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第一章 曼珠沙華
30話 栄華の夢
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「ベゴニア様、最後に一つだけ聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「いいわよ。さっきの質問にはきちんと答えてあげられなかったし、何でも聞いてちょうだい」
ヒガンバナの真剣な眼差しに応えるように、ベゴニアもしっかりと目線を合わせる。
「私達の存在する理由って何なんでしょうか?」
「・・・もう少し詳しく聞いてもいいかしら?」
ヒガンバナの突拍子のない質問に対し、ベゴニアの発言は至極真っ当で、一見、ヒガンバナを無下にしているように感じるが、むしろ逆で、真剣に答えたいからこその発言であった。
ヒガンバナもその意図を汲み取り、軽く頷くと自身の思いを口に出していく。
「最初は人の姿を与えられ、花を咲かせるためだけの存在だと思っていました。でも、それだけならあんな力なんていらないし、そもそも昆虫騎士団との闘うために与えられた力のように感じるんです」
ヒガンバナの言う、あんな力とは、千紫万紅を使った際の敵を排除するための能力や、個人の戦闘能力についてだ。
まるで、あらかじめ闘うことを前提とした能力が与えられているのはおかしいとヒガンバナは思っていた。
ヒガンバナの言葉を黙って聞くベゴニアは、少し目線を下げ、ヒガンバナに握られた左手を見る。その手から伝わるヒガンバナの手の震えを止めるように、そっと残った右手を添えた後、再び目線を上げ、じっとヒガンバナを見つめ、語り始めた。
「ワタシ達の力は本来、機獣から身を守るために与えられたものなのよ。貴方達はまだ見たことなかったかしらね。確かにそう思うのも無理ないわ。」
「機獣・・・?」
初めて聞く、機獣という単語に戸惑いを見せるヒガンバナ。
「機獣については明日、他の3人も含めてしっかり説明してあげる。もしすぐにでも知りたいのであれば教えてあげるけど・・・貴方が今欲しい答えはそれじゃないわよね?」
ベゴニアの発言に対し、ヒガンバナは小さく頷く。
機獣と呼ばれるものについて知ったとしても、与えられた力の使い道が昆虫騎士団から変わっただけで、ヒガンバナが本当に知りたい答えにはなっていないからだ。
結局、何者かと闘うことだけが自分達の存在意義なのか、それとも何か別の理由があるのかをヒガンバナは知りたかった。
「私達は何の為に生まれ、生きていくのですか?教えて下さい、私達の生きる意味を・・・」
少しの静寂が流れる。
ヒガンバナの不安そうな顔を見たベゴニアは優しく微笑むと、お互いに握られた両手をヒガンバナの胸の前まで持っていく。
「この夜は、栄華の夢。貴方の為に生きなさい・・・」
それがベゴニアの答えだった。
「枯れぬ華はないのよ。貴方もワタシも、いつかは必ず散る時がくる。だからこそ、誰かや何かの為じゃない・・・自分自身がしたい事の為に生きればいい。ヒガンバナ、貴方は何かやりたい事はあるかしら?」
「私のやりたい事・・・」
ベゴニアの問いかけに、ヒガンバナは自身のやりたい事を考えてみるが、すぐには思いつかなった。
少し俯きながら考えるヒガンバナの様子を見て、ベゴニアは諭すように言葉を紡ぐ。
「それを探すのも生きる理由になるわ。貴方はこれから、ここを出て色んな場所を旅する事になる。その中でゆっくり見つければいいのよ。そしてまたここに戻ってきた時、ワタシに教えてちょうだい」
「分かりました・・・!必ず戻ってきてベゴニア様に伝えます!」
「いい返事ね・・・。そろそろ帰りましょう。早く戻ってあの子達に貴方の元気な顔を見せてあげなさい」
ベゴニアはヒガンバナの手を離すと宮殿の方へ歩き始める。
その後を追うようにヒガンバナも足を進める。
