家庭侵略されています!~魔王の逆異世界スローライフ~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第二章 いつまでこの関係が続くのかとか考えると不安になる

2-4

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その日は、七時過ぎには仕事は終わった。
これなら、ニキを呼びだしてたまには外食とかできるかな?
でも、もう作っていたら悪いし。
だったら、美味しいお酒を買って帰って、まったり映画鑑賞もありかも。
明日は、休みだし。

「お疲れ様でした、お先に失礼します」

「なあ」

うきうきと計画を立てつつ片付けをし、帰りかけたところで肩を叩かれた。

「……はい?」

嫌な予感がしながら振り返る。
後ろには同僚の男性社員が立っていた。

「仕事、頼めない?」

「ええっと……。
私、いまから帰るとこで……」

「明日の会長の講演会で配る粗品のボールペン、発注ミスして裸のまま来ちゃってさ。
箱詰めしないといけないんだよ」

曖昧に笑い断ろうとしてる私を無視して、彼は話を続ける。
そろりと落とした視線の先には、大きな段ボール箱が見えた。

「その……」

だから、私に頼みたい、と。
けれど、今頃?
早い時間なら他にも人がいて手分けしてできた。
きっとギリギリまで確認を怠っていたのだろう。

「緊急事態なのはわかるだろ。
でもオレ、用事があってできないんだ。
だから頼んだ!
桜井だけが頼みなんだ」

彼から拝まれ、ますます断りづらくなった。
ここまで頼られたら嫌とは言えない。

「……はい。
わかりました」

笑顔を作って了承の返事をする。
本当は彼の用事が、合コンだって知っていた。
私はただ、都合よく仕事を押しつけられたのだってわかっていた。
けれど、頼られると嫌と言えなくなるのが私なのだ。

「それ、持って帰ってやってもいいからな。
テレビでも見ながらやればすぐ終わるだろ。
じゃ、オレ、急ぐからー」

自分のミスだというのに彼は申し訳なさそうな顔など一切せず、明るく帰っていった。

「そう言うならあなたがやればいいじゃない」

いない人間に文句を言ってもしょうがないが、つい口をついて出てくる。
同僚たちは私に頼めば、断らないと思っていた。
事実、私も断れない。

「誰か、手伝って……」

周りを見渡したが、残っていた人からは目が合わないようにさっと顔を逸らされた。
誰だっていまから、余計な仕事なんて抱えたくない。
私の口からはぁーっと重いため息が落ちていった。

「……とりあえず、帰ろ」

抱えた段ボールはずっしりと重かった。
こんなものを持って電車には乗れないので、タクシーしかない。
経費申請なんてできないだろうし、無駄な出費にさらに気が重くなった。

「ただいまー」

「おかえり。
って、なんだそれ?」

帰ってきた私が抱えていた大きな段ボールを見て、ニキが怪訝そうな顔になる。
でもすぐに、持ってくれた。

「仕事の内職作業。
ごはん食べてからやる」

「ふぅん。
さっさと着替えてこい、今日はアクアパッツァだ」

「わかったー」

寝室に向かう私の背中に、ニキが声をかけてくる。
惜しいな、仕事がなければキンキンに冷やした白ワインを開けるところなのに。

食事をそそくさと終わらせ、段ボール箱を開けた。
予想どおり、大量のボールペンと組み立て前の箱が入っている。
これを全部箱詰めって、どれだけかかるんだろう?
なんて考えているあいだにも手を動かさなければ終わらない。

「仕事って、それ?」

「そう」

同僚に言われたからではないが、適当な映画を流しながら作業する。

「俺も手伝おうか?」

「いいの?」

キッチンの片付けが終わったニキは、私の横に腰を下ろした。

「てか、手伝わないと終わらないだろ、これ」

「うっ。
よろしくお願いします」

言われたとおりなので一瞬、言葉に詰まる。
すぐにニキも手を伸ばし、作業をはじめた。

映画をチラ見しながら作業を続ける。
しかし、やってもやってもなかなか終わりが見えてこない。

「なあ」

「なに?」

「これは苺がひとりでやる仕事か?」

問われて、びくりと手が止まる。
彼に言われなくたってわかっている、これはできる人で分担してやるべき仕事だって。

「他にやる人がいないから、私がやるの」

やらなければ誰かが困る。
なら、できる人がいないなら、私がやるだけだ。
それに、頼られるのは嬉しい……はず、だ。

「苺の会社には苺しかいないのか」

「……いる、けど」

でも、みんな忙しくて。
手が回らないから、私が。

「じゃあなんで苺ばかり、こんなに仕事してるんだ?」

「それは……」

淡々としたニキの声は私を責めている。
俯いて、唇を噛みしめた。

「私はそれだけ、頼られているの。
頼られたら断れないじゃない」

それでも顔を上げ、強がってみせる。
本当はわかっている、自分は都合よく仕事を押しつけられているだけだって。
けど、だから?

「はぁーっ……」

少しのあいだ私の顔を見つめたあと、ニキは重いため息を吐き出した。
おかげで身体が、びくりと震える。

「苺のそういうところ、いいところだけど悪いところだ」

困ったように笑い、ニキが私の頭を柔らかくくしゃくしゃと撫でる。

「苺は人から頼られたら、断れないのは知っている。
だから俺も、追い出せなかった」

「うっ」

ニヤリとニキが笑う。
事実なだけになにも言えなかった。

「でも、無理なことは無理って言っていいんだ」

真剣な目で彼が私を見る。
本当に言っていいの?
それで、頼ってきた人は困らない?
……断った私は、失望されない?
そんな私の不安を感じ取ったのか、ニキは黙って力強く頷いた。

「絶対に苺じゃなきゃいけない、なんてことは世の中そんなにない。
だからやれる人がやればいいだけだ。
苺ひとりが負担する必要はない」

彼の言うことは正しい。
そのとおりだと思う。
しかし会社ではそれが通じない場合がある。
現に、ニキだって。

「苺が無理だからできないって言うのに文句を言うヤツとは付き合わなくていい。
会社全体がそうなら辞めろ。
苺ひとりくらい、俺が養ってやる」

強い決意で、彼の目は揺るがない。
その目を見ていたら、気持ちが緩んだ。

「……ありがとう、ニキ」

浮かんできた涙は見られたくなくて、甘えるようにその胸に額を預ける。

「これからは、断るようにする。
それで居心地悪くなったら、そのときはよろしく」

「おう、まかせとけ」

ニキに抱き締められ、ずっと私の中で淀んでいた重い気持ちを吐き出した。
頼られるのは嬉しいと、ずっと自分に言い聞かせていた。
彼らにとって都合のいい人間でしかないのはわかっていたが、気づかないフリをしていた。
でも、私は間違っていたんだな。

「でもこれはやってしまわないといけないから、頑張ろう」

「そうだな」

顔を見合わせて笑いあう。
残りは、まだまだある、先は長そうだ。

作業をしながらニキは、携帯でちょこちょこなにかやっていた。

「ねえ。
なにしてるの?」

別に浮気とか心配していない……とも。
けれど何事にもいつも真剣な彼が作業の手を中断させてまでやっているのは気になった。

「ちょっとな」

なんでもないようにニキは笑っているが、怪しすぎる。

「やることあるなら別に、無理して手伝ってくれなくていいんだよ?」

「なに言ってるんだ、俺が手伝わなきゃ終わらないだろうが」

「あいたっ」

ニキが私の額を軽く弾く。

「ほら、さっさと手を動かせ?
少しでも早く終わらせて寝るぞ」

「うん……」

渋々、また手を動かす。
隠し事をされるのはちょっと傷つくな……。
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