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第二章
詰み
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「わかってると思うが相手はユースチームだ。 全体的に足元の技術が高く、簡単にボールも渡してくれないだろう。 守備の時には気を張れ。 飛び込むと、そこにできた穴を突いて失点につながる、いいか?」
「「「はいッ」」」
「よし。 今日の練習試合は30分ハーフを2試合行う予定だ。 Aは最初の1試合、BとCは2試合目の前半と後半に分けて出場してもらう。 選手によっては時間が短くなると思うが、強い相手と試合ができる良い機会だ。 成長してこい」
「「「はいッ!!」」」
気合を入れる。
俺はAチームに選ばれてはいるが、おまけのような存在でもあるためスタメンに選ばれることはほとんどなく、今日もいつも通りベンチスタートとなった。
それでもBやCチームにいるよりは試合時間も長い分はマシだ。
存在感の薄い俺に対して、智和は今日もスタメンとして絶対的な存在感を放っている。
10番を背負う彼の姿はまるでピッチの王様であるかのように堂々としていた。
エースナンバーを背負う選手には強靭なメンタルが必要とされるが、彼にとってはそんなメンタルなど全く必要ではないらしく、全く緊張した素振りを見せないどころか飄々としている。
そこも彼の大きなアピールポイントと言えるだろう。
たとえ失点してもチームがすぐに死なないのは彼のお陰と言っても過言ではない。
劣勢に立たされても冷静で、賢いプレーを見せてくれる。
普段の智和とプレー中の智和はまるで別人だ。
合計22人の選手がポジションにつくと、主審として入った相手のコーチの笛が鳴ってマイボールで試合が始まる。
智和のポジションはチームの核となるセンターミッドフィルダーだ。
攻撃参加することが多く、高めのポジションに身を置く。
序盤はどちらのチームも様子を窺っている、そういう印象を受けた。
どちらのチームも攻めてはいるが、決定的なチャンスは生み出せていない。
前半15分は特に試合が動くことはなく、一般的にクーリングブレイクと呼ばれる給水タイムに入る。
彼はいつも通り、真っ直ぐ俺のところに向かってきたから、俺も普段と同じように冷えたボトルを差し出す。
「見た感じどう? わりといい感じ?」
「良くも悪くもいつも通りって感じじゃないか? お前のところにボールが入るとやっぱり安定感が生まれるよ」
「そりゃどうも。 相手は攻撃じゃなくて守備もレベルが高い。 崩すのには相当な労力が要るな」
「前半のうちに2点とか3点獲ってきてくれれば楽になるから、期待してるぞ」
「おう、任された」
にかっと爽やかな笑みを返して彼はピッチに戻っていく。
難しいと口で言っていても、なんだかんだ仕事を果たすのが智和だ。
マイボールのスローインで試合が再開される。
智和はボールを受けるとすぐさま敵陣へ切り込む。
ユースチームにいても全く遜色ないほどのドリブル技術で相手をいとも簡単にかわしていく。
警戒した相手に進路を塞がれ、あえなくバックパスを選択させられる。
しかし、彼の口角は少しばかり上がっていた。
そう、まるで突破口を見つけ、得点を確信したかのように。
前半も残りわずかとなるときまで智和は鳴りを潜めていた。
そろそろ1点が欲しい場面。
ユースチームからしてみれば簡単に得点を奪えるはずだったのだろう、少し焦りが見えていた。
自陣深くで相手のスローイン。
ここで失点すると下手すれば大量失点に繋がる可能性もあるため、防ぎ切りたい場面だ。
ふと、智和がボトルを要求してきたから、プレーが止まっている間に彼にボトルを手渡す。
「前半あと何分くらい?」
彼の言葉に反応してすぐに時計を見る。
「……あと数分だと思う」
俺の言葉を聞いた彼は少し考え込む様子を見せて、ついさっき見せた笑顔よりも一層輝いた表情を作り、俺に返す。
「サンキュ。 じゃ、とりあえず相手に一泡吹かせてくる」
手を振ってピッチに戻る。
試合中だっていうのに、相変わらず呑気な奴だ。
ゴール前の守備を固めて相手の攻撃を防ぎ、前線に留まっていた智和にボールが渡る。
彼がボールを足元に収め、相手ゴールに視線を向けるまでの数瞬で、空気が一変する。
相手の守備は整っていない状態。
智和の前には裏のスペースを狙うフォワードが2人。
絶好のチャンスだと彼も悟ったのだろう、前を向くなりスピードを上げる。
「ディレイッッ」
相手のコーチの声が響く。
ディレイというのは、相手選手とともに後ろに下がることでスピードを落とさせ、攻撃を遅らせる守備戦術のことだ。
しかし、彼はその声が聞こえてもスピードを落とすことなく、むしろスピードをぐんぐん上げていく。
「おい、止めろ!」
相手選手の声が響く。
しかし智和はトップスピードで相手にドリブルを仕掛け、あっという間に抜き去っていく。
それを見て相手も痺れを切らしたのだろう。
