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未来の話をしようよ<ユキト視点>
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幼馴染でしかなかったサキに恋愛感情を抱いたのは、夏祭りの夜の事だった。
可愛いとは思っていた。でもそれは妹に対するようなものだった。
姉妹でお揃いの浴衣を着ている事が嬉しくて、サキは走った。走って、転けて、泣くかと思ったのに泣かなくて。
必死に泣くのを堪えてた。
下駄の鼻緒が切れていたから、それを直してあげた。祖母が以前やっていたのを、見様見真似でやってみただけだった。
それなのに、サキは目をキラキラさせて、目にいっぱいに溜めていた筈の涙はもう何処にもなくて。
"ユキト兄ちゃんは何でも出来るんだね!"
その笑顔に心臓を鷲掴みされた。こんな事でと言われるかも知れない。
オレはサキに恋をした。
サキに好かれたくて、兄以上になりたくて。
そんなオレを嘲笑うように、幼馴染のタケルがサキに接し始めた時には、腹立たしくて、悔しくて堪らなかった。
年齢の所為でどうしても空いてしまう距離がもどかしかった。
サキがタケルに好意を抱いても、タケルはその気持ちに応えようとはしなかった。それで分かった。タケルがオレに対する劣等感を克服する為にサキを使っている事に。
殴りたい、殺したい、何でも良い。タケルを徹底的に傷付けたいと思った。
オレへの歪んだ感情をオレに向けるならまだしも、関係のないサキに向けた事は絶対に許し難かった。
そんなオレを止めたのはサキの姉のユリカだった。自他共に認めるシスコンのユリカが、サキの気持ちを利用するタケルを許してる事が信じられなかった。
問い詰めるオレに、ユリカは言った。
"許してる訳じゃないの。でもサキの気持ちがあるうちは何を言っても無駄だから"
そう言うユリカの目は、怒りを抑え込んでいた。
サキ以外と告白されるままに付き合った。他に好きな人がいると断っても、それでも良いと言うから。
自分なりに大切にはしていた。でも、自分に向かわない気持ちに傷付いて、彼女達はオレから去った。
三人ぐらいだろうか、そうして背中を見送ったのは。
それからはいくら何と言われようと誰とも付き合わなかった。煩わしいとも思ったし、オレの気持ちがサキに向かい続けている限り、誰と付き合った所で同じ事の繰り返しでしかないから。
五年に及ぶオレの片想いは、予想外の形で終わりを告げた。サキがタケルに告白してフラれた。
腹立たしさと、嬉しさと、期待と──何とも形容しがたい感情が胸の中で渦巻いているままに、告白をした。
戸惑いながらも、オレを受け入れてくれたサキに、何度も言った。
好きだと。
キスもした。
何もかも自分の物にしたい欲望は尽きないけど、焦って台無しにしたくない。なによりサキはまだ中3だった。
やっと、やっとオレの手に落ちて来た彼女を、絶対に逃がしはしない。
何度もタケルに思い知らせた。
自分が何をしたのか、何を手にしなかったのか、分からせたくて。
傷付いたサキの自尊心を回復させたかったし、タケルに見せつけた。
口にもした。
無関係のサキを傷付けた事を、絶対に許しはしない。これからも。
親の店でバイトをしていたら、ユリカがやって来て言った。
「タケル、男子校受けるらしいよ」
「へぇ」
知ってる。サキから聞いたから。
「大好きなエリカちゃんにもフラれたしね」
「そう」
それも知ってる。
素っ気なく返すオレに、ユリカは冷たい視線を向ける。
「随分サッパリした対応じゃありませんか、ユキトさん。五年もサキコを見守り続けた戦友に冷たくありませんかね?」
ユリカの前にコーヒーの入ったカップを置く。
「タケルに助け舟を出したの、ユリカでしょ?」
オレの言葉にユリカは瞬きすると、へらりと笑った。
「バレてたかー」
