそと男と会って、浮気して。
だからこそ、もう二度と、尚一郎を裏切るようなことはしたくない。
「そりゃさ、僕の大事な朋香をこんなに泣かせて、苦しめて、文字通り傷つけた奴なんて、死ぬよりつらい目に遭わせてやろうとは思ったけどね」
尚一郎は笑っているが、冗談に聞こえないから怖い。
それに、やろうと思ったらできそうな気がするからなおさら。
「でも、そんなことしたら、もっと朋香が苦しむからね。
だから、金輪際、朋香に近づかないことを条件に、借金は全部片づけてあげた」
ふふっ、楽しそうに尚一郎が笑う。
褒めて、褒めて。
見えない尻尾がパタパタ振られてる。
「……ありがとうございます」
少しだけ悩んで、そっと尚一郎の頬に口付けした。
途端に、尚一郎が満面の笑みになった。
見えない尻尾はうるさいくらいに振られてる。
尚一郎にしてみれば、雪也を助ける義理も、なんのメリットもない。
むしろ、朋香を誘惑した悪人。
なのに、朋香のためだと助けてくれた。
尚一郎のそういうところは好きだと思う。
「降りて、朋香」
「いや。
降りません」
頑なに降りることを拒否する朋香に尚一郎は、はぁーっと大きなため息をつくと、まるで荷物かなにかのように、朋香を肩の上に担ぎ上げた。
「やだ、下ろして!」
「いいから。
黙ってるんだよ」
牛舎の近くで、やっと尚一郎は下ろしてくれた。
しっと人差し指で唇を押さえられ、ふてくされて一緒にそっと、中を覗く。
「掃除、終わりました!
次はなにをしたらいいですか」
「じゃあ、干し草の準備をしてくれ」
「はい!」
そこできびきびと働いていたのは――雪也、だった。
「……あれ」
「うん?
だから、牧場においしいソフトクリームを食べに行こうって云っただろ?」
意味深に、尚一郎がぱちんとウィンクした。
言葉通り、ソフトクリームを買って近くのベンチに座った。
ラフな服装にプライベート用の黒縁眼鏡だと、案外、尚一郎もこういうところが似合ってる気がする。
「あの男は朋香に感謝するべきだね」
「えっと……」
朋香自身、雪也の命を助けるようなことはなにもしていない。
首を傾げる朋香に、尚一郎は楽しそうに笑っている。
「朋香が気付かなかった、もうひとつのあの男を救う手段を実行したんだ」
「そういえば前も云ってましたけど、他にあるんですか」
「朋香はほんとに、Reizend !(可愛い)」
ソフトクリームを食べ終わった尚一郎に勢いよく抱き付かれて、食べかけの朋香のソフトクリームが落ちた。
「……ごめん。
新しいの、買ってくるよ」
「……いえ」
ばつが悪そうに目を伏せられると、なにも云えない。
「じゃあ、帰りに美味しいケーキを買おう。
それで。
……朋香はね、僕にお願いすればよかったんだよ。
あの男を助けてください、って」
「あ……」
思いもつかなかった、尚一郎にそんなお願いをするだなんて。
けれど、たとえそれを思いついていたとしても、尚一郎にお願いすることはなかった気がする。
自分の、しかも元彼の問題の解決を、尚一郎に頼むなど。
「朋香が僕にお願いしてきていたらきっと、彼を助けなかっただろうね。
でも、朋香は少しもそんなことを考えなかったみたいだし。
朋香のそういうところはほんとに愛おしくて、……なんでも願いを叶えてあげようって思ったんだよ」
ちゅっ、嬉しそうに口付けされると恥ずかしくなる。
自分は尚一郎が思っているほど、いい人間じゃない。
隠れてこそこそと男と会って、浮気して。
だからこそ、もう二度と、尚一郎を裏切るようなことはしたくない。
「そりゃさ、僕の大事な朋香をこんなに泣かせて、苦しめて、文字通り傷つけた奴なんて、死ぬよりつらい目に遭わせてやろうとは思ったけどね」
尚一郎は笑っているが、冗談に聞こえないから怖い。
それに、やろうと思ったらできそうな気がするからなおさら。
「でも、そんなことしたら、もっと朋香が苦しむからね。
だから、金輪際、朋香に近づかないことを条件に、借金は全部片づけてあげた」
ふふっ、楽しそうに尚一郎が笑う。
褒めて、褒めて。
見えない尻尾がパタパタ振られてる。
「……ありがとうございます」
少しだけ悩んで、そっと尚一郎の頬に口付けした。
途端に、尚一郎が満面の笑みになった。
見えない尻尾はうるさいくらいに振られてる。
尚一郎にしてみれば、雪也を助ける義理も、なんのメリットもない。
むしろ、朋香を誘惑した悪人。
なのに、朋香のためだと助けてくれた。
尚一郎のそういうところは好きだと思う。
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