結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第七章 最初で最後の旅行

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昼食を食べ終わり、まったりとする。

「せっかくプールがあって海にも出られるのに、水着がないもんなー」

前もって言ってくれれば、準備していたのだ。
でも、どこに行くのかは秘密って教えてくれなかったし。
残念だ。

「水着?
あるぞ」

アイスコーヒーのグラスを置き、矢崎くんが悪戯っぽく笑う。

「うそっ!?」

「こんなロケーションで、俺が準備してないとかあると思う?」

なぜか彼は得意げだが、私の分まで用意しているとか思わないよ、普通。

「寝室に……」

そこまで言って、なにか思い出したかのように矢崎くんが止まった。

「あ、いや、持ってくるから脱衣所で着替えたらいい」

やましいことでもあるのか、彼の視線は定まらず、せわしなく動いている。

「なにか、隠してるの?」

口端がぴくぴくと引き攣る。
あれは絶対、ろくでもないことだ。

「ちょっと待て、純華!」

矢崎くんの制止を振り切り、二階へと駆け上がる。
ここかと当たりをつけた部屋を開けて、固まった。

「……なにこれ」

ベッドの上には赤バラの花びらでハートが描かれ、さらには夜の雰囲気を演出するようにか、キャンドルライトも置かれている。
どう見ても新婚、しかも初夜仕様だ。

「あー、あとで片付けておくつもりだったのに……」

追いかけてきた矢崎くんが、気まずそうに花びらのハートを崩す。

「なんか祖父ちゃんのテンションが上がったのと、依頼を受けた管理人が悪ノリしたっぽくってさ……」

矢崎くんがやったんじゃないのだけは理解した。
しかし。

「なんで会長のテンションが上がるのよ?」

「誰と行くのか聞かれたから、近いうちに紹介したい人って答えたんだよなー。
それで」

「はぁ……」

それは仕方ない……のか?

「誰とか、どんな人とか、そんな話もしたの?」

私の名前を聞いたところで、会長はきっと気づかない。
そのために父は離婚し、私たちから離れたのだ。
だからなんの問題もなく、今の会社に入れた。

「いや。
紹介したい人としか言ってない」

それでも、矢崎くんの答えを聞いて、少しだけほっとした。

矢崎くんが準備してくれていたのは、白の、オフショルダー水着だった。
胸回りのフリルは可愛い。

「ど、どうかな?」

自分は洗面所で着替え、リビングで待っていた彼の前におずおずと出る。

「可愛い……!」

私を見た途端いきなり携帯をかまえ、矢崎くんはバシバシ写真を撮り出した。

「えっ、ちょっ、……ストーップ!」

「えーっ」

止められて彼はかなり不満そうだが。

「水着の写真を撮られるのは、ヤダ」

「なんでだよ?
こんなに可愛い純華、画像で残しておきたいに決まってるだろ」

「はぁ……」

なんかめっちゃ力説されたけれど、そんなに?

「SNSとかにアップしないし、絶対誰にも見せない。
というか水着の純華とか俺以外のヤツが見るのは許さん」

誰にも見せないというのは安心だが、なんか後半、独占欲がダダ漏れになっていませんか?

「これは俺がひとりで楽しむ用だから、心配するな」

力強く言い切られたが、それはそれでなんかヤダ。

「というわけで、もっと撮らせろ」

「ちょっ、まっ……!」

言うが早いか、また矢崎くんが写真を撮り出す。
遊んでいると思ったのか、イブキまで寄ってきた。
水着姿を撮られるのはなんか恥ずかしいが、誰にも見せないというし、矢崎くんも楽しそうだからいいか。

せっかくなので海に出て遊ぶ。
この広いビーチが私たちだけのものなんて贅沢、あっていいのかな。
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