魂呑み込む、死神の歌 〜青春を生きる死神は図らずも人間を虜にする〜

仁乃戀

文字の大きさ
8 / 45
第一章

常温の水

しおりを挟む
 部屋に入るなり口を開いたのは、さっきまで一言も喋ってなかった椎名だった。

 「ね、私最初に歌いたいんだけど……いいかな?」

 興奮しているのか頬を赤らめている椎名に対して、智和はさっきの俺と同じようにぽかんとしている。
 俺は正直なところ歌うつもりはないし、ちょうどいいと思って彼女を促す。

 「まぁ、いいんじゃないか?」
 「いい!? ありがとう!」
 「!?」

 俺の発言にお礼を言う彼女は、勢いよく俺の両手を握ってぐっと体を寄せてくる。
 なんというか…………無防備だな……。

 「お、お前…………」
 「いや、智和、誤解だ。 俺は何もしてない」
 「あの淡白なお前も、成長したんだなぁ……!」
 「おいもう一回言ってみろ」
 「あの淡白なお前も……」
 「わかったわかった俺が悪かったよ」

 智和と普段通りの会話をしているうちに椎名が離れ、すぐに曲を入れる。
 今の彼女は全く内気な様子を感じさせない、まさに青春を生きる女子高生といった雰囲気だ。
 何故突然こうなったのかは理解できないが…………彼女なりに理由があるのだろう。

 「そうだ。 俺喉渇いたから、飲み物取ってくる。 みんなの分も持ってくるけど、何が良い?」
 「楽がそう言うの、なんか珍しいな。 俺コーラで」
 「あ、私は水で。 それも常温のやつね。 七海は?」
 「私ですか? ん~……藤崎くんに任せます」
 「え、好き嫌いとかは?」
 「特にありませんし大丈夫です。 それに、人に頼んでいる以上、何が来ても文句は言いません」
 「お、おう……」

 部屋に入るまでとはまるで違った様子を見せる椎名の言葉に少し動揺しつつも、俺は部屋を出る。
 入り口の近くにあるドリンクバーで注文された飲み物を注いでいく。

 「椎名、何が良いかなぁ……」

 こういうとき、『任せる』だとか『なんでもいい』という返答が一番困る。
 彼女の好みを知っていれば良かったのだが、まだ新しいクラスになって少し経っただけだし、智和のような人柄じゃないから関わりが少なく、何も彼女のことは知らない。
 彼女の様子を見れば何を持っていったって文句を言われることはないだろうけど……。
 だめだ、わからん。
 部屋に入って一番に歌いたいと言ったところから考えれば歌うのは多少なりとも好きなんだろうから、ここは無難に水でいくか。
 次は自分で取ってきてもらえばいい話だしな。

 部屋に戻ると、すでに椎名が歌い始めていた。
 うん。
 上手い。
 椎名が歌っているのはボーカロイズの曲だ。
 この曲が流行ったのはかなり前の話になるが、歌詞にストーリー性があって俺も一時期聴いていた。
 タイムリープを繰り返す少年と少女の夏の日の話で、何回繰り返しても死の結末を迎える少女を救うべく、自分の身を犠牲にして彼女を守る、といった話だ。
 少ない文字数で感情も情景も表していて、歌とその歌詞で二重に楽しめるのが売りだ。

 「お待たせ。 椎名、ここに置いとくぞ」
 「え、俺以外みんな水なの……? しょうもないけどなんか疎外感……」
 「些細な反抗として捉えておいてくれ」
 「わざとだったのかよ!」
 「あくまで不可抗力だ」

 ボーカロイズは間奏が短い曲が多い。
 この曲もそれに含まれる。
 短い間奏の間に、飲み物を飲もうとした椎名が机の上に置いてある水を見て少し驚いたような顔をしたのが見えた。
 まあ普通ならわざわざドリンクバーで水なんて入れないよな……。
 どうせなら何か味のあるものにすれば良かったと今更ながら思う。

 「あ、悪い」

 俺が短く謝罪の言葉を口にすると、椎名は俺の方を見ずに水を飲み、そのまま続きを歌い始めた。
 変なやつだと思われたか?
 無難とはいえ流石に水を持っていったのは良くなかったか。
 後で遠回しに文句を言われないことを願っておこう。

 「……どうした?」
 「ん? いや、なんでもない……っていうのは嘘になるね。 私が水頼んだとき、不思議に思わなかった?」

 おい、反省会はもう終わったんだから傷をえぐらないでくれよ……。

 「いや、全く」

 そうキッパリと答えると、彼女はなんだか納得したような表情をして、『そっか』とだけ言って椎名の方に目を向ける。

 俺は彼女の表情や言葉に小首を傾げたが、深くは考えなかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...