21 / 64
第四章 家族にとっての私
4-4
宝飾店を出たあとは、少し早いが彪夏さん行きつけの寿司屋で、約束どおりお寿司を買ってくれた。
「健太たち、絶対喜びます」
スーパーの半額お寿司でもお祭り騒ぎなのだ。
こんなの見たらまた、踊っちゃうかも。
「そうか。
健太たちが喜んでくれると俺も嬉しいんだよなー」
楽しそうに彪夏さんは笑っている。
それがいいなとちょっと思っていた。
「ただいまー」
「大トロ様がいらっしゃったぞ!」
「……は?」
ドアを開けると同時に健太と真が飛び出てきた。
「大トロ様!
大トロ様!」
真は受け取った寿司桶を御神輿よろしく頭上に捧げ持ち、部屋の中へと入っていく。
「ちょっと!
落とさないでよね!」
「すみません、兄と弟が」
さすがに今日は巧も苦笑いしている。
「いや、あそこまで喜んでもらえて、寿司も本望だろう」
彪夏さんは真面目な顔で頷いているが、お寿司にそんな感情があるんだろうか……?
「清ちゃん、彪夏さん、いらっしゃい」
今日は真由さんが台所に立っていた。
お寿司にあわせてお吸い物を作っていてくれたみたいだ。
「真由さん、私がやるよ」
「あらそう?」
彼女から鍋を引き継ぎ、お椀に注いでいく。
今日は巧の勉強机である折りたたみのテーブルも置いて、スペースを広げてあった。
おかげで部屋はさらに狭いが、襖を開ければ隣の部屋と続き間になるのだ。
問題はない。
「彪夏にぃも一緒に食べていってください!」
今日も健太が彪夏さんの肩を押し、無理矢理座らせていた。
「じゃあ、ごちそうになるよ」
笑いながら彪夏さんは座ったが、お寿司を買ったのは彼で私たちがごちそうになるほうですが?
「はいはい、持っていってー」
台所から各々、お椀を持っていかせる。
私も彪夏さんの分とふたつお椀を持っていき、彼の隣に座った。
「どうぞ」
「ありがとう」
ふと、こんな具がカイワレだけのお吸い物を彼に出していいのだろうかとか考えたが、知らないフリをしておこう。
ふたつの寿司桶の片方は、……大トロで埋め尽くされていた。
「えっと……彪夏さん?
いくらなんでもこれは……」
「そうか?
喜んでいるみたいだが?」
「彪夏にぃ!
これが大トロ?
大トロ?
オレ、初めて食べるー!」
「こら真、行儀悪い!」
真はテーブルに手をついてぴょんぴょん飛び跳ねている。
「すみません、弟が」
「いや、いい。
俺もあれくらいの頃はああだった」
「はぁ……?」
半ズボンを穿き、膝に絆創膏を貼ってはしゃぐ、子供の彪夏さんを想像しようとしたができなかった。
だっていいところの坊ちゃんで落ち着いているイメージしかないんだもの。
「じゃあ。
ありがたくお寿司をいただきます!」
「いただきます!」
勢いよく皆が手をあわせ、お寿司に箸を延ばす。
上三人はもちろん、大トロだ。
咀嚼する僅かなあいだ、静かになったかと思ったら。
「うっめー!」
例に漏れず真の雄叫びが上がる。
「えっ?
溶けた、溶けたよ?
