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槇島城の戦い~高屋城の戦い
作戦会議
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そして数日後、言葉通りに作戦会議が再び行われた。ただし、俺と六助、柴田の三人のみでだ。
ちなみにソフィアはいないので、実質二人での会議のようなものになる。大分慣れて来たとはいえ、あいつ無しでの完璧な意思疎通は不可能だしな。
ある日の晩、岐阜城の最上階。部屋にまで浸透して来た宵闇の中で、灯籠の灯りに照らされた六助が話を切り出した。
「され、小谷城攻めですが……正直どう思われますか?」
「どう、とは?」
「浅井家の者達の処遇についてです」
空気がひりつき、緊張が場に走る。
「包囲網を先導していた義昭が追放となった今、元々姉川の戦いで痛手を被った浅井朝倉に、我々が負ける道理はありません。石山本願寺などが救援に来るとなれば話はわかりませんが……。それは柴田殿も理解しておいででしょう」
「むう」
柴田は顎に手をやって、何事かを考え込んでいる。
「しかし、それではお市様が……」
「柴田殿のお気持ちはわかります」
六助は真剣な表情をしながら右手で制し、言わずともよい、と声なき言葉を発している。
「六助殿のお気持ちもわかるでござるが……」
「柴田殿のお気持ちもわかります」
「いやいや六助殿のお気持ちもわかるでござるよ」
「こちらこそ柴田殿のお気持ちはわかるのですが」
「そうは言われても拙者にだって六助殿のお気持ちは」
「キュキュンキュン(何をやっとんじゃお前らは)」
二人の時がはたと止まる。そしてこちらを同時に振り向いてから、両者共に何か世紀の大発見をしたような顔を見合わせた。
「プニ長様に決めていただくのがいいでござるな」
「そうですね!」
何言ってんだこいつら……。今はソフィアもいないし、意思伝達の手段がいつものボディランゲージくらいしかない。意見を聞くなんていう高度なコミュニケーションなんて出来るわけがなかった。
「しかしどうやって?」
案の定な疑問が六助から繰り出される。
「意見を聞くのとは少し違うでござるが……。拙者たちから一つずつ案を出して、いいと思う方の手にお手をしていただくでござる」
「おお、それはいいですな。プニプニの感触も味わえて一石二鳥ですし、素晴らしい。さすがは柴田殿」
「何を仰るか、拙者はあわよくばプニプニを……などと邪な考えの下に言ったのではござらん」
「またまたぁ」
「その若干苛立つ表情をやめて欲しいでござるよ」
勝手に話を進めてるけど、俺はこいつらに「お手」をしたくはない。帰蝶が発したならまだしも、何が悲しくておっさん二人の「お手」に応じなければいけないというのか。
おっさん二人は、真剣な表情でこちらに向き直った。
「では、女子供を除く浅井家の面々を斬首にするなら私に」
「降伏すれば命までは取らないというなら拙者に」
そう言って上に向けた手のひらを同時に差し出して来る。
正直嫌だけど、どちらかに「お手」をしてやらないと「どちらもだめ!? ではどうすれば……」となって、何かとんでもない方向に話が進みそうな予感がする。これは一体どうするのが正解なんだ。
柴田の気持ちはわかるけど、六助の言うことも一理ある。お市が嫁いでいたとはいえもう浅井家は信用ならない。一応当主ということにされている自分の立場から考えたらなおのことそう思う。
織田家のことを考えれば一族郎党根絶やしにするべきだ。でも、それは残酷すぎる気もする。しかも相手が妹の元嫁ぎ先となればなおさらだ。お市の心中だって察するに余りある。
結局何が正解なのか見当もつかなくなってしまった俺は。
「む」
「ぬ」
どちらにも「お手」をしなかった。その場で身体を丸めて寝る時の体勢になり、手を差し出す気がないことを二人に伝える。
もうこうなれば一か八か、家臣たちに任せて何かいい案が出ることに賭けるしかない。最悪の場合、六助の全員斬首案が採用されてしまう可能性もあるけど、柴田がいる限りそうはならない、と思いたい。
二人は俺をまじまじと見つめながら議論を始めた。
「これは……」
「いと尊しでござるな」
「はい。いやいや確かに尊いですがそうではなくて」
「は? プニ長様が尊いこと以上に大事なことがこの世にあるとでも?」
「それには同意しますから喧嘩腰にならないでください。全く、柴田殿はプニ長様のことになると本当に面倒くさいですね」
「六助殿には言われたくないでござる」
「とにかく、プニ長様がこう仰る以上は……え? それって私も面倒くさいってことですか?」
「え。いやいやそんなことはないでござるよ」
慌てて「やってしまった」と言わんばかりの作り笑顔で手を横に振る柴田に、六助がぐいと詰め寄っていく。
「でも今、私が柴田殿のことを面倒くさいって言って、それを私に言われたくないということはそういうことですよね? 少なくとも柴田殿は私のことを面倒くさいと思っていると」
