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ツギノ町編 第一章 初めてのクエスト
口から火とか出るんだぞ
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町の外に出ると、周囲は相変わらずの草原地帯だ。
街道を隔てて左右に緑が広がっている。
穏やかな風が背の高い草花を揺らし、点在する樹々の梢をざわめかせていた。
クエストの目的地……薬草の採取ポイントへと向かう街道は、王都へと向かうものとは異なるために人通りはあまり多くない。
他の街道は全て周辺の村へと通じるものばかりなのだ。
俺たちが今歩いている道も、たまに馬車や旅人がすれ違うのみ。
たまに街道から外れたところでゴブリンを狩っている冒険者もいるけど、そんなに数は多くない。
「う~早く私もゴブリンとか倒せるようになりたいなぁ」
人々が踏み鳴らす事によって舗装された道を歩きながらティナが言った。
その視線はゴブリンを狩る冒険者に引きつけられている。
「ゴブリンだったら装備整えればすぐだろ。あせるなって」
「うん、そうなんだけどね……」
俯きがちなティナの瞳は静かに燃えていた。
早く強いモンスターを倒せるようになりたい。
魔物の脅威に怯える人たちを救いたい。
そんな想いがティナを支配していたりするのだろうか。
やっぱりまだあせっているように見える。
やる気があるのはいいんだけど、ちゃんと見てやらないと暴走するかもな。
だから一言だけ励ましてやることにした。
「まずは今日のクエスト、しっかり頑張ろうな」
「うんっ」
目的地はそこまで遠くなかったので、割とすぐに着いた。
草原の中にぽつりと、他とは違う草の生えている箇所がある。
「ここみたいだね」
「おう、それじゃ早速薬草集めだ」
地図をしまって、せっせと薬草を採り始めるティナ。
俺もそれに倣いながら「レーダー」で周囲を確認してみる。
………うん、近くに適正範囲外のモンスターはいないようだ。
これなら何のトラブルもなくクエストをこなす事が出来ると思う。
もちろん適正範囲内のモンスターはいる。
でも、街道からあまり離れていないこのポイントで出てくるのはせいぜいがスライムくらいだ。
それならティナだけでも何とかなる。
色んな意味でこのクエストを受けて正解だったな。
俺は戦わないに越した事はないし……。
スライムをティナに倒してもらいながら、薬草をのんびりと集めた。
それからしばらくして、そこそこの量が集まって来た時だった。
これまでに集めた薬草を見ながらティナが言う。
「ふぅー、結構集まったねえ」
「ああ……そうだな、あともう少しだ」
「よ~し」
目標まであとちょっとと来て、再びやる気をみなぎらせるティナ。
そしてもう一度薬草を集める作業をしていると。
「きゅう~ん」
まだ赤ん坊かと思うくらいの小さな犬が俺たちのところに寄って来た。
どこから現れ……ん……?
「わあっ、見て見てジン君。可愛い~! すごく小っちゃいけど、赤ちゃんかな? 親はどうしたんだろ」
両手で子犬を両前足の根本を持つようにして抱っこし、「君、パパとママはどうしたの? ん?」と話しかけるティナ。
その光景に癒されたいところだけど、そういう訳にもいかない。
だってこいつは多分……。
「レーダー」を発動して、もう一度周囲を確認してみる。
……いるな……適正範囲外モンスター。
恐らくこの適正範囲外モンスターが子犬の親だ。
「スキャン」を発動するまでもなく、見た目ですぐにわかる……いやティナはわかってないけど……。
こいつの名前はヘルハウンド。
成体であれば最低でもレベル30くらいはあるはずのモンスターだ。
さっきまでいなかったという事はここ数分の間に魔王のアホが送り込んで来たという事になるな……。
最初に俺が「レーダー」で確認した範囲のぎりぎり外にいて、それからここまで歩いて来た可能性もあるけど、多分違う。
ここがヘルハウンドの主な生息地からはあまりにも遠すぎるからだ。
かなり遠くからよりにもよってここに来て、俺が「レーダー」を発動したタイミングをぎりぎりで避けてここに迷い込む……。
そんな事はあるんだろうか、いやもちろん完全にないとは言い切れないけど。
子犬を連れているなら尚更だ。
この子犬、まだ意志の疎通もろくに出来ないんじゃないか?
試しに「テレパシー」を発動。
(おいちびっこ、聞こえるか?)
