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触らせろ
しおりを挟む一緒に寝てくれるまで離れないと、しがみついて駄々を捏ねた結果。
「……こんちゃあ」
部屋から連れ出された私は、パパの腕の中で流れるようにすぎる城の壁を眺め、知らない扉の中へパパとシャドウと共に入った。
私の部屋を出たときから着いてきていたパパの護衛達は、この部屋に到着するまで驚きの表情がおさまることなく、扉の前で待機。
中には先客が二人おり、どちらも初めて見る顔で。とりあえず挨拶をしようと、こんにちはと声を掛けた。
「えぐ可愛い。誰この子。えぐ可愛い。下さい」
壊れるってくらい、机をバンバンと叩く若い男性。目に優しい茶髪に茶色の瞳なのに、頭に生える丸い獣耳が私の目をギンギンにさせ、ちっとも優しくない。触らせろ。
20前後だろうか。いや、もう少し上かな。どうもこの世界の人々は私にとって年齢不詳だ。
今まで見てきた人間の中で一番ガタイがよく、背も高い。もしかしたら2メートルあるかもしれない。
帯剣していることから、騎士の可能性が高い。
「キモイ帰れ」
獣耳男性の肩をグーで殴った、………女性? 男性?
性別不詳の美人さんは、殴った手を痛そうに振りながら軽蔑の表情を獣耳男性に向けた。
目に眩しい水色の髪と瞳。眩しいはずなのに頭に生える兎のような垂れ耳が私の目をギンギンに開かせる。触らせろ。
ローブを羽織っているため、魔法使いだろうか。
パパが私を部屋の真ん中にあるソファに下ろそうとした。されてたまるかと、パパの首にぎゅーっと抱きつく。
「めっでしょ!」
ぷりぷり怒る私とは裏腹に、パパは小さく口で笑った。ソファに下ろす体勢から再度腕の中へ。
よく出来ましたと、頬と頬をくっつけ擦りついた。
パパはさっき獣耳男性が叩いていた机の席へ腰を下ろす。自然とパパの膝の上に座る形となった。
多分、執務室だと思う。真ん中にテーブルとソファがあり、奥にパパが今座っている立派な机。左右にそれより少し小さい机が一つずつ。
てか獣耳男性、皇帝の机をバンバン叩いてたのか。
「その子って、陛下が一番可愛がってる末っ子ちゃんだろ?」
殴られた肩など意に介さず、まるで友達に話すようにパパに問いかける。
だが、パパは聞こえてないかのように無視。
「第二皇子から通信魔導具で末っ子ちゃんが寝込んでるって聞いた瞬間、帰り道馬で爆走した原因ってこの子?」
通信魔導具? 携帯みたいなものだろうか。パパが早く帰ってきた理由はマドにーにがパパに連絡してくれたからなんだ。
でも馬で爆走ってどういうこと? 馬車に乗って帰ってきたんだよね?
「おうま?」
くるっと後ろを向いて、獣耳男性を見上げる。斜め45度に首を傾げるオプション付きだ。プラスアルファ人差し指も少し咥えよう。
「馬知ってるか?」
「うん! ドーイ!」
「ドーイ?」
ドーイとは最近読んだ絵本に出てくる馬の名前だ。豚を救うため魔王に挑むという、感動する物語だった。最後に救った豚を食べたシーンはトラウマになったけど。
「ああ、絵本に出てくる馬の名前ですね?」
シャドウが閃いたように、左の手のひらに右手の拳を乗せる。
「ああ、走れドーイってやつか。くくっ、あながち間違ってねぇな。末っ子ちゃんを救うために爆走してたしな」
私に会うために馬車に乗らず、馬に乗ってきたってことだろうか。嬉しい、嬉しすぎる。──はっ!
「パパ! リシア食べちゃダメ!」
今日三度目の怒った顔登場。
「リフレシア様、なんてっ! なんて愛らしいっ」
「えっぐ。えぐ可愛い。もう俺が食べたい」
「黙れクマ、キモイ」
顔を見なくても誰がどんな反応をしたかわかる。
美人さん、手強い。私に無反応だ。
「食べない」
パパが心外だと言わんばかりの声色で言った。仕返しなのか、私のモチモチほっぺをぷにぷにされる。
されるがままの私は、心の中で届けと願うように呟いた。
マドにーにありがとう。
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