ヒガンバナは少し名残り惜しむように後ろをチラリと見ると、鮮やかに咲いたベゴニアの花が、これからの門出を祝うかのように、優しく揺れていた。
「いいわよ。さっきの質問にはきちんと答えてあげられなかったし、何でも聞いてちょうだい」
ヒガンバナの真剣な眼差しに応えるように、ベゴニアもしっかりと目線を合わせる。
「私達の存在する理由って何なんでしょうか?」
「・・・もう少し詳しく聞いてもいいかしら?」
ヒガンバナの突拍子のない質問に対し、ベゴニアの発言は至極真っ当で、一見、ヒガンバナを無下にしているように感じるが、むしろ逆で、真剣に答えたいからこその発言であった。
ヒガンバナもその意図を汲み取り、軽く頷くと自身の思いを口に出していく。
「最初は人の姿を与えられ、花を咲かせるためだけの存在だと思っていました。でも、それだけならあんな力なんていらないし、そもそも昆虫騎士団との闘うために与えられた力のように感じるんです」
ヒガンバナの言う、あんな力とは、千紫万紅を使った際の敵を排除するための能力や、個人の戦闘能力についてだ。
まるで、あらかじめ闘うことを前提とした能力が与えられているのはおかしいとヒガンバナは思っていた。
ヒガンバナの言葉を黙って聞くベゴニアは、少し目線を下げ、ヒガンバナに握られた左手を見る。その手から伝わるヒガンバナの手の震えを止めるように、そっと残った右手を添えた後、再び目線を上げ、じっとヒガンバナを見つめ、語り始めた。
「ワタシ達の力は本来、機獣から身を守るために与えられたものなのよ。貴方達はまだ見たことなかったかしらね。確かにそう思うのも無理ないわ。」
「機獣・・・?」
初めて聞く、機獣という単語に戸惑いを見せるヒガンバナ。
「機獣については明日、他の3人も含めてしっかり説明してあげる。もしすぐにでも知りたいのであれば教えてあげるけど・・・貴方が今欲しい答えはそれじゃないわよね?」
ベゴニアの発言に対し、ヒガンバナは小さく頷く。
機獣と呼ばれるものについて知ったとしても、与えられた力の使い道が昆虫騎士団から変わっただけで、ヒガンバナが本当に知りたい答えにはなっていないからだ。
結局、何者かと闘うことだけが自分達の存在意義なのか、それとも何か別の理由があるのかをヒガンバナは知りたかった。
「私達は何の為に生まれ、生きていくのですか?教えて下さい、私達の生きる意味を・・・」
少しの静寂が流れる。
ヒガンバナの不安そうな顔を見たベゴニアは優しく微笑むと、お互いに握られた両手をヒガンバナの胸の前まで持っていく。
「この夜は、栄華の夢。貴方の為に生きなさい・・・」
それがベゴニアの答えだった。
「枯れぬ華はないのよ。貴方もワタシも、いつかは必ず散る時がくる。だからこそ、誰かや何かの為じゃない・・・自分自身がしたい事の為に生きればいい。ヒガンバナ、貴方は何かやりたい事はあるかしら?」
「私のやりたい事・・・」
ベゴニアの問いかけに、ヒガンバナは自身のやりたい事を考えてみるが、すぐには思いつかなった。
少し俯きながら考えるヒガンバナの様子を見て、ベゴニアは諭すように言葉を紡ぐ。
「それを探すのも生きる理由になるわ。貴方はこれから、ここを出て色んな場所を旅する事になる。その中でゆっくり見つければいいのよ。そしてまたここに戻ってきた時、ワタシに教えてちょうだい」
「分かりました・・・!必ず戻ってきてベゴニア様に伝えます!」
「いい返事ね・・・。そろそろ帰りましょう。早く戻ってあの子達に貴方の元気な顔を見せてあげなさい」
ベゴニアはヒガンバナの手を離すと宮殿の方へ歩き始める。
その後を追うようにヒガンバナも足を進める。
ヒガンバナは少し名残り惜しむように後ろをチラリと見ると、鮮やかに咲いたベゴニアの花が、これからの門出を祝うかのように、優しく揺れていた。
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