でもさ、と、こっちが何も言わないのにユリカは言い訳を始めた。
「窮鼠猫を噛むって言うかさ、逃げ道は用意しておいた方が良いって言うじゃない?」
ね? と可愛く言って誤魔化そうとしてる。
とは言え、サキの周りをうろつかれるのは嫌なのは事実だった。その為にサキを女子大に行かせたいぐらいには。
「未来のお義姉さまがそうおっしゃるのであれば」
「ちょっ!」
勢いよくユリカが立ち上がる。
「気が早くない?!」
「オレ達、もう二十歳過ぎてるからね。サキが大学卒業する時にはアラサーだから」
気が早いのは事実だけど。
「子供は大学卒業まで待つけど、大学在学中でも結婚は許されると思うんだよね」
「はぁっ?!」
今にも掴みかかりそうな顔をしてるユリカを見て、耐え切れずに吹き出してしまった。
冗談だった事にようやく気付いたらしく、ユリカはカウンターを叩く。その弾みでカップのコーヒーが激しく揺れる。
「ユリカは本当、サキの事になると冗談が通じないね」
「うるっさい!」
「冗談はさておいても、そうなれるようには努力するよ」
それは、本当に。
サキの世界はどんどん広がっていくから。オレを選んでもらえるように、努力しなければならないのは事実。
頰にキスをすると、サキが恥ずかしそうに微笑んだ。
「ユキはキス魔だよね」
「そうみたいだね」
「そうみたいって」
「サキと付き合い始めて、自分がそういう人間だって知ったから」
素直に答えると、サキの顔が真っ赤になった。
可愛い。本当に。
唇にキスする。
「大好きだよ、サキ」
あの時からずっと、サキだけを見つめてきた。
これからもそうだろうと思う。
不意に唇に柔らかいものが触れた。
サキだった。
初めて、サキからされたキスに、顔が熱くなる。
「私も」
赤くなってるだろう顔をサキに見られたくなくて、抱き締める。
「いつか結婚しようね、サキ」
「はっ?! 結婚?!」
腕の中でバタバタ暴れるサキをきつく抱き締めて、髪にキスする。
そっとオレの背中にサキの手が回されて、腕の中のサキが頷いた。
しあわせで、人は殺せるかも、と思った。
可愛いとは思っていた。でもそれは妹に対するようなものだった。
姉妹でお揃いの浴衣を着ている事が嬉しくて、サキは走った。走って、転けて、泣くかと思ったのに泣かなくて。
必死に泣くのを堪えてた。
下駄の鼻緒が切れていたから、それを直してあげた。祖母が以前やっていたのを、見様見真似でやってみただけだった。
それなのに、サキは目をキラキラさせて、目にいっぱいに溜めていた筈の涙はもう何処にもなくて。
"ユキト兄ちゃんは何でも出来るんだね!"
その笑顔に心臓を鷲掴みされた。こんな事でと言われるかも知れない。
オレはサキに恋をした。
サキに好かれたくて、兄以上になりたくて。
そんなオレを嘲笑うように、幼馴染のタケルがサキに接し始めた時には、腹立たしくて、悔しくて堪らなかった。
年齢の所為でどうしても空いてしまう距離がもどかしかった。
サキがタケルに好意を抱いても、タケルはその気持ちに応えようとはしなかった。それで分かった。タケルがオレに対する劣等感を克服する為にサキを使っている事に。
殴りたい、殺したい、何でも良い。タケルを徹底的に傷付けたいと思った。
オレへの歪んだ感情をオレに向けるならまだしも、関係のないサキに向けた事は絶対に許し難かった。
そんなオレを止めたのはサキの姉のユリカだった。自他共に認めるシスコンのユリカが、サキの気持ちを利用するタケルを許してる事が信じられなかった。
問い詰めるオレに、ユリカは言った。
"許してる訳じゃないの。でもサキの気持ちがあるうちは何を言っても無駄だから"
そう言うユリカの目は、怒りを抑え込んでいた。
サキ以外と告白されるままに付き合った。他に好きな人がいると断っても、それでも良いと言うから。
自分なりに大切にはしていた。でも、自分に向かわない気持ちに傷付いて、彼女達はオレから去った。
