20 / 45
第二章
ディセプション
しおりを挟む
「ボーカル担当の藤崎です。 ……よろしくお願いします」
丁寧に挨拶をして、気持ちを作る。
初めてのライブは、観にきてくれた生徒がかなり少なかったから、あまり緊張はしなかった。
教室1つ分より少し広い音楽室。
1クラスにも満たない生徒が散っている。
きっと暇潰しか何かなのだろう。
最初に僕を誘ったギター担当の彼は、逆に少し緊張している様子だったけど、僕らが笑顔を見せるとふっと彼の表情も緩む。
そうして始まった初ライブ。
曲は中高生に大人気のものを使った。
ネットに投稿された小説を原作として曲を作るという、今までの音楽とは変わったスタイルで人気を掴んでいる。
最近動画サイトに投稿されたミュージックビデオは初日から急激に再生回数を伸ばしている。
初めてのライブでなるべく多くの人に知ってもらうためには、人気曲のカバーが良い。
オリジナル曲はそもそも僕らにはまだ早いし、練習時間も多くない、という判断だ。
僕は中学生になるまでカラオケというものに行ったことがなかった。
行ったとしても、ほとんど歌うことはない。
人に聞かせるのが恥ずかしかったから。
でも、このライブで僕の考えは完全にひっくり返った。
イントロはボーカルのソロが入る。
ドラムの手助けがないから、手で細かいリズムをとって歌う。
まずはAメロ。
ゆったりと、先走らないように落ち着いて歌う。
原曲のボーカルは女の人だけど、練習のおかげで高音を出すのも楽になった。
Bメロは穏やかだったものが速いテンポに切り替わる。
流すように歌う部分と、単語ごとに切ってはっきりと歌う部分を分ける。
メリハリをつけて歌い、サビにうまく繋げなければならない。
声を徐々に大きくしていく。
それに合わせてぴんと張った感情の弦を、一瞬で断ち切るイメージで、音のない瞬間が生まれる。
その刹那、すぐ目の前で聴いている女の子が目を丸くしたのが見えた。
盛り上げたところで敢えて流れを切る。
僕が提案した、ちょっとしたアレンジに引っかかってくれたみたいだ。
そして1番のサビ…………と思わせて、原曲では2番のサビとして使われている部分を歌う。
本来歌うべきサビから1つキーを下げたもの。
原作小説では主人公の考えが変わった重要な場面。
ここから、物語はクライマックスに入る。
大サビ。
今度は大きく上に転調。
物語の結末を飾る、優しさと力強さを同居させた、儚く悲しいメロディに合わせて全力で喉を震わせる。
正直このあたりの音は声が出ないけど、少し無理をすれば出せる、ギリギリのライン。
音楽室の広い空間に目を向けると、みんなの目には光が宿っていて、真剣に音楽を聴いてくれていることが伝わってくる。
ラストがうまく決められれば、注目してもらえるはず。
楽しい音楽が、もっと楽しくなる。
最後まで歌いきったその瞬間、空いていた窓から拍手の音とともに涼しい風が吹き抜けていく。
深々と頭を下げると、また一段と拍手の音は大きくなったように聞こえて。
その音を聴いた僕は、音楽に騙されていった。
丁寧に挨拶をして、気持ちを作る。
初めてのライブは、観にきてくれた生徒がかなり少なかったから、あまり緊張はしなかった。
教室1つ分より少し広い音楽室。
1クラスにも満たない生徒が散っている。
きっと暇潰しか何かなのだろう。
最初に僕を誘ったギター担当の彼は、逆に少し緊張している様子だったけど、僕らが笑顔を見せるとふっと彼の表情も緩む。
そうして始まった初ライブ。
曲は中高生に大人気のものを使った。
ネットに投稿された小説を原作として曲を作るという、今までの音楽とは変わったスタイルで人気を掴んでいる。
最近動画サイトに投稿されたミュージックビデオは初日から急激に再生回数を伸ばしている。
初めてのライブでなるべく多くの人に知ってもらうためには、人気曲のカバーが良い。
オリジナル曲はそもそも僕らにはまだ早いし、練習時間も多くない、という判断だ。
僕は中学生になるまでカラオケというものに行ったことがなかった。
行ったとしても、ほとんど歌うことはない。
人に聞かせるのが恥ずかしかったから。
でも、このライブで僕の考えは完全にひっくり返った。
イントロはボーカルのソロが入る。
ドラムの手助けがないから、手で細かいリズムをとって歌う。
まずはAメロ。
ゆったりと、先走らないように落ち着いて歌う。
原曲のボーカルは女の人だけど、練習のおかげで高音を出すのも楽になった。
Bメロは穏やかだったものが速いテンポに切り替わる。
流すように歌う部分と、単語ごとに切ってはっきりと歌う部分を分ける。
メリハリをつけて歌い、サビにうまく繋げなければならない。
声を徐々に大きくしていく。
それに合わせてぴんと張った感情の弦を、一瞬で断ち切るイメージで、音のない瞬間が生まれる。
その刹那、すぐ目の前で聴いている女の子が目を丸くしたのが見えた。
盛り上げたところで敢えて流れを切る。
僕が提案した、ちょっとしたアレンジに引っかかってくれたみたいだ。
そして1番のサビ…………と思わせて、原曲では2番のサビとして使われている部分を歌う。
本来歌うべきサビから1つキーを下げたもの。
原作小説では主人公の考えが変わった重要な場面。
ここから、物語はクライマックスに入る。
大サビ。
今度は大きく上に転調。
物語の結末を飾る、優しさと力強さを同居させた、儚く悲しいメロディに合わせて全力で喉を震わせる。
正直このあたりの音は声が出ないけど、少し無理をすれば出せる、ギリギリのライン。
音楽室の広い空間に目を向けると、みんなの目には光が宿っていて、真剣に音楽を聴いてくれていることが伝わってくる。
ラストがうまく決められれば、注目してもらえるはず。
楽しい音楽が、もっと楽しくなる。
最後まで歌いきったその瞬間、空いていた窓から拍手の音とともに涼しい風が吹き抜けていく。
深々と頭を下げると、また一段と拍手の音は大きくなったように聞こえて。
その音を聴いた僕は、音楽に騙されていった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』
まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。
朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。
「ご主人様の笑顔が見たいんです」
その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。
全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!?
甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる