女勇者が可愛すぎて、それだけで世界を救える気がしてきた。

偽モスコ先生

文字の大きさ
8 / 207
ツギノ町編 第一章 初めてのクエスト

アップルパイのどの部分が好きなんだ?

しおりを挟む
 食事が終わると、俺の分の手続きも済ませて部屋に向かった。
 空き部屋が少ないのか、ティナとは隣室。
 「また明日」と言って手を振りながら互いに部屋に入る。

 色々あったし今日はまあまあ疲れたな……さっさと寝よう。
 そう思って風呂に入り、ベッドに寝転がってうとうとしていた時だった。

 部屋の扉がノックされる。
 普通に考えればティナだろうけど……何かあったのか?

「ティナか? どうした?」

 そう返事をすると、扉がゆっくりと開く。
 おずおずと入って来たティナは、何とパジャマ姿だった。
 思わず言葉を失ってしまう。

「ごめんね……何だか寝付けなくて。少しだけお話しない?」
「あ、ああ。全然いいよ」

 ティナはそのまま歩いて近づき、俺が寝ているベッドに腰かけた。
 うっ……何だかいい匂いがするし、パジャマ姿が可愛い。
 髪もおろしているから何だか新鮮。

 魔王のアホなら、ティナのパジャマ姿だけで倒せるんじゃないだろうか。
 そう思ってしまうくらいの威力だ。

 いくら何でも無防備すぎる……。
 親から男は狼だとか教わらなかったのか!?

 気付けばティナが部屋に入って来てから会話が全くない。
 何か、何か話さないと……。

「えっと……ティナはどんな食べ物が好きなんだ?」
「えっ、私? 私はアップルパイが好きかな」

 うおお……何て微妙な話題振ってんだ俺。
 とはいえアップルパイか……そういやケイトがそんな事言ってたな。
 あせっている俺は微妙な質問を連発してしまう。

「ア、アップルパイのどの部分が好きなんだ?」
「ええっ、どの部分って……?え~と、サクサクしてて甘いところかな」
「そうか……」

 本当に意味のない会話をしてしまった。
 すると今度はティナが話題を振ってくれた。

「ねえ。ジン君はどうして冒険者になろうと思ったの?」
「えっ……」

 もちろん俺が冒険者というのは嘘なわけだけど、例えばこの場をしのぐためにそれをモンスターテイマーズになった動機に置き換えてティナに話すとしよう。
 実はそれすらも「男は強い方がかっこいい→戦闘を主な仕事とするモンスターテイマーズがいい」というくだらないものなのだ。
 ここは適当にそれらしい事を言っておくしかないな。

「冒険者だった親父がクエストの最中にモンスターにやられたんだ。もうそのモンスターは討伐されたけど、同じ仕事をやってりゃ親父に会える気がして……」

 すまん親父……俺のために死んでくれ。
 もちろん親父は今も天界でのんびりと健康的な生活を送っている。

「そ、そっか……ごめんね。辛い事思い出させちゃったね……」
「いや、いいんだ。冒険者ってのはそういう仕事だしな」

 ティナは少し悲しそうな表情で俯いている。
 その横顔は窓から漏れる月明かりに照らされてより一層美しく、儚げだ。
 思わず見入ってしまっている事に気付き、俺は慌てて質問を返した。

「ティナはどうして冒険者になろうと思ったんだ?」
「私は……そうだなあ。世界中の困ってる人たちを少しでも多く助けられたら……って感じかな……先代の勇者様みたいに……」
「先代の……」
「……あっ、先代って言うのは昔活躍した……って意味だよ?ほら、何年か前に新しい勇者が生まれたって聞いたから、それで」

 突然あせって自分の言葉を訂正するティナ。
 そう言えばティナは自分が勇者だって事を隠してるよな。
 今はまだ弱い自分が勇者だって名乗るのは気が引けるとかそんなところか。

 ティナは慌てて話題を逸らした。

「そ、そういえばね、私が使ってるひのきのぼう……村を出る時に村長さんからもらったんだけどね、あれってその先代の勇者様が使ってたものなんだって!」

 ……えっと……これはどこからツッコんだらいいのか……。
 いや待て、変にツッコめばティナを傷つけるかもしれない。
 ここは慎重に、まずは様子を見ようじゃないか。

「お、おうそうなのか。それはすごいな……やっぱり普通のひのきのぼうとはどこか違ったりするのか?」

 するとティナは顎に指を当てて考え始めた。

「えっと……正直特には……」

 違わんのかい……。
 まあ、普通に考えれば村長が偽物を掴まされたんだろうな。
 それかティナが騙されてるか……まあいいか。

「それならさ、せめてこんぼう辺りを買って使ったらどうだ? あれならレベル制限もないし、ひのきのぼうよりはましだろ」
「うん。いつかはそうしたいんだけど、まだお金をあまり持ってないから……」