フォワードにぴったりとついて並走していたディフェンダーの1人が前に体重移動をし、彼に立ち向かおうとする。
詰みだ。
彼の足元にあったボールが宙を舞う。
そして、俺たちは1点リードで前半を終えた。
「「「はいッ」」」
「よし。 今日の練習試合は30分ハーフを2試合行う予定だ。 Aは最初の1試合、BとCは2試合目の前半と後半に分けて出場してもらう。 選手によっては時間が短くなると思うが、強い相手と試合ができる良い機会だ。 成長してこい」
「「「はいッ!!」」」
気合を入れる。
俺はAチームに選ばれてはいるが、おまけのような存在でもあるためスタメンに選ばれることはほとんどなく、今日もいつも通りベンチスタートとなった。
それでもBやCチームにいるよりは試合時間も長い分はマシだ。
存在感の薄い俺に対して、智和は今日もスタメンとして絶対的な存在感を放っている。
10番を背負う彼の姿はまるでピッチの王様であるかのように堂々としていた。
エースナンバーを背負う選手には強靭なメンタルが必要とされるが、彼にとってはそんなメンタルなど全く必要ではないらしく、全く緊張した素振りを見せないどころか飄々としている。
そこも彼の大きなアピールポイントと言えるだろう。
たとえ失点してもチームがすぐに死なないのは彼のお陰と言っても過言ではない。
劣勢に立たされても冷静で、賢いプレーを見せてくれる。
普段の智和とプレー中の智和はまるで別人だ。
合計22人の選手がポジションにつくと、主審として入った相手のコーチの笛が鳴ってマイボールで試合が始まる。
智和のポジションはチームの核となるセンターミッドフィルダーだ。
攻撃参加することが多く、高めのポジションに身を置く。
序盤はどちらのチームも様子を窺っている、そういう印象を受けた。
どちらのチームも攻めてはいるが、決定的なチャンスは生み出せていない。
前半15分は特に試合が動くことはなく、一般的にクーリングブレイクと呼ばれる給水タイムに入る。
彼はいつも通り、真っ直ぐ俺のところに向かってきたから、俺も普段と同じように冷えたボトルを差し出す。
「見た感じどう? わりといい感じ?」
「良くも悪くもいつも通りって感じじゃないか? お前のところにボールが入るとやっぱり安定感が生まれるよ」
「そりゃどうも。 相手は攻撃じゃなくて守備もレベルが高い。 崩すのには相当な労力が要るな」
「前半のうちに2点とか3点獲ってきてくれれば楽になるから、期待してるぞ」
「おう、任された」
にかっと爽やかな笑みを返して彼はピッチに戻っていく。
難しいと口で言っていても、なんだかんだ仕事を果たすのが智和だ。
マイボールのスローインで試合が再開される。
智和はボールを受けるとすぐさま敵陣へ切り込む。
ユースチームにいても全く遜色ないほどのドリブル技術で相手をいとも簡単にかわしていく。
警戒した相手に進路を塞がれ、あえなくバックパスを選択させられる。
しかし、彼の口角は少しばかり上がっていた。
そう、まるで突破口を見つけ、得点を確信したかのように。
前半も残りわずかとなるときまで智和は鳴りを潜めていた。
そろそろ1点が欲しい場面。
ユースチームからしてみれば簡単に得点を奪えるはずだったのだろう、少し焦りが見えていた。
自陣深くで相手のスローイン。
ここで失点すると下手すれば大量失点に繋がる可能性もあるため、防ぎ切りたい場面だ。
ふと、智和がボトルを要求してきたから、プレーが止まっている間に彼にボトルを手渡す。
「前半あと何分くらい?」
彼の言葉に反応してすぐに時計を見る。
「……あと数分だと思う」
俺の言葉を聞いた彼は少し考え込む様子を見せて、ついさっき見せた笑顔よりも一層輝いた表情を作り、俺に返す。
「サンキュ。 じゃ、とりあえず相手に一泡吹かせてくる」
手を振ってピッチに戻る。
試合中だっていうのに、相変わらず呑気な奴だ。
ゴール前の守備を固めて相手の攻撃を防ぎ、前線に留まっていた智和にボールが渡る。
彼がボールを足元に収め、相手ゴールに視線を向けるまでの数瞬で、空気が一変する。
相手の守備は整っていない状態。
智和の前には裏のスペースを狙うフォワードが2人。
絶好のチャンスだと彼も悟ったのだろう、前を向くなりスピードを上げる。
「ディレイッッ」
相手のコーチの声が響く。
ディレイというのは、相手選手とともに後ろに下がることでスピードを落とさせ、攻撃を遅らせる守備戦術のことだ。
しかし、彼はその声が聞こえてもスピードを落とすことなく、むしろスピードをぐんぐん上げていく。
「おい、止めろ!」
相手選手の声が響く。
しかし智和はトップスピードで相手にドリブルを仕掛け、あっという間に抜き去っていく。
それを見て相手も痺れを切らしたのだろう。
フォワードにぴったりとついて並走していたディフェンダーの1人が前に体重移動をし、彼に立ち向かおうとする。
詰みだ。
彼の足元にあったボールが宙を舞う。
そして、俺たちは1点リードで前半を終えた。
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