世界で一番強い奴

第一章

その男「安藤」

俺の名前は、安藤。平凡すぎて忘れられやすい名前だが、それでいい。派手な名も、華やかな過去もいらない。俺が持ってるのは、この体と、静かに悪党を沈めるやり方、それだけだ。

　強さってやつに俺はずっとこだわってきた。でも、それはボクシングやMMAなどの競技のリングで称賛されるためじゃあない。ルールに守られた戦いなんざ、所詮は見せかけだ。階級もポイントも、俺には無意味だ。こっちは暗がりで、相手が息をつく暇もないまま、沈めるための戦い方に賭けてんだ。

　この街じゃ、腐れ外道が幅を利かせてやがる。ドラッグに、裏金融、体を売らされた女たち。誰も手出しできないほどの悪を背負い込んでる奴らが、平然と闊歩してる。

　俺が狙うのは、そいつらだ。金で人を縛り、暴力で周りを黙らせるようなクズども。そういう奴が「強さ」を振りかざすとき、俺がどこからともなく現れる。それが俺の仕事だ。

　武器は使わない。必要もない。俺には自分を隠し、影の中から一撃で沈めるやり方がある。それが俺の「強さ」だ。立ちはだかる奴がどんな巨体だろうが、何人でかかろうが関係ない。俺に見られた瞬間、その悪党の時間は終わる。

　だから言っておく。俺が何者かなんて、知る必要はない。俺の名前を知ってるのは、一握りの悪党だけ。そしてそいつらが、今も生きてるって保証はねえんだ。