(だぁ……? あぶ~)
やっぱり無理らしい。
人間でいうハイハイが出来る様になった子供くらいの感じか……。
とにかくティナには危険だ。
子犬は放っておいて、さっさと薬草を集めてここを離れるのがいい。
しかしそれをどうティナに説明するべきか。
俺がそう思案しているのも露知らず。
子犬を抱っこしながら、ティナはとんでもない事を言い出した。
「ねえジン君、この子の親を探してあげようよ」
「えっ……」
「だってこの辺りだとモンスターも出るし。危ないよ」
きょろきょろしながら心配そうな表情で言うティナ。
たしかに、この犬がヘルハウンドの赤ちゃんだと知らなければ正論だ。
正論である以上、「そんなの放っておいて帰ろうぜ!」なんて言えない。
ティナに嫌われるか、すごく悲しそうな顔をされそうだからな……。
しかし……飛んで火に入る夏の虫。
自らヘルハウンドの成体に会いに行こうとは……。
まあ俺がいれば何とかなるか。腹を括ろう。
「そうだな、そんなに遠くにはいないだろうし、探してみるか」
「うんっ。ありがとう、ジン君」
この笑顔が守れてよかった……。
そう思うくらいの強力な笑顔だ。
ティナは犬の顔を覗き込んで「よかったね。もうすぐパパやママに会えるよ」と話しかけている。
俺もティナを抱っこしてえな……と思いながら捜索を開始した。
捜索とは言っても、俺は既に居場所を知っている。
もちろんそれを言う訳には行かないので、なるべく自然に、かつなるべく早めに親の元にたどり着くように、工夫をしてティナにアドバイスをしていった。
「ティナ、そっちに行くとこいつを発見した場所から離れすぎる。逆の方向を探してみよう」
「あっ……うん、それもそうだね」
戦闘の経験を積ませるという体でスライムはティナに倒せさている。
そんなわけで今、ヘルハウンドの赤ん坊を抱っこしているのは俺だ。
ティナが「抱っこしといてあげなきゃ……少しでも目を離したら危ないでしょ」と言うから仕方なく。
子犬思いのティナ……いいな。
さすがにこいつは小さすぎるから俺たちと戦闘になるなんて事はないけど……。
あと少しでも大きければティナが心配する必要なんて全くない。
心配すべきなのはむしろこの辺りに住むスライムやゴブリンの方なのだ。
「きゅう~ん」
俺の腕の中で鳴く子犬。
まあ……ティナが可愛いって言うのも何となくわかる。
ティナの方が可愛いけど。
しかしティナをうまい事誘導するのは難しい。
気付けば段々と疲れて来ている様だ。
ここに来てからずっと続けて薬草採取をしていたからだろう。
ていうか今気付いたけど、下手に歩かずじっとしてればいいんじゃね?
またも「レーダー」を発動して適正範囲外モンスター……恐らく子犬の親の位置を確認。
最初よりはややこちらに近付いてきている。
向こうもこの子犬を探しているのかもしれないな。
俺は少し大きめの声で、離れた位置にいるティナに話しかけた。
「よしティナ、少し休憩にしようぜ! 親もこいつを探してるかもしれないしな」
「あっ……うん、そうだね」
そう言って、ティナはこちらに歩いて戻って来た。
やはりどこか疲れた表情をしている。
俺が先に座る事で、ティナにもそうするよう促す。
ティナが子犬をじっと見ていたので渡してあげた。
すると、抱っこしながら嬉しそうに頭を撫でてやっている。
「きゅう~ん」
「ふふっ、可愛いなぁ。この子の親も可愛いわんちゃんだったりして」
いや、それはねえだろ……口から火とか出るんだぞ……。
全身黒くて目とか赤いし。
ていうかその子犬もよく見れば怖さの片鱗見せてるからな?