 少し困った表情になるティナ。
 こんぼうはそんなに高いものじゃなかったと思うんだけどな。

「だったら明日、何かクエストをクリアしたらお祝いにこんぼうを買ってやるよ」
「え……ええっ!? いいよそんな、お金がもったいないよ……」

 こちらを振り向き、驚いた様に手をぶんぶんと振りながら遠慮するティナ。
 俺はほんの少しだけ言い聞かせる様な口調になる。

「冒険者でやっていくなら装備に金を惜しんじゃだめだぞ。命に関わるんだから」
「うっ、そうなのかな……」
「ああ。それに、何というかその、俺がティナにプレゼント、したいからさ……」

 視線をそらして、ティナの方を見ずにそう言った。
 案外言うのに勇気のいる台詞だったからだ。

 沈黙に耐えられず、ちらっと視線を戻すとティナがじっとこちらを見ていた。
 ぽかんとしていてどういう表情なのかわかりづらい感じ。

「ティナ?」
「あっ、ごめん。ジン君って会ったばかりの私に、どうしてここまで優しくしてくれるんだろうって思って……」

 いきなりプレゼントなんて気持ち悪かったか。
 それともこれはアレか? ジン君優しい……好き……みたいな?
 まさかもう両想いに……!?

 いや落ち着け舞い上がるな。
 まだ普通に気持ち悪がられた可能性だってある……確かめよう。

「あっ、そうだよな急にプレゼントなんて……変だったな、悪い」

 俺が謝ると、またもティナは驚いてぶんぶんと手を振った。

「あっ……違うの!そういう意味じゃなくてね……普通に嬉しくて……だから、あの……ありがとう。じゃあ、クエストを無事クリア出来たらお祝いにもらっちゃおうかな」

 そこまで言うとティナは俺から視線を外し、嬉しそうな顔で俯く。
 これはあれだな、結婚出来るかもな……。

「おう。明日のクエスト頑張ろうな」
「うんっ」

 一点の曇りもない笑顔で頷くティナ。
 俺の心の中では間もなく結婚式が始まるところだ。

「あっ……でも今使ってるひのきのぼうって村長からもらった大切なものなんだっけか。売るのもしのびないだろうし、こんぼうを買ったら倉庫にでも預けるか?」

 ふと気付いてそんな事を聞いてみた。
 するとティナはう~んと首を傾げる。

「結構形のいいひのきのぼうだから、持ってたら料理とかに使えるかも。ちょっとかさばるけど鞄に入れておこうかなぁ……」

 本物か怪しいとはいえ、かつての勇者が使ったひのきのぼうを料理に……。
 家庭的な発想のティナ……いいな。

「それに持ってたら何だかご利益とかありそうな気もするし……勇者様みたいにいつかすごく強くなって、魔王なんかも倒せたりしちゃったりとか……」

 夢なのか願望なのか、そんな事を楽しそうに語るティナ。
 俺が黙っているとティナは急にハッとした表情になり、

「あ……私、こんなに弱っちいのに何言ってんだって感じだよね……」

 そんな事を言って俯いてしまった。
 だから俺は、言葉に力を込めて言ってやる。

「何言ってんだよ。そういうのすげーいいと思う!俺は応援するぜ」
「……! ありがとう、ジン君……」

 少し驚いた顔をした後、潤んだ瞳でティナはそう言った。
 何だかすごく照れ臭くなって来たので、今日のところはお開きにしよう。

「それじゃそろそろ寝るか、明日は朝からギルドに行くんだろ?」
「うん……やっと眠くなって来たし、部屋に戻るね。それじゃおやすみ」
「おやすみ」

 立ち上がってフリフリと小さく手を振ってから部屋を出て行くティナを見送り、そのまま眠りに就いた。

「ジン君、おはよう」
「ティナ、おはよう。昨日は良く眠れたか?」
「うん、ジン君のおかげだよ」

 翌朝、顔を洗おうと洗面所に行くとティナと鉢合わせる。
 何だか嬉しい事まで言われるし、朝っぱらからラッキーだ。
 気分上々で部屋に戻り、手早く支度を済ませて合流。

 「マップ」では建物の位置はわかっても詳細まではわからないので、宿屋の受付でギルドの場所を聞いて行く。
 店員によると、ギルドは町の中央付近にあるらしい。

 ティナにはこの町のギルドには寄った事がないからと言って誤魔化したけど……王都に行く時はノエルやセイラ辺りに調べてもらっておくか。

 そんな事を思いながら街へと繰り出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)

たぬころまんじゅう
ファンタジー
 小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。  しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。  士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。  領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。 異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル! 圧倒的不利な状況を武と知略で切り抜ける! ☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。

希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。 手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。 「このまま死ぬのかな……」 そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。 ​そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。 試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。 ​「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」 ​スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。 たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。 ※本作は小説家になろうでも投稿しています。

処理中です...