清貧秘書はガラスの靴をぶん投げる

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

文字の大きさ
22 / 64
第四章 家族にとっての私

4-5

こんなに食べきれるんだろうかと思っていたお寿司は、あっというまになくなった。

「腹いっぱい……」

はぁっと健太が、ため息をつく。

「ひゅうがおにぃちゃん、ひこうきかいたよ!」

「おお、そうか」

彪夏さんは望を膝の上にのせ、彼が描く絵を見ている。

「上手いけど、赤にしないか?」

望の描いた飛行機は青色だ。

「なんで?」

不思議そうに望が彪夏さんの顔をのぞき込む。

「お兄ちゃんの会社の飛行機は赤だからな。
赤に塗ってくれると嬉しいな」

我がチェリーエアラインは〝チェリー〟の名と同じくチェリーレッドの機体を運用している。
彪夏さんも社長らしく、やはり他社よりも自社飛行機を描いてほしいようだ。

「あっ、そうだね!
おにいちゃんからもらったひこうき、あかだった!」

もらったキーホルダーを思い出したのか、赤のクレヨンを握って新たな飛行機を望が描きだす。
ふたりはまるで親子みたいで、微笑ましい。

「そうだ兄さん。
バイトの話、どうするんだよ?」

てきぱきとゴミをまとめおわり、巧は健太の隣に腰を下ろした。

「どうすっかなー。
金は欲しいけどあそこの店長、感じ悪いしなー」

嫌そうに健太が顔をしかめる。

「バイトって?」

高校生になったらバイトをするとは聞いていた。
しかし、勤務先は姉としては吟味したい。

「たまに行くコンビニあるじゃん?
あそこ、いつもバイト募集してるんだけどさ」

「それで応募してみようかな、と」

「ああ、あそこねー」

スーパーが閉まっている時間帯に、緊急事態で行くことがあるコンビニだとすぐにわかった。
お客にすら愛想笑いどころかむすっとしている店長は確かに、感じが悪い。
それに、常時バイト募集というのも気にかかった。

「時給はいくらになってた?」

彪夏さんが話に加わってくる。

「ええっと……」

巧から金額を聞いて、彪夏さんが厳しい顔になった。

「やめたほうがいい。
いつもバイトを募集しているってことはそれだけ、長続きしないってことだ。
しかも時給が最低賃金。
ろくなところじゃないと断言できる」

「そっか……」

がっくりとふたりの肩が落ちる。
早くお金を稼いで家計を楽にしたいというのは切実な思いだけに、そうなるだろう。

「ほ、ほら?
今でもカツカツだけどなんとかやっていけてるし?
それにお姉ちゃん、給料そこそこ増えたんだよ?
だからそんなに、焦って探さなくても」

「それじゃダメなんだよ!」

大きな声を出した健太が床を力任せに叩き、しんと静まり返った次の瞬間。

「ギャー!
ンギャー、ンギャー!」

驚いた美妃の泣き声が響き渡る。

「あらあら。
大丈夫よー」

真由さんは美妃を抱き上げ、あやしながら部屋を出ていった。

「けんたおにぃちゃん、おこってる……?」

望も怯えたように彪夏さんにしがみついている。

「あ……ごめん」

目の縁を赤く染め、ばつが悪そうに健太が目を逸らす。

「……清ねぇはもう結婚するんだし、いつまでも頼るわけにはいかねぇだろうがよ……」

巧も悔しそうに俯いていて、なんと声をかけていいのかわからなかった。
ここで下手に声をかけても、彼らをさらに意固地にさせるばかりだ。

「俺がバイト先を紹介してやろうか?」

今にも泣きだしそうな望の頭を撫でて宥めながら、彪夏さんが提案してくる。

「ほんとに!?」

これには即、健太も巧も食いついた。

「ああ。
系列の会社でいいなら紹介してやる」

「やったー!
……って、ちょっと待って。
それって彪夏さんの義弟って、特別扱いされたりしないか?
そういうのはちょっとヤダなー」

喜んだもの束の間、健太が真剣に悩みだす。

「僕は反対に、配慮されたいけどね。
勤務時間とか休みとか。
急に望と美妃を迎えに行かなきゃいけないときとかあるし。
配慮してくれるんだったら少しくらい、嫌味とは言われても平気」

反対に巧は、我が弟ながらしたたかだ。

「そうだな!
弟たちのためだったら少しくらい、我慢するか!」

吹っ切ったのか顔を上げた健太は、明るい顔になっていた。

「そういうわけで彪夏にぃ、よろしくお願いします!」

ふたり揃って勢いよく、彪夏さんに頭を下げる。

「任せておけ。
履歴書書けたら清子に預けてくれるか?」

「わかった」

本当に嬉しそうにふたりが頷く。
彪夏さんに任せておけば安心だと思うと同時に。
さっきの健太の言葉は、私はこの家族では異分子だと言われたような気がして淋しかった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたと恋に落ちるまで~御曹司は、一途に私に恋をする~

