結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第四章 素敵な旦那様

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翌日は私たちが出した条件から不動産屋さんが探してくれた物件を見に行った。
といっても、私からは「できるだけ小さい家」以外に条件はなかったけれど。

「……あのさ」

まず、通されたリビングから庭を見て、ため息が漏れる。

「なに?」

私に声をかけられ、不動産屋さんから説明を受けていた矢崎くんは振り返った。

「池が、あるんだけど」

広い庭には錦鯉が棲んでいそうな立派な池があり、その傍らには松まで生えている。

「なんだ、池が不満か?」

私の隣に立って掃き出し窓を開け、矢崎くんは庭を見た。

「普通の家には池なんてないんだよ!」

「祖父ちゃんちにはあるが?」

全力でツッコんだが、さらりとかわされる。

「そりゃ、会長の家ならあるかもしれないけど……」

なにせ戦前は財閥に属していた会社なのだ、会長の家が池付き大豪邸だったとしても驚かない。
でも、これは私たちの家の話なのだ。

「私はこぢんまりとしたお家がいいと言ったはずですが?」

わざと敬語で、矢崎くんに詰め寄ったものの。

「だからこぢんまりとした家にしたが?」

なにを聞かれているのかわからないというふうに、眼鏡の奥で彼が何度か瞬きをする。
それをなんともいえない気持ちで見ていた。
あれか、矢崎くんの家の基準は、会長の家なのか。
だとしたら仕方な……くなーい!

「これは豪邸の部類だよ、豪邸の!」

和モダンの家は間取りこそ4LDKとファミリータイプとしては普通だが、リビングだけで十人以上呼んでパーティができるんじゃないかというほど広い。

「矢崎くんの実家だって、こんなに広くないでしょう!?」

「これくらいだが?」

「は?」

さらりと返され、思わず変な声が出た。
〝普通よりも少し裕福〟って言ってなかったっけ?
矢崎くんの〝普通〟ってどういうレベルなんだろう……?

「……もー、いい」

これは考えても無駄なのだ。
矢崎くんにとってこの家を借りるくらい、軽いみたいだし。

「なんだ、不満なのか。
だったら別の家を探してもらうか」

「……もっと小さい家でお願いできますかね?」

「これでも小さいほうなんだけどな……」

矢崎くんは盛んに首を捻っていて、もう疲れてきた。
それに普通の建て売りより若干大きいくらいを提案しても、今度は矢崎くんから不満が出そうだし。

「……ちなみにここの家賃、いくら?
あ、いや、今住んでるタワマンとどれくらい違うの?」

具体的な金額を聞いたって彼のことだから教えてくれないだろうし、彼にとってどれくらいの負担なのかも私にはわからない。
なら、現状との違いで把握したほうがわかりやすそうだ。

「あんまり変わらない……?」

不動産屋さんが矢崎くんに近づき、手に持つファイルを見せている。
きっと、家賃を確認したのだろう。

「というか若干、安いな」

ありがとうと矢崎くんが不動産屋さんに頷く。

「そっかー……」

家賃がほぼ現状維持ならばいいような気もするが、それよりもここよりも賃料が高いというあのマンションはいったいいくらで借りているのか考えると恐ろしくなった。

「うん、じゃあいいや」

矢崎くんにとって住む場所が変わるだけで出ていくお金は変わらないのなら、彼の好みにあう家に住めばいい。
私の希望は家の大きさしかなかったわけだしね。

「ここにしようよ」

「いいのか?」

私の同意が得られ、ぱーっと彼の顔が輝く。
それを見て、苦笑いしてしまう。

「だって矢崎くん、気に入ってるみたいだし。
だったらここにしようよ」

「純華!」

「うわっ!」

いきなり矢崎くんに抱きつかれ、短く悲鳴が漏れた。

「ありがとう、純華ー!」

「えっ、ステーイ!
ステイだよ!」

さらにキスまでされそうになって、慌てて止めた。

不動産屋で今日できる手続きをしてしまう。
手続きさえ終わればすぐにでも住めると言われたものの。

「再来週はイベントだから、それまでは避けたいかな」

今抱えているイベントの仕事と並行して引っ越し作業はつらい。

「あー、俺としては早く引っ越したいけど、純華が大変なのは困るもんなー」

意外とあっさりと矢崎くんが承知してくれる。
そんなわけで引っ越しはイベント翌週末に決まった。
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