でもそんな事は露知らずヘルハウンドの子供を可愛がるティナ……いいな。
そうしてほのぼのまったりとしていた時だった。
ティナの背後からの葉擦れ音。
少し俺たちとは距離のある草むらの影から、それは姿を現した。
そちらに視線をやると、ティナもそれに気付いた様だ。
「あっ、もしかしてこの子の……」
「ティナ! 俺の後ろに隠れろ!」
俺はおもむろに立ち上がりながらそう叫んだ。
座ったまま背後を振り返った姿勢で固まるティナ。
その顔は振り向くまでの笑みを失い、強張って青く染まっている。
闇から這い出たかの様な全身黒の体毛に深紅の眼。
鋭利な牙を覗かせるその口元からは、僅かに炎が漏れ出ている。
「グルルルル……」
子犬の親……ヘルハウンドの成体がそこにいた。
街道を隔てて左右に緑が広がっている。
穏やかな風が背の高い草花を揺らし、点在する樹々の梢をざわめかせていた。
クエストの目的地……薬草の採取ポイントへと向かう街道は、王都へと向かうものとは異なるために人通りはあまり多くない。
他の街道は全て周辺の村へと通じるものばかりなのだ。
俺たちが今歩いている道も、たまに馬車や旅人がすれ違うのみ。
たまに街道から外れたところでゴブリンを狩っている冒険者もいるけど、そんなに数は多くない。
「う~早く私もゴブリンとか倒せるようになりたいなぁ」
人々が踏み鳴らす事によって舗装された道を歩きながらティナが言った。
その視線はゴブリンを狩る冒険者に引きつけられている。
「ゴブリンだったら装備整えればすぐだろ。あせるなって」
「うん、そうなんだけどね……」
俯きがちなティナの瞳は静かに燃えていた。
早く強いモンスターを倒せるようになりたい。
魔物の脅威に怯える人たちを救いたい。
そんな想いがティナを支配していたりするのだろうか。
やっぱりまだあせっているように見える。
やる気があるのはいいんだけど、ちゃんと見てやらないと暴走するかもな。
だから一言だけ励ましてやることにした。
「まずは今日のクエスト、しっかり頑張ろうな」
「うんっ」
目的地はそこまで遠くなかったので、割とすぐに着いた。
草原の中にぽつりと、他とは違う草の生えている箇所がある。
「ここみたいだね」
「おう、それじゃ早速薬草集めだ」
地図をしまって、せっせと薬草を採り始めるティナ。
俺もそれに倣いながら「レーダー」で周囲を確認してみる。
………うん、近くに適正範囲外のモンスターはいないようだ。
これなら何のトラブルもなくクエストをこなす事が出来ると思う。
もちろん適正範囲内のモンスターはいる。
でも、街道からあまり離れていないこのポイントで出てくるのはせいぜいがスライムくらいだ。
それならティナだけでも何とかなる。
色んな意味でこのクエストを受けて正解だったな。
俺は戦わないに越した事はないし……。
スライムをティナに倒してもらいながら、薬草をのんびりと集めた。
それからしばらくして、そこそこの量が集まって来た時だった。
これまでに集めた薬草を見ながらティナが言う。
「ふぅー、結構集まったねえ」
「ああ……そうだな、あともう少しだ」
「よ~し」
目標まであとちょっとと来て、再びやる気をみなぎらせるティナ。
そしてもう一度薬草を集める作業をしていると。
「きゅう~ん」
まだ赤ん坊かと思うくらいの小さな犬が俺たちのところに寄って来た。
どこから現れ……ん……?
「わあっ、見て見てジン君。可愛い~! すごく小っちゃいけど、赤ちゃんかな? 親はどうしたんだろ」
両手で子犬を両前足の根本を持つようにして抱っこし、「君、パパとママはどうしたの? ん?」と話しかけるティナ。
その光景に癒されたいところだけど、そういう訳にもいかない。
だってこいつは多分……。
「レーダー」を発動して、もう一度周囲を確認してみる。
……いるな……適正範囲外モンスター。
恐らくこの適正範囲外モンスターが子犬の親だ。
「スキャン」を発動するまでもなく、見た目ですぐにわかる……いやティナはわかってないけど……。
こいつの名前はヘルハウンド。
成体であれば最低でもレベル30くらいはあるはずのモンスターだ。
さっきまでいなかったという事はここ数分の間に魔王のアホが送り込んで来たという事になるな……。
最初に俺が「レーダー」で確認した範囲のぎりぎり外にいて、それからここまで歩いて来た可能性もあるけど、多分違う。
ここがヘルハウンドの主な生息地からはあまりにも遠すぎるからだ。
かなり遠くからよりにもよってここに来て、俺が「レーダー」を発動したタイミングをぎりぎりで避けてここに迷い込む……。
そんな事はあるんだろうか、いやもちろん完全にないとは言い切れないけど。
子犬を連れているなら尚更だ。
この子犬、まだ意志の疎通もろくに出来ないんじゃないか?
試しに「テレパシー」を発動。
(おいちびっこ、聞こえるか?)
