君の筋肉に恋してる

黛 ちまた

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閑話 人が大変なのにコイバナとか許せないんだけど?!

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 私は佐藤歩美。異世界に召喚されて聖女やってる。
 ラノベにあるような、魔王倒せとか無茶振りされなかったのは良かったけど、このフィルモア王国全てを守る結界の張り直しが聖女の役目とかで、ずーっと部屋に閉じこもって祈ってる。
 召喚されてから二週間、ずっと! そればっか!
 ご飯も味気ないし! それ以外は至れり尽くせりだけど!
 廊下を歩いてる時に、庭に見た事のある顔があった。
 私と一緒に、って言うか私のおまけとして召喚されちゃったオバさんが、召喚された場所にいた、ゴッツゴツの騎士と楽しそうにお茶してて!
 こっちは朝から晩までひたすら祈り続けてるってのに、何いちゃついてんだコラ!!
 私だって彼氏欲しいのに! まだ人生で一度も彼氏出来た事ないのに!
 腹が立った私は、王太子の元に突撃した。
 聖女としての役目は果たすとしても、もうちょっと私の環境を改善しろ! そう言うつもりで。

「リサ殿は巻き込まれたとは言え、自分だけ何もしないのは申し訳ないと言って、自発的に私の手伝いをしてくれている。聖女であるアユミ殿の事も気にかけていたよ。何も手伝えなくて申し訳ないとね」

 そう言って机の上で重ねられてタワーになっちゃってる書類を見る。

 ……そんなの、知らないし。

「で、でも、庭でいちゃついてたし!」

 私の侍女だっていう女の人が、相手は騎士団長だって教えてくれた。
 ラノベ的には、あの騎士団長は私の護衛とかすべきなんじゃないの?

「あぁ、あの二人は婚姻を結ぶからね」

「えっ、オバさん、結婚するの?!」

 日本に戻んないってコト?! まぁ、あの地味さならこっちでオトコ見つけた方が良いのかもだけど。

「不自由をさせて大変申し訳ない。物質的なものであれば出来る限り希望に添うように努力する」

「じゃあ、私の周りにイケメンを揃えて欲しい」

「アユミ殿もこの世界に残るのか?」

「帰ります! でも!」

 全く関係無い世界の為に祈ってるんだから、それぐらいしてもらっても罰当たらないと思うし。
 返事をせず、王太子は私をじっと見た後、息を吐く。

「つまり、リサ殿が騎士団長と仲睦まじくしているのが許せない、と言う事かな?」

 は?! そうじゃなくって! いや、それもあるけど!
 何で分かんないかな!

「アユミ殿への待遇は王族と同じものだ。それ以上を望まれているのだから、二人の仲を引き裂くしかない」

 ……お、王族と同じ扱いとか、知らないし!

「そうじゃなくて! 私もイケメンを侍らせたい!」

 遠回しに言っても伝わらないから、ハッキリ言っちゃったよ!

「いずれ帰る貴女に侍ったとしたら、その者達は二度と婚姻出来ない」

 え?

「これまでもこちらに残った聖女と婚姻を結んだ者はいる。聖女に侍った者もいる。その際は、聖女の相手をした者として生涯独身をつらぬく」

 なんかそれ、いいかも?
 ずっと私のものって事でしょ?

「そうなった男の大半は、自死している」

 それまでのイライラとか浮ついた気持ちが一瞬で消える。なんで死ぬの? 死ななくても良くない? 酷くない? 聖女の相手なんだから名誉ある事なんじゃないの?

「聖女の相手となる人間は貴族の男であり、大概婚約者がいる。その仲を本人の意思を無視して引き裂き、生涯を独身として過ごさせる。名誉はあるかも知れないが、はっきり言って閑職に回される。出世は見込めない」

「だ、だけど! 全く関係ないのにこっちに呼ばれた訳だし!」

 その通りだ、聖女殿、と王子は頷く。

「だからこそ、こちらとしても聖女が望めば断れない。貴女の望む者を侍らせよう。ただし、聖女としての力を失わせない為に男女の関係になる事はないし、彼らの心が貴女の物になるかどうかは約束出来ない」

 なによそれ。脅さないでよ!
 それでも望んだら私が悪者で、私だけ大変なだけじゃん。
 私の気持ちを見透かしたように王子が言った。

「聖女殿への精神的負担は大きい。だから、今すぐ聖女を放棄して帰還してもらっても構わない」

「へ?」

「これまでこちらに訪れた聖女の望みを見ていて、どのような人物が聖女としてやって来るか不明だったのでな。
期間的な余裕は持たせている。今すぐアユミ殿に元の世界にお戻りいただいても問題ない。新たな聖女を召喚する」

 ため息を吐く王子。
 コイツ……!