ネタだけじゃなくご飯も溶けたよ?」
健太も興奮冷めやらぬ様子で、お寿司と彪夏さんのあいだに視線を何往復もさせた。
「これが本物の寿司……」
巧にいたっては感動して、目尻に涙すら浮かんでいた。
「大袈裟だよ。
望はなに、食べようか?」
いつものスーパーのお寿司とは様子が違い、望は戸惑っているようだ。
とはいえ、頼みづらくて言わなかったからたぶんわさび入っているし、そうなると望が食べられるのは限られちゃうな……。
「望のはこっちだ」
傍らに置いてあった小さなパックを、彪夏さんは望の前に置いた。
「サビ抜きにしてもらったから問題ないだろ」
照れくさそうに人差し指でぽりぽりと彪夏さんが頬を掻く。
望用もちゃんと、大トロ多めにしてあった。
「ありがとうございます!」
まさか、そんな気を遣ってくれるなんて思ってもいなかった。
彪夏さんって本当にいい人だな。
「望、ほら。
彪夏おにいちゃんがわさび抜きにしてくれたって」
「ありがとう、ひゅうがおにぃちゃん!」
「お、おう!」
望からキラキラ笑顔を向けられ、彪夏さんの顔はほのかに赤くなっていた。
「健太たち、絶対喜びます」
スーパーの半額お寿司でもお祭り騒ぎなのだ。
こんなの見たらまた、踊っちゃうかも。
「そうか。
健太たちが喜んでくれると俺も嬉しいんだよなー」
楽しそうに彪夏さんは笑っている。
それがいいなとちょっと思っていた。
「ただいまー」
「大トロ様がいらっしゃったぞ!」
「……は?」
ドアを開けると同時に健太と真が飛び出てきた。
「大トロ様!
大トロ様!」
真は受け取った寿司桶を御神輿よろしく頭上に捧げ持ち、部屋の中へと入っていく。
「ちょっと!
落とさないでよね!」
「すみません、兄と弟が」
さすがに今日は巧も苦笑いしている。
「いや、あそこまで喜んでもらえて、寿司も本望だろう」
彪夏さんは真面目な顔で頷いているが、お寿司にそんな感情があるんだろうか……?
「清ちゃん、彪夏さん、いらっしゃい」
今日は真由さんが台所に立っていた。
お寿司にあわせてお吸い物を作っていてくれたみたいだ。
「真由さん、私がやるよ」
「あらそう?」
彼女から鍋を引き継ぎ、お椀に注いでいく。
今日は巧の勉強机である折りたたみのテーブルも置いて、スペースを広げてあった。
おかげで部屋はさらに狭いが、襖を開ければ隣の部屋と続き間になるのだ。
問題はない。
「彪夏にぃも一緒に食べていってください!」
今日も健太が彪夏さんの肩を押し、無理矢理座らせていた。
「じゃあ、ごちそうになるよ」
笑いながら彪夏さんは座ったが、お寿司を買ったのは彼で私たちがごちそうになるほうですが?
「はいはい、持っていってー」
台所から各々、お椀を持っていかせる。
私も彪夏さんの分とふたつお椀を持っていき、彼の隣に座った。
「どうぞ」
「ありがとう」
ふと、こんな具がカイワレだけのお吸い物を彼に出していいのだろうかとか考えたが、知らないフリをしておこう。
ふたつの寿司桶の片方は、……大トロで埋め尽くされていた。
「えっと……彪夏さん?
いくらなんでもこれは……」
「そうか?
喜んでいるみたいだが?」
「彪夏にぃ!
これが大トロ?
大トロ?
オレ、初めて食べるー!」
「こら真、行儀悪い!」
真はテーブルに手をついてぴょんぴょん飛び跳ねている。
「すみません、弟が」
「いや、いい。
俺もあれくらいの頃はああだった」
「はぁ……?」
半ズボンを穿き、膝に絆創膏を貼ってはしゃぐ、子供の彪夏さんを想像しようとしたができなかった。
だっていいところの坊ちゃんで落ち着いているイメージしかないんだもの。
「じゃあ。
ありがたくお寿司をいただきます!」
「いただきます!」
勢いよく皆が手をあわせ、お寿司に箸を延ばす。
上三人はもちろん、大トロだ。
咀嚼する僅かなあいだ、静かになったかと思ったら。
「うっめー!」
例に漏れず真の雄叫びが上がる。
「えっ?
