魂呑み込む、死神の歌 〜青春を生きる死神は図らずも人間を虜にする〜

仁乃戀

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第二章

最後の1分

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 「ねえ」
 「何?」
 「昔どこかでボーカルやってたでしょ」

 綾瀬は歌い終わるとすぐに俺に質問をぶつけてきた。
 やけに真剣な顔っていうのが気にかかる。

 「さあ? カラオケで高得点を取る方法なんて今どきインターネットを使えばいくらでも見つかるだろ」
 「それにしてもおかしくない? 凡人が出せる声域じゃないと思うんだけど」
 「本当は地声が高いんだ。 とにかく点数上がったし良かったじゃんか」
 「腑に落ちない……」
 「それに俺はあれだけ棒読みで歌ってるんだし、大して心に響かなかったろ? カラオケが好むものと人間が好むものって実際はかなり違うんだよ」
 「それはそうだけど…………。 ねえ」
 「何だ」

 真剣な眼差しで俺をまっすぐに見つめる。
 話を少しずつ逸らしてうまく撒こうと思ったけど、もう無理か。

 「本気で歌って。 最高点何点?」
 「本気でって言われてもな。 最高点なんて覚えてないし」
 「じゃあ95点超えて」
 「無茶苦茶だ」

 智和と話をするノリで笑顔を作って軽く返答をするも、彼女の表情は固いままだ。
 素直に歌うか。

 どうせやるなら最高点を狙いたい。
 カラオケで点数を出しやすい曲の特徴は主に2点だ。
 1つは音程の変化が激しくなく、自分に合った出しやすい音程の曲であること。
 理由は言うまでもないだろう。
 自分の出せる音域を外れれば点数は引かれる。
 もう1つはリズムが単調で、ゆったりした曲であること。
 ただ、早いテンポの方が乗りやすい人もいるから、ここは人の好みの問題だろう。

 しかし、このご時世だ。
 女性でさえ出すのに苦労する最高音に、平均的な男性の出せる音域から大きく外れた最低音。
 普通ならキーを下げなければまず出ないだろう。

 俺の好きな『66号線』はゆったりしたテンポで音程もそれほど幅が広くないから、無難に曲を入れる。
 中学の頃も何回も歌ってたから、かなりいい点数が出せるはずだ。

 「これでいいよな?」

 いらないとは思うが、綾瀬に確認を入れる。
 何も言わずにこくりと頷くのを見て、俺は集中する。
 やるなら全力で。

 何回も聴いたギターの音。
 歌が先走ることがないように、足で小さくリズムを取っていく。
 今回は棒読みはしない。
 ボーカロイズの曲でもないし、最高点を狙うには表現点も満点を狙う必要があるから、棒読みは無駄だ。

 ゆったりとした入り。
 序盤は声の大きさを控えめに、正確に音を繋いでいく。
 ここは絶対に音程を外せない部分だ。
 また、サビに入るまでで細かい技術点を稼いでいく必要がある。
 短いビブラートを音と音の間に入れていく。
 音の繋がる部分ではフォールやしゃくりを意識して、所々でこぶしを入れて歌に色をつけていく。

 サビに入っても音を走らせない。
 サビは音程よりも音の強弱を意識する。
 音は伸ばしすぎず、短すぎず、程よい長さで切っていく。

 所々で音程の些細なミスはあるが、誤差範囲だ。

 1番が終わって間奏に入ったところでモニターの隅に表示された技術点の一覧を見る。
 ビブラートが21、こぶしが13、フォールとしゃくりが9。
 ……高得点を狙おうとして空回っているのだろうか?
 思ったよりも伸びていない気がする。

 2番も同じような曲調なので、意識するポイントは同じ。
 集中力を最大に高めて声を出す。

 が、1番のときよりも技術点の伸びが薄い。
 やはりブランクがあるからか、想像通りにはいかないらしい。
 これは95点を超えるか怪しいな。

 「ねえ、藤崎」
 「ん?」

 綾瀬の声にモニターから目を離さず反応する。

 「置きにいってるでしょ」
 「…………は?」

 予想外の言葉が聞こえて思わず振り向く。

 「それ全力?」
 「そうだけど」
 「本当に?」
 「本当に」

 どこかに不満な点があるのだろうか?

 「なんか変なところあったか?」
 「いいや、特にない。 というか、私が藤崎に歌について言えるたちじゃないってもう分かったし」
 「そりゃどーも」
 「ただ、1つだけ私は藤崎に勝ってるなって思うところはある」
 「やけに回りくどいな。 どういうことだ?」

 「えっとね…………藤崎さ、歌ってて楽しい?」

 にやにやと人を試すかのような表情に変わった綾瀬の言葉に俺ははっとした。
 楽しいかどうかと聞かれれば、俺はすぐに楽しいと言えるだろうか。
 俺は音楽が嫌い。
 これはただ歌えと言われたから歌っているだけ。
 そう思い込んでいたのか。

 彼女は俺の暗い気持ちに気付いていたんだ。
 一見するとよく出来ているはずだと、俺自身だってそう思う。
 ただ、ビブラートが何だの抑揚が何だの、俺はただ得点のために歌っていて、根底にあるべきものを隠してしまっていた。

 まだ、俺の心の底にその感情は埋まっているのだろうか。
 掘り返すことはできるのだろうか。

 「なるほどな」
 「うん」

 彼女はそれ以上のことは言わなかった。
 俺に彼女の思っていることが伝わったと確信したのだろう。

 間奏が終わり、ラストのサビに入っていく。

 一度静かになって、徐々に大きく、壮大に。

 せめて今はこの一瞬だけでもいいから、あの頃の自分に戻ろう。





 最後の1分。
 俺の心は3年前にタイムスリップした。
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