三人ぐらいだろうか、そうして背中を見送ったのは。
それからはいくら何と言われようと誰とも付き合わなかった。煩わしいとも思ったし、オレの気持ちがサキに向かい続けている限り、誰と付き合った所で同じ事の繰り返しでしかないから。
五年に及ぶオレの片想いは、予想外の形で終わりを告げた。サキがタケルに告白してフラれた。
腹立たしさと、嬉しさと、期待と──何とも形容しがたい感情が胸の中で渦巻いているままに、告白をした。
戸惑いながらも、オレを受け入れてくれたサキに、何度も言った。
好きだと。
キスもした。
何もかも自分の物にしたい欲望は尽きないけど、焦って台無しにしたくない。なによりサキはまだ中3だった。
やっと、やっとオレの手に落ちて来た彼女を、絶対に逃がしはしない。
何度もタケルに思い知らせた。
自分が何をしたのか、何を手にしなかったのか、分からせたくて。
傷付いたサキの自尊心を回復させたかったし、タケルに見せつけた。
口にもした。
無関係のサキを傷付けた事を、絶対に許しはしない。これからも。
親の店でバイトをしていたら、ユリカがやって来て言った。
「タケル、男子校受けるらしいよ」
「へぇ」
知ってる。サキから聞いたから。
「大好きなエリカちゃんにもフラれたしね」
「そう」
それも知ってる。
素っ気なく返すオレに、ユリカは冷たい視線を向ける。
「随分サッパリした対応じゃありませんか、ユキトさん。五年もサキコを見守り続けた戦友に冷たくありませんかね?」
ユリカの前にコーヒーの入ったカップを置く。
「タケルに助け舟を出したの、ユリカでしょ?」
オレの言葉にユリカは瞬きすると、へらりと笑った。
「バレてたかー」
でもさ、と、こっちが何も言わないのにユリカは言い訳を始めた。
「窮鼠猫を噛むって言うかさ、逃げ道は用意しておいた方が良いって言うじゃない?」
ね? と可愛く言って誤魔化そうとしてる。
とは言え、サキの周りをうろつかれるのは嫌なのは事実だった。その為にサキを女子大に行かせたいぐらいには。
「未来のお義姉さまがそうおっしゃるのであれば」
「ちょっ!」
勢いよくユリカが立ち上がる。
「気が早くない?!」
「オレ達、もう二十歳過ぎてるからね。サキが大学卒業する時にはアラサーだから」
気が早いのは事実だけど。
「子供は大学卒業まで待つけど、大学在学中でも結婚は許されると思うんだよね」
「はぁっ?!」
今にも掴みかかりそうな顔をしてるユリカを見て、耐え切れずに吹き出してしまった。
冗談だった事にようやく気付いたらしく、ユリカはカウンターを叩く。その弾みでカップのコーヒーが激しく揺れる。
「ユリカは本当、サキの事になると冗談が通じないね」
「うるっさい!」
「冗談はさておいても、そうなれるようには努力するよ」
それは、本当に。
サキの世界はどんどん広がっていくから。オレを選んでもらえるように、努力しなければならないのは事実。
頰にキスをすると、サキが恥ずかしそうに微笑んだ。
「ユキはキス魔だよね」
「そうみたいだね」
「そうみたいって」
「サキと付き合い始めて、自分がそういう人間だって知ったから」
素直に答えると、サキの顔が真っ赤になった。
可愛い。本当に。
唇にキスする。
「大好きだよ、サキ」
あの時からずっと、サキだけを見つめてきた。
これからもそうだろうと思う。
不意に唇に柔らかいものが触れた。
サキだった。
初めて、サキからされたキスに、顔が熱くなる。
「私も」
赤くなってるだろう顔をサキに見られたくなくて、抱き締める。
「いつか結婚しようね、サキ」
「はっ?! 結婚?!」
腕の中でバタバタ暴れるサキをきつく抱き締めて、髪にキスする。
そっとオレの背中にサキの手が回されて、腕の中のサキが頷いた。
しあわせで、人は殺せるかも、と思った。
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