転生したら戦国最強のチワワだった~プニプニ無双で天下統一~

偽モスコ先生

文字の大きさ
32 / 150
上洛~姉川の戦い

一騎打ち

しおりを挟む
 でも、磯野さんの前で立ち止まり振り返ると、長政はさっきまで俺と向かい合っていた位置から動いていなかった。その場所から、ブサカワフェイスに埋め込まれた瞳がこちらをじっと見つめている。

「…………」
「…………」
「キュ、キュキュン(おい、早くこっち来いよ)」
「ウウ~ッ」

 こいつもお市と一緒であまり友好的な感じじゃなさそうだ。人見知りで今はまだ警戒されているだけなのかもしれないけど。

「何やってんのよもう」

 業を煮やしたお市が出て来て長政を抱っこし、俺の正面まで運んでくる。その間長政は嬉しそうに尻尾を振っていた。
 俺たちが輪の中心で相対すると、周囲からは再び「尊さここに極まれり」というつぶやきが漏れ聞こえる。
 そんな中、秀吉が磯野さんに疑問を投げかけた。

「それで、一体誰がどうやって勝敗を決めるのですか?」
「俺がプニモフして決めるんじゃオラァ!」
「あなたは浅井家の人間でしょう。どうしても審判が長政殿びいきになってしまうのでは」
「俺がそんな男らしくねえことすると思ってんのかオラァ!」

 磯野さんの剣幕に、秀吉は怯むことなく提案する。

「いえ、そういうわけではないのですが……プニモフ役をお市殿に任せてはいかがかと思いまして」
「えっ、私!?」

 真っ先に反応したのはまさかのお市本人だった。予想外の反応の良さに一瞬だけ間を空けながらも秀吉は続ける。

「はい。先ほどご本人でも仰っていた通り、お市様はこの勝負で長政殿が負けても住む場所が変わるだけです。つまり結果に執着する必要がありません。この場においては一番平等な判断を下すことが出来ると思います」
「たしかにそんな気もすんなぁオラァ……」
「さすがは秀吉殿」

 磯野さんは顎に手を当て、六助は腕を組んだまま何度もうなずき、両者共に納得したような様子を見せている。正直、何でもいいから早く終わらせて帰りたい。

「しょうがないわね。そういうことならやってあげてもいいわよ」

 そう言ってこちらに歩いて来たお市の頬には少し赤みが差している。本当はプニモフ役をやってみたかったのだろうか。
 そのままお市が俺たちの間に立つのと同時に、磯野さんが右拳を天に向かって突き上げながら咆哮した。

「それでは勝負、始めえええええええああああぁぁぁぁ!」
「うるさい! 長政がびっくりするでしょ!」
「バウワウ! バウワウ!」
「すいません」

 しゅんとする磯野さん。俺は普段から家臣たちが似たようなことをしているのでそこまで驚かなかった。
 そこに目をつけたお市がこちらを見下ろしながら言う。

「あんたはそこまで驚かないのね」

 お市の強気な瞳がわずかに潤んでいて、何かを思い出しそうになる。何だっけな……こんな表情を前にも見たことがあるような。いや、こんな強気な女の子に会ってたら忘れるはずもないか。
 思考していると、借りて来た猫のようになってしまった磯野さんが、腕を水平に伸ばしながら言った。

「それでは始めてください」
「順番とかプニモフの仕方は私が決めていいの?」
「はい、どうぞご自由になさってください」
「そ。じゃ、じゃあ、あんたからかな。ほら、長政はいつもプニモフしてあげてるから……」

 何の言い訳かもよくわからない言葉を口にしながら、お市は俺の両前足の付け根を持って抱っこし、自分の顔の高さまで持って来た。
 そのまま無言で見つめ合う二人。

「…………」
「…………」
「な、中々やるじゃない」
「キュ? (何が?)」

 そんなお市の頬はやはり朱に染まっている。

 こいつ、まさか……。

 犬好きだな!? もしくは動物好き。

 周囲を見渡してみれば、両軍関係なく和やかな雰囲気が漂っている。皆がお市を眺めながらにこにこしている感じだ。
 ソフィアは何故か俺から離れて六助の近くでだらしない顔をしながらお市を観ている。我が妹のことをかなり気に入ったらしい。

 そのままの体勢でお市が俺を観察していると、やがて磯野さんが気まずそうに、恐る恐るといった感じで口を開いた。

「あの~、お市様。このままでは日が暮れてしまいますし、そろそろ……」
「うっさい! わかってるわよ」
「すいません」

 磯野さん完全にオラオラ系じゃなくなってるし、そろそろ彼を怒るのはやめてあげて欲しい。
 照れ隠しの罵声を飛ばしたお市は、俺を一旦地面に降ろしてから左手を差し出して来た。