「物で聖女殿の気持ちを引くのは恥ずべき事と、無事に結界が張れた時のこちらからのお礼については明言していなかったが、聖女殿が身に付けているもの、手に持っている物はあちらに持って帰れる」

「……もし、今帰ったら?」

「何も渡すものはない。そうだな、それも申し訳ないから、いくらか金貨をお渡しするぐらいか」

 圧倒的に自分が不利だって事は分かる。自分に突然降ってわいた理不尽さに怒りたかったし、慰めてもらいたかった。でも、それを軽くあしらわれて、イライラする。

「我等は、なるべく早くに貴女に元の世界に戻っていただけるように最善を尽くす。貴女がここに残りたいと思われたなら、それに見合うだけの物を用意すると約束する。
それがこちらの都合で呼び出した者の責任だと考えている」

 言ってる事はムカつくけど、間違った事は言ってないのは分かる。
 何とか言い返したくて、目の前の芸能人よりも整った王子を見ていたら、別の考えが浮かんできた。
 そうだ、ラノベで王子と聖女がくっ付くとかあった!

「じゃあ、王子と結婚したい」

「それは出来ない相談だ」

 はぁ?!
 なんでもするって言った!

「私はこの国を継ぐ者として、個人の思惑では婚姻を結べない」

「聖女との結婚なら、ハクがつくんじゃないの?!」

「残念ながら聖女は何度でも呼べる」

「~~~~っ!!」

 ムカつく……っ!

 ドアがノックされて、オバさんが入って来た。婚約者の騎士団長はいない。

「じゃあ! 騎士団長に私の護衛をさせて!」

 オバさんは驚いてる風だ。メガネが厚すぎて目は見えないけど、口の形が驚いてた。その様子にちょっとスッキリする。

「それは構わないが、聖女殿、あと3週間で結界が張り直せない場合は、帰還していただく」

「は?」

 王子は私の方を見ずに、書類を見てる。何処までも失礼な奴っ!

「ここに留めておけるのはひと月程と計算している。本人にそのつもりが無いのに、ここにいてもらってもお互いにとって不幸なだけだろう」

 王子はオバさんを見た。

「そう言う訳だが、リサ、構わないか?」

 は? 何で呼び捨て? もしかしてこの二人ってそう言う関係なの?!

「大切なお役目ですから、異論ございません」

「物分かりの良い義妹いもうとで助かるよ」

 ナニそれ、嫌味?!
 って言うか今、イモウトって言った?

「オバさん、王子の妹なの?」

 言ってからオバさん呼びしてしまった事に気が付いたけど、謝らないからね! 怒り出すかと思ってオバさんを睨んでいたら、オバさんはため息を吐いた。

「JKからしたら、私なんてオバさんよね」

 ノーダメージ!

「騎士団長との婚姻に当たって、後見人が必要になって、王太子殿下がなって下さったのよ。だから一応王女扱いなの、これでも」

 王女に?! なんかその方が良さそう、と思った時、王子が言った。

「王族は、知力、武力、容姿、そのいずれかが秀でていなければならない。そして国の為に己を捨てなければならない時も多々ある。勿論、己の望む相手との婚姻も不可能だ」

 このオバさんにはそれがあるってコトで、容姿の筈ないし、知力だよね、きっと。
 ジロジロ見ていたら、オバさんがお茶飲む? と聞いてきた。
 なにイキナリ?!

「上手くいかなくてイライラしてるんじゃない?」

 図星だった。
 思わず、うっ、と言ってしまった。

「殿下、こちらの十代とあちらの十代は似て非なるものです。あちらの十代は庇護対象であり、成長途中です」

 まぁ、いくつになっても馬鹿なのはいるけど……と小さく呟くオバさん。

「突然連れて来られて、聖女だなんだと担がれ、役目を果たそうにも上手くいかなくて、イライラしてるのかな、って思ったんだけど、違った? 私ならイライラするけど」

 八つ当たりで婚約者を取り上げようとした私の気持ちを、誰よりも分かってくれるオバさん。
 そうだよ、この人だって巻き込まれたのに。
 おまけの癖に私より恵まれてるのが許せなくなって。
 でも、今謝らなかったら、駄目だってコトは分かる。

「ゴメンなさい……」

 頭を下げると、オバさんはニコっと笑った。メガネが分厚過ぎて顔が見えない。
 オバさんが淹れてくれた紅茶を飲んだら、ホッとした。
 ボロボロ涙が溢れてきて止まらなかった。

「やだ、曇るわ」

 オバさんの分厚いメガネが曇ってた。思わず笑った私は、次の瞬間、信じられないものを見た。
 メガネを外したオバさんは、ものすっごい美人だった。
 えっ、こんな美人だったの?!
 私を見てニコっと微笑んだオバさん……いえ、オネーサマに見惚れてしまう。
 これは……惚れてまうやろ。



 オネーサマことリサさんはオバさん呼びしたコトも全然怒ってなかった。
 私は確かにリサさんより若いけど、リサさんと同じ年齢になってもこんな美人になれるとは思えなかった。
 要するに、相手にされてないなって感じた。
 小娘が何か言ってるぐらいにしか感じないと思う。それぐらい美人なのだ。芸能人かと思った。
 頭も凄い良いみたいで、元の世界で勤めてた会社は私も知ってる有名なトコだった。
 なんかもう、全部敵わない感じだった。
 騎士団長に襲われたとか、弱みを握られでもして婚約したのかと思ったら、逆だった。押してるのはリサさんだった。しかも激しく。
 あの、ゴツゴツしたガチムチマッチョが、理想なのだそうだ。
 ……残念美人。それがリサさんに対する感想だった。
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