「急にどうしたのでござるか?」
予想外の勢いに、より動揺してしまう柴田。そこで六助も冷静になり、咳ばらいを一つしてから元の体勢に戻った。
「すいません。取り乱してしまいました」
「大丈夫、誰にでもあることでござるよ」
「柴田殿は私の数少ない友人だと思っていたので、面倒くさいと思われていたということは、それが上辺の関係に過ぎなかったということになりますので、その寂しさに動揺してしまいました」
だからそういうところが面倒くさいのでは……と、柴田と意志が統一されたように感じたけど、もちろんそんなことは前面に出さず、またもぎこちない笑顔を六助に振りまいていった。
「はっはっは、何を仰っているのやら。そんなわけないではござらぬか! 拙者らの友情は永遠でござるよ!」
「ですよね。はっはっは!」
おっさん二人の無駄に豪快な笑い声が乾いた空気に響いていく。そうして場が落ち着くと、六助が表情を少しばかり引き締めてから口を開いた。
「話を戻しますが。プニ長様がどちらも違うと仰っている以上、家臣団とより良い方策を考えるしかありませんね」
「そうでござるな」
「では今一度軍議を開きましょう」
翌日。
「プニ長様は、浅井家臣団を全員斬首にすることも、降伏すれば命を取らないことも違うと仰った! 全員で今一度、どのようにするのがより良いか話し合っていきたいと思う!」
六助の高らかな声が行きわたる大広間には、織田家臣団の顔がずらりと並んでいる。彼らは皆一様に「それはわかったけど何でこんな朝早いねん……」という表情をしていた。
ちなみに現在は早朝。無駄に気合の入った六助が「浅井家をどうするか、今日中に必ず決める」と意気込んでのことだ。
その時、明智光秀が挙手してから問い掛けた。
「違うと仰った、というのは? ソフィア様がいらっしゃったので候?」
ソフィアの存在は認知されるだけでなくすっかり浸透し、今や「妖精様」ではなくちゃんと名前で呼ばれるようになっている。
「いえ、そうではないのですが」
六助が昨日の出来事を家臣団に説明した。
「というわけで、私としては『どっちも違うワン……もう一度どうするべきか、家臣団と話し合って欲しいワン……』ということだと思ったのです」
「なるほど、本当にそうかは置いておくとしていと尊し」
家臣団も明智に続いて皆が首を何度も縦に振った。何だこの空間。
でも、その時ただ一人、何やら真剣な顔で考えごとをしていた家臣団のおっさんが挙手をする。
「その時のプニ長様だが……『僕は眠いから寝るワン。後は任せるワン』と仰っていた可能性は?」
おお、と家臣団がにわかにざわめいた。
ちなみにソフィアはいないので、実質二人での会議のようなものになる。大分慣れて来たとはいえ、あいつ無しでの完璧な意思疎通は不可能だしな。
ある日の晩、岐阜城の最上階。部屋にまで浸透して来た宵闇の中で、灯籠の灯りに照らされた六助が話を切り出した。
「され、小谷城攻めですが……正直どう思われますか?」
「どう、とは?」
「浅井家の者達の処遇についてです」
空気がひりつき、緊張が場に走る。
「包囲網を先導していた義昭が追放となった今、元々姉川の戦いで痛手を被った浅井朝倉に、我々が負ける道理はありません。石山本願寺などが救援に来るとなれば話はわかりませんが……。それは柴田殿も理解しておいででしょう」
「むう」
柴田は顎に手をやって、何事かを考え込んでいる。
「しかし、それではお市様が……」
「柴田殿のお気持ちはわかります」
六助は真剣な表情をしながら右手で制し、言わずともよい、と声なき言葉を発している。
「六助殿のお気持ちもわかるでござるが……」
「柴田殿のお気持ちもわかります」
「いやいや六助殿のお気持ちもわかるでござるよ」
「こちらこそ柴田殿のお気持ちはわかるのですが」
「そうは言われても拙者にだって六助殿のお気持ちは」
「キュキュンキュン(何をやっとんじゃお前らは)」
二人の時がはたと止まる。そしてこちらを同時に振り向いてから、両者共に何か世紀の大発見をしたような顔を見合わせた。
「プニ長様に決めていただくのがいいでござるな」
「そうですね!」
何言ってんだこいつら……。今はソフィアもいないし、意思伝達の手段がいつものボディランゲージくらいしかない。意見を聞くなんていう高度なコミュニケーションなんて出来るわけがなかった。
「しかしどうやって?」
案の定な疑問が六助から繰り出される。
「意見を聞くのとは少し違うでござるが……。拙者たちから一つずつ案を出して、いいと思う方の手にお手をしていただくでござる」
「おお、それはいいですな。プニプニの感触も味わえて一石二鳥ですし、素晴らしい。さすがは柴田殿」
「何を仰るか、拙者はあわよくばプニプニを……などと邪な考えの下に言ったのではござらん」
「またまたぁ」
「その若干苛立つ表情をやめて欲しいでござるよ」