溶けた、溶けたよ?
ネタだけじゃなくご飯も溶けたよ?」
健太も興奮冷めやらぬ様子で、お寿司と彪夏さんのあいだに視線を何往復もさせた。
「これが本物の寿司……」
巧にいたっては感動して、目尻に涙すら浮かんでいた。
「大袈裟だよ。
望はなに、食べようか?」
いつものスーパーのお寿司とは様子が違い、望は戸惑っているようだ。
とはいえ、頼みづらくて言わなかったからたぶんわさび入っているし、そうなると望が食べられるのは限られちゃうな……。
「望のはこっちだ」
傍らに置いてあった小さなパックを、彪夏さんは望の前に置いた。
「サビ抜きにしてもらったから問題ないだろ」
照れくさそうに人差し指でぽりぽりと彪夏さんが頬を掻く。
望用もちゃんと、大トロ多めにしてあった。
「ありがとうございます!」
まさか、そんな気を遣ってくれるなんて思ってもいなかった。
彪夏さんって本当にいい人だな。
「望、ほら。
彪夏おにいちゃんがわさび抜きにしてくれたって」
「ありがとう、ひゅうがおにぃちゃん!」
「お、おう!」
望からキラキラ笑顔を向けられ、彪夏さんの顔はほのかに赤くなっていた。
あなたにおすすめの小説
あなたと恋に落ちるまで~御曹司は、一途に私に恋をする~
けいこ
恋愛
カフェも併設されたオシャレなパン屋で働く私は、大好きなパンに囲まれて幸せな日々を送っていた。
ただ…
トラウマを抱え、恋愛が上手く出来ない私。
誰かを好きになりたいのに傷つくのが怖いって言う恋愛こじらせ女子。
いや…もう女子と言える年齢ではない。
キラキラドキドキした恋愛はしたい…
結婚もしなきゃいけないと…思ってはいる25歳。
最近、パン屋に来てくれるようになったスーツ姿のイケメン過ぎる男性。
彼が百貨店などを幅広く経営する榊グループの社長で御曹司とわかり、店のみんなが騒ぎ出して…
そんな人が、
『「杏」のパンを、時々会社に配達してもらいたい』
だなんて、私を指名してくれて…
そして…
スーパーで買ったイチゴを落としてしまったバカな私を、必死に走って追いかけ、届けてくれた20歳の可愛い系イケメン君には、
『今度、一緒にテーマパーク行って下さい。この…メロンパンと塩パンとカフェオレのお礼したいから』
って、誘われた…
いったい私に何が起こっているの?
パン屋に出入りする同年齢の爽やかイケメン、パン屋の明るい美人店長、バイトの可愛い女の子…
たくさんの個性溢れる人々に関わる中で、私の平凡過ぎる毎日が変わっていくのがわかる。
誰かを思いっきり好きになって…
甘えてみても…いいですか?
※after story別作品で公開中(同じタイトル)
美しき造船王は愛の海に彼女を誘う
花里 美佐
恋愛
★神崎 蓮 32歳 神崎造船副社長
『玲瓏皇子』の異名を持つ美しき御曹司。
ノースサイド出身のセレブリティ
×
☆清水 さくら 23歳 名取フラワーズ社員
名取フラワーズの社員だが、理由があって
伯父の花屋『ブラッサムフラワー』で今は働いている。
恋愛に不器用な仕事人間のセレブ男性が
花屋の女性の夢を応援し始めた。
最初は喧嘩をしながら、ふたりはお互いを認め合って惹かれていく。
不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
翼 うみ
恋愛
父の会社を立て直す交換条件のため、ほぼ家族に身売りされた形で関東最大級の極道・桜花組の次期組長に嫁入りしたジェシカ。しかし母を亡くして以降、義母と義妹に虐げられていたジェシカは実家を出られるなら、と前向きだった。夫となる和仁には「君を愛することはない」と冷たく突き放される。それでもジェシカは傷つくことはなく、自分にできることを探して楽しんでいた。
和仁には辛い過去がありそれ故に誰のことも愛さないと決めていたが、純真で健気なジェシカに段々と惹かれてゆき――。
政略結婚から始まる溺愛シンデレラストーリー。
憧れのあなたとの再会は私の運命を変えました~ハッピーウェディングは御曹司との偽装恋愛から始まる~
けいこ
恋愛
15歳のまだ子どもだった私を励まし続けてくれた家庭教師の「千隼先生」。
私は密かに先生に「憧れ」ていた。
でもこれは、恋心じゃなくただの「憧れ」。
そう思って生きてきたのに、10年の月日が過ぎ去って25歳になった私は、再び「千隼先生」に出会ってしまった。
久しぶりに会った先生は、男性なのにとんでもなく美しい顔立ちで、ありえない程の大人の魅力と色気をまとってた。
まるで人気モデルのような文句のつけようもないスタイルで、その姿は周りを魅了して止まない。
しかも、高級ホテルなどを世界展開する日本有数の大企業「晴月グループ」の御曹司だったなんて…
ウエディングプランナーとして働く私と、一緒に仕事をしている仲間達との関係、そして、家族の絆…
様々な人間関係の中で進んでいく新しい展開は、毎日何が起こってるのかわからないくらい目まぐるしくて。
『僕達の再会は…本当の奇跡だ。里桜ちゃんとの出会いを僕は大切にしたいと思ってる』
「憧れ」のままの存在だったはずの先生との再会。
気づけば「千隼先生」に偽装恋愛の相手を頼まれて…
ねえ、この出会いに何か意味はあるの?
本当に…「奇跡」なの?
それとも…
晴月グループ
LUNA BLUホテル東京ベイ 経営企画部長
晴月 千隼(はづき ちはや) 30歳
×
LUNA BLUホテル東京ベイ
ウエディングプランナー
優木 里桜(ゆうき りお) 25歳
うららかな春の到来と共に、今、2人の止まった時間がキラキラと鮮やかに動き出す。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
フリーランスエンジニアの優しすぎる無償の愛
咲妃-saki-
恋愛
26歳OLの木崎茉莉は人生のどん底にいた。上手くいかないことに慣れ、心を凍らせることで自分を守る毎日に絶望した茉莉は、雨の夜に思わず人生の終わりを願ってしまう。そんな茉莉に手を差し伸べたかっこいい彼。茉莉は、なぜか無償の愛のような優しさをくれる不思議な男性に少しずつ救われ、前を向いていく。けれど、疑ってしまうほど親切な彼には、親切であり続ける理由があって……。雨の夜の出会いがもたらした、優しくも切ない物語。
【完結】あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―
七転び八起き
恋愛
『借金を返済する為に働いていたラウンジに現れたのは、勤務先の副社長だった。
彼から出された取引、それは『専属』になる事だった。』
実家の借金返済のため、昼は会社員、夜はラウンジ嬢として働く優美。
ある夜、一人でグラスを傾ける謎めいた男性客に指名される。
口数は少ないけれど、なぜか心に残る人だった。
「また来る」
そう言い残して去った彼。
しかし翌日、会社に現れたのは、なんと店に来た彼で、勤務先の副社長の河内だった。
「俺専属の嬢になって欲しい」
ラウンジで働いている事を秘密にする代わりに出された取引。
突然の取引提案に戸惑う優美。
しかし借金に追われる現状では、断る選択肢はなかった。
恋愛経験ゼロの優美と、完璧に見えて不器用な副社長。
立場も境遇も違う二人が紡ぐラブストーリー。
手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】
まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と…
「Ninagawa Queen's Hotel」
若きホテル王 蜷川朱鷺
妹 蜷川美鳥
人気美容家 佐井友理奈
「オークワイナリー」
国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介
血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…?
華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。