清貧秘書はガラスの靴をぶん投げる

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第七章 私を恋に落としてどうする気なんだろう

7-6

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その言葉どおり、抱っこやベビーカーでOKなアトラクションに彪夏さんは案内してくれた。
望はもちろんだが、美妃も楽しそうだ。

「そういえばあの子たち、お金持ってないんですが大丈夫なんですか……?」

途中、気になって彪夏さんに尋ねる。
アトラクションはフリーだから大丈夫だが、買い食いはできないはず。

「ああ。
あとで請求回してもらうようにしているから、大丈夫だ。
健太たちにも伝えたしな」

……ここぞとばかりにいろいろ食べたりしてなきゃいいんだけど。
まあ、うちの弟たちに限ってないか。

一時間ほど回ったところで真由さんは疲れてきたので、レストランで美妃と一緒に待っていてもらう。

「望は疲れてない?」

「ううん!
それよりもはやく、つぎにいこうよ!」

興奮してアドレナリン大放出中なのか、手を引っ張る望にまったく疲れた様子はない。
これは車に乗った途端、寝そうだなー。

それからさらに一時間くらい回り、真由さんの待っているレストランに全員集合して、遅い夕食となる。

「満足したか?」

「もう、大満足!」

元気いっぱいの真の隣で、兄ふたりはげんなりした顔をしていた。

「同じ絶叫系のアトラクションに三回も乗る?
しかも、毎回席を替えて」

「ずっとゲラゲラ笑ってるし、勘弁してくれ……」

……それは、ご愁傷様。
私も勘弁してほしいかも。

デザートまでしっかり食べさせてもらい、あとはお買い物タイムだと彪夏さんに言われた。

「金は気にしなくていい、好きなだけ選んでこい」

「ほんとに!?」

大喜びでショップに向かう弟たちを苦笑いで見送る。

「俺たちも選ぶか。
今日は迷惑かけたし、嶋谷たちに買って帰らないとな」

ぽりぽりと人差し指で彪夏さんが頬を掻く。

「そうですね」

私たちも弟たちのあとを追った。

かなり経ってショップから出てきた弟たちの手には持ちきれないほどのグッズ……などなく。

「なあ。
本当にそれだけでいいのか?」

「いいの、いいの!」

笑っている真が選んだのは早速着ているTシャツだけだったし、健太も巧も似たり寄ったりだった。
ベビーカーでもう眠っている美妃の隣には、小さなウサミちゃんのぬいぐるみが置かれている。

「ひゅうがおにぃちゃん、ありがとう!」

お礼を言う望が抱いている、ウッサーくんの大きなぬいぐるみが唯一、高そうだ。

「遠慮しなくていいんだぞ?」

彪夏さんは困惑気味だが、そうなるだろう。

「いいんだよ、これで。
いくら彪夏にぃが金持ちだからって、なんでも買うのはなんか違うだろ」

健太も巧も、真も笑って、本当に言い弟たちだと思う。

「お前たちが俺の義弟で、ほんとに誇らしいよ」

「えっ、うわっ、やめろよ!」

彪夏さんに頭を撫で回されて弟たちが嫌がっていて、私も笑っていた。

そろそろ帰ろうかというタイミングになって、――花火が、上がった。

「すげっ、花火だ!」

「綺麗ねー」

みんなで、ウッサー城の周りで上がる花火を見上げる。

「清子」

「はい?」

唐突に彪夏さんから名を呼ばれ、その顔を見上げた。

「俺は清子を……」

その先はひときわ大きな花火の音でかき消された。
弟たちの騒ぐ声が、聞こえない。
ゆっくりと近づき、唇を重ねて離れていく彼の顔をただ見つめる。
眼鏡の向こう、艶やかに濡れる瞳が私を見ていた。

「今、なんて……」

「ドキドキしたか?」

張り詰めた空気を壊すかのように、彪夏さんがにぱっと笑う。

「……ドキドキなんてしません」

怒ったように顔を背ける。
嘘だ、心臓はこれ以上ないほど速い鼓動を刻んできた。

「んー、これ以上ないほどのシチュエーションだから、これで恋に落ちると思ったんだけどな」

彼に促され、歩きだす。
気を遣って離れてくれたのか、遠くから弟たちが呼んでいた。

「落ちませんよ。
反対に彪夏さんは落ちたんですか?」

「んー、内緒」

長い人差し指を唇に当て、悪戯っぽく彼が片目をつぶってみせる。
この人は私に本気になったりしないのに、どうして私を好きにさせたいのだろう。
そんなの、私が虚しくなるだけじゃないか。
現に今、私ひとりだけこんなにときめいてしまって虚しい。

「彪夏にぃ、もう望が寝そう!」

「おお、それは大変だな!
いくぞ、清子」

「はい」

それでも彪夏さんが私に手を差し出してくれるのが嬉しくて、その手に自分の手をのせた。
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