勝手に話を進めてるけど、俺はこいつらに「お手」をしたくはない。帰蝶が発したならまだしも、何が悲しくておっさん二人の「お手」に応じなければいけないというのか。
おっさん二人は、真剣な表情でこちらに向き直った。
「では、女子供を除く浅井家の面々を斬首にするなら私に」
「降伏すれば命までは取らないというなら拙者に」
そう言って上に向けた手のひらを同時に差し出して来る。
正直嫌だけど、どちらかに「お手」をしてやらないと「どちらもだめ!? ではどうすれば……」となって、何かとんでもない方向に話が進みそうな予感がする。これは一体どうするのが正解なんだ。
柴田の気持ちはわかるけど、六助の言うことも一理ある。お市が嫁いでいたとはいえもう浅井家は信用ならない。一応当主ということにされている自分の立場から考えたらなおのことそう思う。
織田家のことを考えれば一族郎党根絶やしにするべきだ。でも、それは残酷すぎる気もする。しかも相手が妹の元嫁ぎ先となればなおさらだ。お市の心中だって察するに余りある。
結局何が正解なのか見当もつかなくなってしまった俺は。
「む」
「ぬ」
どちらにも「お手」をしなかった。その場で身体を丸めて寝る時の体勢になり、手を差し出す気がないことを二人に伝える。
もうこうなれば一か八か、家臣たちに任せて何かいい案が出ることに賭けるしかない。最悪の場合、六助の全員斬首案が採用されてしまう可能性もあるけど、柴田がいる限りそうはならない、と思いたい。
二人は俺をまじまじと見つめながら議論を始めた。
「これは……」
「いと尊しでござるな」
「はい。いやいや確かに尊いですがそうではなくて」
「は? プニ長様が尊いこと以上に大事なことがこの世にあるとでも?」
「それには同意しますから喧嘩腰にならないでください。全く、柴田殿はプニ長様のことになると本当に面倒くさいですね」
「六助殿には言われたくないでござる」
「とにかく、プニ長様がこう仰る以上は……え? それって私も面倒くさいってことですか?」
「え。いやいやそんなことはないでござるよ」
慌てて「やってしまった」と言わんばかりの作り笑顔で手を横に振る柴田に、六助がぐいと詰め寄っていく。
「でも今、私が柴田殿のことを面倒くさいって言って、それを私に言われたくないということはそういうことですよね? 少なくとも柴田殿は私のことを面倒くさいと思っていると」
「急にどうしたのでござるか?」
予想外の勢いに、より動揺してしまう柴田。そこで六助も冷静になり、咳ばらいを一つしてから元の体勢に戻った。
「すいません。取り乱してしまいました」
「大丈夫、誰にでもあることでござるよ」
「柴田殿は私の数少ない友人だと思っていたので、面倒くさいと思われていたということは、それが上辺の関係に過ぎなかったということになりますので、その寂しさに動揺してしまいました」
だからそういうところが面倒くさいのでは……と、柴田と意志が統一されたように感じたけど、もちろんそんなことは前面に出さず、またもぎこちない笑顔を六助に振りまいていった。
「はっはっは、何を仰っているのやら。そんなわけないではござらぬか! 拙者らの友情は永遠でござるよ!」
「ですよね。はっはっは!」
おっさん二人の無駄に豪快な笑い声が乾いた空気に響いていく。そうして場が落ち着くと、六助が表情を少しばかり引き締めてから口を開いた。
「話を戻しますが。プニ長様がどちらも違うと仰っている以上、家臣団とより良い方策を考えるしかありませんね」
「そうでござるな」
「では今一度軍議を開きましょう」
翌日。
「プニ長様は、浅井家臣団を全員斬首にすることも、降伏すれば命を取らないことも違うと仰った! 全員で今一度、どのようにするのがより良いか話し合っていきたいと思う!」
六助の高らかな声が行きわたる大広間には、織田家臣団の顔がずらりと並んでいる。彼らは皆一様に「それはわかったけど何でこんな朝早いねん……」という表情をしていた。
ちなみに現在は早朝。無駄に気合の入った六助が「浅井家をどうするか、今日中に必ず決める」と意気込んでのことだ。
その時、明智光秀が挙手してから問い掛けた。
「違うと仰った、というのは? ソフィア様がいらっしゃったので候?」
ソフィアの存在は認知されるだけでなくすっかり浸透し、今や「妖精様」ではなくちゃんと名前で呼ばれるようになっている。
「いえ、そうではないのですが」
六助が昨日の出来事を家臣団に説明した。
「というわけで、私としては『どっちも違うワン……もう一度どうするべきか、家臣団と話し合って欲しいワン……』ということだと思ったのです」
「なるほど、本当にそうかは置いておくとしていと尊し」
家臣団も明智に続いて皆が首を何度も縦に振った。何だこの空間。
でも、その時ただ一人、何やら真剣な顔で考えごとをしていた家臣団のおっさんが挙手をする。
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