「ほら、プニプニするから手出して」

 しょうがねえやつだな。ここは一つお兄ちゃんとして妹のわがままを聞いてやろうじゃないか。
 大人しく「お手」をすると、お市は途端に目を見開いた。

「へえ、賢いじゃない。長政とは違うわ」

 まあ、あいつは正真正銘の犬だからな……。賢い犬でもしっかりと訓練されなければちゃんとした芸は出来ないっぽいし、少なくとも、初めて会った人からの要求に応えるなんてことは難しいはずだ。
 左手で俺の右前足首? を掴み、左手で肉球をプニプニし始めるお市は、おもちゃに夢中になる子供のような表情になった。

「へえ……」
「…………」
「…………」

 どうやらまた無言のプニプニタイムに突入したみたいだ。さっき見つめ合った時みたいにしばらくはこのままだろう。
 何度も怒られてしまった審判役の磯野さんは、これ以上発言をする気がないのか押し黙ったまま微動だにしない。

「ふ~ん、いとプニプニってやつね」

 特に表情を変えることもなく、お市はそんな感想を漏らす。けど、あっさりした言葉とは裏腹に、俺の前足は中々解放されなかった。

 プニプニに夢中になっていたお市は、しばらくしてようやく自分が皆に微笑ましく眺められていることに気付いたらしい。顔をあげて周囲を見回すと、咳ばらいをしてから口を開く。

「プニプニについてはわかったわ。次はモフモフね」

 そう言ってもう一度右前脚の付け根を持って俺を持ち上げると、お市は右腕を俺のプリティなお尻の辺りに回して通常の抱っこ体勢に移行した。そして、お腹を頬ですりすり始める。
 お市の髪の毛が目の前に来て、ふわりと花のような香りが鼻腔をくすぐった。

「…………」
「…………」

 今度は感嘆の声を漏らすこともなく、本当に無言のモフモフタイム。さっきもそうだったけど、長政と比べているのかやたらと長い。

「これ……」

 ようやくそんな感想にもならない声が聞こえたかと思えば、次の瞬間にお市は顔を上げて磯野さんの方を振り向き、驚くべき言葉を口にする。

「長政と比べるまでもないわ。この勝負、織田軍の勝ちよ」
「「「「ええっ!!!!????」」」」

 突然の一騎打ち終結宣言に、両軍とも驚愕と困惑を露わにした。

「お市様! 勝負という形式になっている以上、きちんと長政様の方もプニモフしてから決めていただかないと困ります!」

 歩み寄りながら抗議をして来た磯野さんに対して、お市は抱っこしたままの俺を差し出してから言った。

「じゃあ審判だし特別にプニモフさせてあげるわ。ほら」
「…………?」
「してみればわかるから」

 微妙に納得のいかない表情ながらも、磯野さんは何も言わずに俺を受け取ってお腹に頬ずりをしてくる。髭がじょりじょりして気持ちが悪いので、今度会った時は絶対にこいつを打ち取るよう、家臣たちに言っておこうと思いました。
 それから一度俺を降ろして肉球を触ってから間もなく、磯野さんはお市を見上げながら、何か幽霊でもみたような感じでつぶやく。

「こっ、これは……」
「わかったでしょ?」
「はい。これは」

 得意げなお市に、磯野さんは真剣な表情で、唾を飲みこんでから応えた。

「恐らくは千年に一度の……それこそ、犬臣鎌足公の再来と思える、伝説級のモフモフです」

 一騎打ちの会場が一気にざわめいた。

「何だと!?」
「そんなにすごかったのか!?」

 動揺する織田家の家臣たち。
 いやいや、何でお前らまでそんなに驚いてんだよ。

「そんなばかなっ! 拙者にも、拙者にも今一度! そんなことがあるはずは……ほああああぁぁぁぁーーーー!!!!」

 そう言って近寄って来た浅井家の家臣に引き渡され、俺は再び髭じょりじょりの刑をくらうったかと思えば、早々にその家臣が断末魔をあげた。

「これは間違いなく伝説級のモフモフ! ほああああぁぁぁぁーーーー!!!!」
「わっ、我にも! 我にもモフモフを!」
「我もじゃあー!」

 まるで雪崩のように浅井軍が俺の元に殺到する。勝ったはずなのに、何だかもみくちゃにされてるんですけど……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

無能烙印押された貧乏準男爵家三男は、『握手スキル』で成り上がる!~外れスキル?握手スキルこそ、最強のスキルなんです!

飼猫タマ
ファンタジー
貧乏準男爵家の三男トト・カスタネット(妾の子)は、13歳の誕生日に貴族では有り得ない『握手』スキルという、握手すると人の名前が解るだけの、全く使えないスキルを女神様から授かる。 貴族は、攻撃的なスキルを授かるものという頭が固い厳格な父親からは、それ以来、実の息子とは扱われず、自分の本当の母親ではない本妻からは、嫌がらせの井戸掘りばかりさせられる毎日。 だが、しかし、『握手』スキルには、有り得ない秘密があったのだ。 なんと、ただ、人と握手するだけで、付随スキルが無限にゲットできちゃう。 その付随スキルにより、今までトト・カスタネットの事を、無能と見下してた奴らを無意識下にザマーしまくる痛快物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

処理中です...