けいこ
恋愛
カフェも併設されたオシャレなパン屋で働く私は、大好きなパンに囲まれて幸せな日々を送っていた。 ただ… トラウマを抱え、恋愛が上手く出来ない私。 誰かを好きになりたいのに傷つくのが怖いって言う恋愛こじらせ女子。 いや…もう女子と言える年齢ではない。 キラキラドキドキした恋愛はしたい… 結婚もしなきゃいけないと…思ってはいる25歳。 最近、パン屋に来てくれるようになったスーツ姿のイケメン過ぎる男性。 彼が百貨店などを幅広く経営する榊グループの社長で御曹司とわかり、店のみんなが騒ぎ出して… そんな人が、 『「杏」のパンを、時々会社に配達してもらいたい』 だなんて、私を指名してくれて… そして… スーパーで買ったイチゴを落としてしまったバカな私を、必死に走って追いかけ、届けてくれた20歳の可愛い系イケメン君には、 『今度、一緒にテーマパーク行って下さい。この…メロンパンと塩パンとカフェオレのお礼したいから』 って、誘われた… いったい私に何が起こっているの? パン屋に出入りする同年齢の爽やかイケメン、パン屋の明るい美人店長、バイトの可愛い女の子… たくさんの個性溢れる人々に関わる中で、私の平凡過ぎる毎日が変わっていくのがわかる。 誰かを思いっきり好きになって… 甘えてみても…いいですか? ※after story別作品で公開中(同じタイトル)

美しき造船王は愛の海に彼女を誘う

花里 美佐
恋愛
★神崎 蓮 32歳 神崎造船副社長 『玲瓏皇子』の異名を持つ美しき御曹司。 ノースサイド出身のセレブリティ × ☆清水 さくら 23歳 名取フラワーズ社員 名取フラワーズの社員だが、理由があって 伯父の花屋『ブラッサムフラワー』で今は働いている。 恋愛に不器用な仕事人間のセレブ男性が 花屋の女性の夢を応援し始めた。 最初は喧嘩をしながら、ふたりはお互いを認め合って惹かれていく。

不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。

翼 うみ
恋愛
父の会社を立て直す交換条件のため、ほぼ家族に身売りされた形で関東最大級の極道・桜花組の次期組長に嫁入りしたジェシカ。しかし母を亡くして以降、義母と義妹に虐げられていたジェシカは実家を出られるなら、と前向きだった。夫となる和仁には「君を愛することはない」と冷たく突き放される。それでもジェシカは傷つくことはなく、自分にできることを探して楽しんでいた。 和仁には辛い過去がありそれ故に誰のことも愛さないと決めていたが、純真で健気なジェシカに段々と惹かれてゆき――。 政略結婚から始まる溺愛シンデレラストーリー。

憧れのあなたとの再会は私の運命を変えました~ハッピーウェディングは御曹司との偽装恋愛から始まる~

けいこ
恋愛
15歳のまだ子どもだった私を励まし続けてくれた家庭教師の「千隼先生」。 私は密かに先生に「憧れ」ていた。 でもこれは、恋心じゃなくただの「憧れ」。 そう思って生きてきたのに、10年の月日が過ぎ去って25歳になった私は、再び「千隼先生」に出会ってしまった。 久しぶりに会った先生は、男性なのにとんでもなく美しい顔立ちで、ありえない程の大人の魅力と色気をまとってた。 まるで人気モデルのような文句のつけようもないスタイルで、その姿は周りを魅了して止まない。 しかも、高級ホテルなどを世界展開する日本有数の大企業「晴月グループ」の御曹司だったなんて… ウエディングプランナーとして働く私と、一緒に仕事をしている仲間達との関係、そして、家族の絆… 様々な人間関係の中で進んでいく新しい展開は、毎日何が起こってるのかわからないくらい目まぐるしくて。 『僕達の再会は…本当の奇跡だ。里桜ちゃんとの出会いを僕は大切にしたいと思ってる』 「憧れ」のままの存在だったはずの先生との再会。 気づけば「千隼先生」に偽装恋愛の相手を頼まれて… ねえ、この出会いに何か意味はあるの? 本当に…「奇跡」なの? それとも… 晴月グループ LUNA BLUホテル東京ベイ 経営企画部長 晴月 千隼(はづき ちはや) 30歳 × LUNA BLUホテル東京ベイ ウエディングプランナー 優木 里桜(ゆうき りお) 25歳 うららかな春の到来と共に、今、2人の止まった時間がキラキラと鮮やかに動き出す。

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

フリーランスエンジニアの優しすぎる無償の愛

咲妃-saki-
恋愛
26歳OLの木崎茉莉は人生のどん底にいた。上手くいかないことに慣れ、心を凍らせることで自分を守る毎日に絶望した茉莉は、雨の夜に思わず人生の終わりを願ってしまう。そんな茉莉に手を差し伸べたかっこいい彼。茉莉は、なぜか無償の愛のような優しさをくれる不思議な男性に少しずつ救われ、前を向いていく。けれど、疑ってしまうほど親切な彼には、親切であり続ける理由があって……。雨の夜の出会いがもたらした、優しくも切ない物語。

【完結】あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―

七転び八起き
恋愛
『借金を返済する為に働いていたラウンジに現れたのは、勤務先の副社長だった。 彼から出された取引、それは『専属』になる事だった。』 実家の借金返済のため、昼は会社員、夜はラウンジ嬢として働く優美。 ある夜、一人でグラスを傾ける謎めいた男性客に指名される。 口数は少ないけれど、なぜか心に残る人だった。 「また来る」 そう言い残して去った彼。 しかし翌日、会社に現れたのは、なんと店に来た彼で、勤務先の副社長の河内だった。 「俺専属の嬢になって欲しい」 ラウンジで働いている事を秘密にする代わりに出された取引。 突然の取引提案に戸惑う優美。 しかし借金に追われる現状では、断る選択肢はなかった。 恋愛経験ゼロの優美と、完璧に見えて不器用な副社長。 立場も境遇も違う二人が紡ぐラブストーリー。

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】

まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と… 「Ninagawa Queen's Hotel」 若きホテル王 蜷川朱鷺  妹     蜷川美鳥 人気美容家 佐井友理奈 「オークワイナリー」 国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介 血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…? 華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。