(だぁ……? あぶ~)
やっぱり無理らしい。
人間でいうハイハイが出来る様になった子供くらいの感じか……。
とにかくティナには危険だ。
子犬は放っておいて、さっさと薬草を集めてここを離れるのがいい。
しかしそれをどうティナに説明するべきか。
俺がそう思案しているのも露知らず。
子犬を抱っこしながら、ティナはとんでもない事を言い出した。
「ねえジン君、この子の親を探してあげようよ」
「えっ……」
「だってこの辺りだとモンスターも出るし。危ないよ」
きょろきょろしながら心配そうな表情で言うティナ。
たしかに、この犬がヘルハウンドの赤ちゃんだと知らなければ正論だ。
正論である以上、「そんなの放っておいて帰ろうぜ!」なんて言えない。
ティナに嫌われるか、すごく悲しそうな顔をされそうだからな……。
しかし……飛んで火に入る夏の虫。
自らヘルハウンドの成体に会いに行こうとは……。
まあ俺がいれば何とかなるか。腹を括ろう。
「そうだな、そんなに遠くにはいないだろうし、探してみるか」
「うんっ。ありがとう、ジン君」
この笑顔が守れてよかった……。
そう思うくらいの強力な笑顔だ。
ティナは犬の顔を覗き込んで「よかったね。もうすぐパパやママに会えるよ」と話しかけている。
俺もティナを抱っこしてえな……と思いながら捜索を開始した。
捜索とは言っても、俺は既に居場所を知っている。
もちろんそれを言う訳には行かないので、なるべく自然に、かつなるべく早めに親の元にたどり着くように、工夫をしてティナにアドバイスをしていった。
「ティナ、そっちに行くとこいつを発見した場所から離れすぎる。逆の方向を探してみよう」
「あっ……うん、それもそうだね」
戦闘の経験を積ませるという体でスライムはティナに倒せさている。
そんなわけで今、ヘルハウンドの赤ん坊を抱っこしているのは俺だ。
ティナが「抱っこしといてあげなきゃ……少しでも目を離したら危ないでしょ」と言うから仕方なく。
子犬思いのティナ……いいな。
さすがにこいつは小さすぎるから俺たちと戦闘になるなんて事はないけど……。
あと少しでも大きければティナが心配する必要なんて全くない。
心配すべきなのはむしろこの辺りに住むスライムやゴブリンの方なのだ。
「きゅう~ん」
俺の腕の中で鳴く子犬。
まあ……ティナが可愛いって言うのも何となくわかる。
ティナの方が可愛いけど。
しかしティナをうまい事誘導するのは難しい。
気付けば段々と疲れて来ている様だ。
ここに来てからずっと続けて薬草採取をしていたからだろう。
ていうか今気付いたけど、下手に歩かずじっとしてればいいんじゃね?
またも「レーダー」を発動して適正範囲外モンスター……恐らく子犬の親の位置を確認。
最初よりはややこちらに近付いてきている。
向こうもこの子犬を探しているのかもしれないな。
俺は少し大きめの声で、離れた位置にいるティナに話しかけた。
「よしティナ、少し休憩にしようぜ! 親もこいつを探してるかもしれないしな」
「あっ……うん、そうだね」
そう言って、ティナはこちらに歩いて戻って来た。
やはりどこか疲れた表情をしている。
俺が先に座る事で、ティナにもそうするよう促す。
ティナが子犬をじっと見ていたので渡してあげた。
すると、抱っこしながら嬉しそうに頭を撫でてやっている。
「きゅう~ん」
「ふふっ、可愛いなぁ。この子の親も可愛いわんちゃんだったりして」
いや、それはねえだろ……口から火とか出るんだぞ……。
全身黒くて目とか赤いし。
ていうかその子犬もよく見れば怖さの片鱗見せてるからな?
でもそんな事は露知らずヘルハウンドの子供を可愛がるティナ……いいな。
そうしてほのぼのまったりとしていた時だった。
ティナの背後からの葉擦れ音。
少し俺たちとは距離のある草むらの影から、それは姿を現した。
そちらに視線をやると、ティナもそれに気付いた様だ。
「あっ、もしかしてこの子の……」
「ティナ! 俺の後ろに隠れろ!」
俺はおもむろに立ち上がりながらそう叫んだ。
座ったまま背後を振り返った姿勢で固まるティナ。
その顔は振り向くまでの笑みを失い、強張って青く染まっている。
闇から這い出たかの様な全身黒の体毛に深紅の眼。
鋭利な牙を覗かせるその口元からは、僅かに炎が漏れ出ている。
「グルルルル……」
子犬の親……ヘルハウンドの成体がそこにいた。
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